クロワジー・ヨーロッパ
欧州式客船で大河メコンへ、新たなるアジアに触れる
■大河の恵みが食卓に並ぶ
チャウドックからは各国語のガイドが乗船してきて、ホーチミンまで同行してくれることになった。英語、フランス語のほか、日本語のガイドもいる。寄港地での観光ツアーが盛りだくさんなので、気になったことがあればその都度質問できるのは心強い。
ツアーはメコン川と共存する人々の生活が垣間見える内容だ。魚の養殖場を見学したり、土地で信仰対象になっている山に登ったり。山頂から見下ろすと、はるか彼方まで続く湿地帯が望めた。水の部分と陸地との境目が曖昧なせいで、まるで巨大な水たまりのようにも見えた。ところどころ、青々とした水田も広がっている。水辺に建ち並ぶ民家が高床式なのが気になり、ガイドさんに尋ねてみた。
「この辺りは、満潮時には水に沈んでしまうんですよ」。
異文化への好奇心が満たされる一方で、クルーズならではの優雅な船内時間を過ごせるのもインドシナⅡの魅力だ。じめっとして暑い寄港地から戻ると、船内のクーラーのありがたみが大きい。
お待ちかねのディナーは、フランス料理を主体としつつも、アジアンテイストも取り入れたフュージョン料理となっている。驚いたのは、その日に寄港地で見てきたばかりの食材がテーブルに並んだことだ。この地方の名産品である「マム」という発酵させた魚がワインにも良く合う。大河がもたらす自然の恵みを、まさにその大河の船上で味わえる趣向に感激した。
■支流の運河を抜けて
ベトナムに入って二つ目の寄港地はサデックだった。メコン川流域の街らしく、水路が発達しており、大小さまざまな船が行き交う。ここはフランス映画『ラマン』の舞台となったところでもあり、そのロケ地が観光名所となっている。
「サデックの女性はベトナムで一番きれいと言われています。なぜならグエン朝の王様が美しい女性たちを連れて逃げてきたから」。
ガイドが補足してくれた。ラマンは華僑の青年とフランス人少女の恋愛を描いた映画で、日本でも公開当時話題になったことを思い出す。
ベトナム南部のこの地域はメコンデルタと呼ばれる。大陸から流れてきたメコン川は何本もの支流へと別れ、迷路のような入り組んだ運河を形成して河口へと続く。
ミトーという街をすぎると、船はそれら支流のうちの一本に入った。川幅が急に狭くなり、左右の陸地がすぐそこに見える距離まで迫ってきた。インドシナⅡは喫水が1・6メートルと浅く、こうした水深の浅い支流を航行できるのも特徴だ。この運河は水運の要衝で、次々と貨物船とすれ違っていく。1日に4千隻もの船が航行するのだというから舌を巻いた。インドシナⅡはこの運河を通ってホーチミンを目指す。ミトーからは車なら1時間40分のところ、船で行くと8時間もかかる。クルーズ最後の夜をこの運河で明かすと、翌朝にはビルの風景に変わっていた。ホーチミンである。
下船後も午前中はホーチミンを観光する。サイゴン大教会や、その向かいにあるサイゴン中央郵便局などをめぐり、名門マジェスティックホテルの展望レストランでランチを取って解散となった。
全体を通して、特に寄港地ツアーの充実したクルーズという印象が残った。メコン川流域の自然や文化を心ゆくまで体験できる。一般的なツアーではあまり訪れない、船旅ならではの寄港地が多いのも魅力だ。カンボジアやベトナムへは過去に何度も訪れているのだが、新鮮な気持ちで両国と向き合えた5日間だった。
■メコン川・シェムリアップ〜ホーチミン11日間
コース:シェムリアップ(アンコールワット観光)〜カンポンチュナン〜カンポントラック、コーチェン〜プノンペン〜チャウドック〜サデック〜ビンロン(カイベー)〜ミトー〜ホーチミン
※取材は2017年9月17日〜21日プノンペン〜ホーチミン間
クルーズ代金:2,572ユーロ(メインデッキ)〜3,516ユーロ(アッパーデッキ)
船名:インドシナⅡ(クロワジー・ヨーロッパ)
総トン数:1,507トン
乗客定員:62人/乗組員数:30人
(取材協力)
北欧トラベル/ツムラーレコーポレーション