クルーズ 5月号
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小樽港で。本物のタクシーは船の横に並び、馬車タクシーも乗客を求めて埠頭へやってきた。

クルーズは毎回同じことを体験するわけではないが、今回セブンシーズ・マリナーでのクルーズはさまざまな得がたい体験を得たと思った。
 たとえば操舵室(ブリッジ)見学ツアー。クルーズ誌2006年11月号の「クルーズのセキュリティー」でも紹介したが、安全上の理由から操舵室ツアーは一般乗客向けには行われていない。それを特別に行ってくれた。船長があいさつした後は、三等航海士が説明を行った。得がたい体験はツアーそのものではない。当日は秋の小雨が三陸沿岸で降り続き、天気は良くはなかった。雲が厚くなり、小雨も降れば視界はとたんに悪くなる。安全航行が優先されるため、双眼鏡を持つ甲板員が二人、それぞれ注意して観察していた。また一等航海士がレーダーなど航海計器類に見入りっぱなしで、神経をとがらせていたように思えた。安全に対する姿勢を間近で見ることができたことがよかった。


カラーチップがたくさん。

 操舵室ツアーは一般乗客に対して行ってはいないが、厨房(ギャレー)ツアーはたいてい行われている。もちろんランチやディナーの準備もされていない空き時間にだ。メイン料理を担当する部署を訪れると、色のついたチップが並んでいた。肉の焼具合を示すためにあるのだそうだ。小型マイクもあり、これで命令をいっせいに伝える。料理が始まれば、厨房は戦争だ。大きな声よりも、マイクでより大声で伝えないといけない。その近くの冷蔵庫には「Speak English At All Time」の張り紙。ここで働けば英語がずいぶん鍛えられるだろうと思った瞬間だが、そういうところには行きたくないとすぐに退却を決断。

冷蔵庫の張り紙。冷たいなあ、と駄洒落も言いたくなる。





 得がたい体験はいくつかしたが極めつけはエステだった。
 「男もすといふ日記といふ物を女もして心みむとてするなり」とは、平安時代の歌人である紀貫之の随筆「土佐日記」の書き出しだ。学生時代に覚えた人は懐かしく感じるだろう。日記は男が書くものというのが常識だった時代に、女を装い書いたものだ。その言葉だけを借り、「女もするというエステを男もしてみるなり」と緊張してドアをあけたのが、セブンシーズ・マリナーのカリタ・スパだった。
 エステは雑誌やテレビCMでよく広告をみかけ、男性用も増えてきてはいる。しかし世界のロイヤルレディーやスター女優が好んで使うというトップ・ブランド「カリタ・スパ」は、その存在は知ってはいても男にとって経験することは無縁の存在だと思っていた。ところがリージェント・セブンシーズでは男も体験することが可能で、日ごろエステに縁がない自分も、試してみたいという好奇心で船内のカリタ・スパを訪れた。
 受付ではオイルマッサージやストーン・マッサージを組み合わせたコースを薦められた。80分で195ドル。予約時間になると、受付で言われたとおり、部屋でガウンに着替えた後、誰にも会わなければいいなと気恥ずかしく思いながらカリタへ足速に行く。受付で確認されてから個室に入る。室内は気分が落ち着くように照明がほの暗く、持っていたかもしれない少しの緊張さえも緩めてくれる。
 最初にオイルを使い、体をほぐしてもらう。よくテレビや雑誌では、庭石の波紋を作るように、背中の筋肉を波立たせるのだが、今それをされているのだろうと感じていた。ストーン・マッサージはその後からだった。数個の石を背中に置いたり、石を背中で滑らすようにマッサージをする。背中だけではなく、石を顔のマッサージでも使ったのは想定外ではあった。80分は早いものですぐに終わってしまった。
 終わってから、自分ではわからないのだが、周囲からは「顔のつやがよくなった」と言われた。自分の顔色さえわからない鈍感な自分ではあるが、気分は確かに軽くなった。にやけているわけではない。でも、どうやら顔にその表情がでてしまうようだ。ただのエステやマッサージを経験したのではなく、ヒーリングとは何なのかを全身で体感することができた。リージェント・セブンシーズだからこそ体験することができた男性用のカリタ・スパ。これは得がたい経験だと思った。
 リラックスしたら欲しいのは酒だ。バーもいくつか巡ったが、お気に入りになったのは、オブザベーション・ラウンジ。弾き語りをしてくれるのに、お客さんが少ないのが残念だったが、夜も11時を過ぎれば、乗客は部屋に戻ってしまったのだろう。でも、そのピアノの弾き語りは自分だけが独り占めしていると思えば最高だ。なるほどこんな気分にさせてくれるセブンシーズ・マリナーでのクルーズは素晴らしいと実感した。

函館港で船体写真を撮るなら、やはり函館山。と思って上ってみると、一足早く船を下りた同室のK氏がすでに撮影中。考えることはみな同じと思った瞬間。
酔った翌日はオプショナル・ツアーも参加せず(できず)、船内に一人残っているとクルーたちの避難訓練を見ることに。これも得がたい体験。
煙突(ファンネル)の下に「Don't climb」(登るな)の注意書き。考えることはみな同じと思った瞬間。