進化するレストランの片隅で
エーゲ海ブルーが印象的な「いしかり」のサントリーニ、ゴーギャンの絵のような「きそ」のタヒチ。同社他2船のレストランは独自の色を持つ。それに対し、生命の星・地球をイメージしたこの船のレストラン、グリーンプラネットは緑と樹木色のテーブルとイスが並び、シンプルさが際立つ。
新船就航時から乗船する夏目拓磨シェフにレストランの第一印象を尋ねると、「壁がなくてオープン」だという。外からレストラン内部が見え、乗客の目もかなり意識せざるを得ない。その分、緊張感が漂い、刺激的であるという。
先代船で1500円だった夕食の価格は2000円となった。
「僚船と同じ価格のレベルにメニューをそろえることができたのは3月末ですね。それからお客さまから、おいしかったよ! という声をいただくことも増えました」と、夏目シェフも相好を崩す。
「きたかみ」限定のコーヒーの持ち出しサービスも好評という。中央部に位置するグリーンプラネットでは海を眺められるテーブルが限られる。そこで眺望のいいプロムナードなどでコーヒーが飲めるようにしたのだ。
創意工夫を重ねつつ、進化するレストラン。その片隅で、先代「きたかみ」の面影を見つけた。壁には柳原良平さんが描いた先代船のイラストが3点飾られている。夏目シェフはしみじみ語った。
「多くの人に愛された先代の姿を、こうしていまも見てもらえます」
見た目も操船もスマート
「いま、『旧きたかみロス』の真っただ中なんですよ」
デビューから新「きたかみ」の操船を行う川尻稔船長は、1月末にこう明かしていた。東日本大震災の発生時、先代「きたかみ」は停泊中の仙台港で津波に遭遇。間一髪で沖に逃れ危機を脱したが、その操船を行ったのが、ほかならぬ川尻船長。多くの思い出のある先代船は愛着の深い船だったのだ。
この秋、再び操舵室に川尻船長を訪ねた。すると「さすがにもう、新船に馴染んでしまいました」と笑顔で話してくれた。
「バウバイザー※があって重厚感があった先代船に比べ、新船はバイザーがなく、船首のつくりもスマート。船の長さに対し、ブリッジやファンネルの位置が絶妙で、かっこいい船型ですね」
操船面でも新船ならではの快適さがあるという。
「先代では1つしかなかったサイドスラスターが2つ増えたことで、苫小牧入港時の回頭がしやすくなりました。また、エンジンを含め、燃料消費を抑えて走ることができるのも、環境に優しいですね」
(※船首に設けられるランプウェイを保護する装置)
もうひとつのスペーストラベル
「苫小牧〜仙台間は夜間航海が長くなります。天気のいい夜はデッキに出て星空を眺める。これはぜひ皆さまに体験していただきたいですね」(中村パーサー)
新「きたかみ」はとかくプロジェクションマッピングの演出が注目されがちだ。しかし、よく考えてみたい。この航路では、満天の星の下でリアルなスペーストラベルを体感できるのだ。
「自然に触れ合うことが、この航路の醍醐味です」という川尻船長の言葉には、船旅の原点が垣間見えた。中村パーサーは言う。
「これまでの太平洋フェリーは、お客さまにショーなどの楽しさを提供してきました。でも、きたかみは船内やデッキで宇宙を感じるなど、自分なりの楽しみを見つけられると思います」
新「きたかみ」のカラーは何か。あえて言うなら、白。スペーストラベルのスペースは「空間」という意味も持つ。「きたかみ」という真っ白な空間に、乗客がそれぞれ自分の色を付けていく。そんな船旅なのかもしれない。