仙台では一時上陸も
翌日は仙台で一時上陸した。筆者の故郷は広島。広島と仙台はよく比較される2大都市で、いずれも日本三景に数えられる名勝地(宮島、松島)がありカキやアナゴなど名物も重なる。一度会わねばと気に掛かっていた遠い親戚を訪ねるようで、なんだかうれしい。
観光スポットがめじろ押しだが、人気のカキ小屋へ行ってみる。焼いた殻付きカキを食べ、広島産と比べてみようというわけだ。さて、仙台のカキは広島のそれと変わらぬふくよかなおいしさ。潮の香りがふんわり漂い、故郷の町の鄙びた海岸がなつかしくなった。
仙台出港後の午後も楽しみが続く。マーメイドクラブの香ばしい焼きたてパンを頬張っていると、いつのまにかピアノ周辺のイスやソファが埋まっていた。目当てはピアノの生演奏だ。美しい音色が響き、しばし船内がコンサート会場となる。
夕刻以降はシアターラウンジでショーや映画を無料で鑑賞できる。この日はポップス&オールディーズの生バンドが登場し、渋い選曲で楽しませてくれた。映画もこれまた渋いチョイスで大好きなクリント・イーストウッド監督の『グラン・トリノ』。映画はやはりスクリーンで見るのが一番、見逃すまいと足を運ぶ。もちろん、船内のWi-Fi設備(有料)を利用して、一人静かに、スマホやタブレットでSNSや動画を楽しむ人も多い。
大浴場で浴槽にゆったりとつかり、朝に夕に表情を変える大海原を眺めるのも格別だ。このように、「きそ」では幅広い世代に喜ばれるよう移動時間の過ごし方への配慮も細やかである。太平洋フェリーは移動しながらも船上ライフを楽しむというコンセプトの先駆け。約40時間というフェリーとしては長めの航程を生かし、輸送手段をはるかに超えるすてきな空間を実現している。
太平洋フェリーが愛される理由
最終日の朝、名所の伊良湖岬を眺めつつ、短くも充実した太平洋フェリーでの船旅を振り返った。クルーズ誌の「クルーズシップ・オブ・ザ・イヤー」のフェリー部門トップを連続受賞。豪華な雰囲気と気品を備えたフェリー。こうしたうたい文句にも納得するけれど、同社フェリーの真なる魅力はもっと奥深いところにある。それはクルーと乗客が作りあげるアットホームな雰囲気だ。いつも誰かが声をかけてくれたから、一人旅であっても「一人ぼっち」と感じる瞬間は一度もなかった。おかげで気力をばっちり充電、元気でいつもの生活に戻れる。近い将来、家族と共に太平洋フェリーに乗船し、逆のルート(名古屋〜仙台〜苫小牧)を楽しもうと心に決めた。
取材メモ
日程:2017年10月17日(火)〜19日(木)
コース:苫小牧〜仙台〜名古屋
運賃:1万800円(2等)〜
5万6000円(ロイヤルスイート)
船名:きそ(太平洋フェリー)
総トン数:1万5795トン
乗客定員:768人
■太平洋フェリー公式サイト