【新しい船が、待っている】飛鳥を継ぐ新造船

【新しい船が、待っている】飛鳥を継ぐ新造船
CRUISE STORY
クルーズストーリー
2021.06.27

この新造船の発表までに5年以上の月日が費やされたという。

その紆余曲折と新造船が目指すところを新造船プロジェクトのキーマン達に話を聞いた。

 

プロジェクトマネージャーの河村洋執行役員(左)と歳森幸恵新造船準備室長(右)。「完成後、ワールドクルーズをぜひやりたいです…!」
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プロジェクトマネージャーの河村洋執行役員(左)と歳森幸恵新造船準備室長(右)。「完成後、ワールドクルーズをぜひやりたいです…!」

 

――発表に至るまでの経緯は。

 

河村洋執行役員(※以下敬称略) 新造船の話は実は2014年からありました。2015年には契約の一歩手前までいきましたが、事情があり断念。2019年にアンカー・シップ・パートナーズが株主になり、新造船計画が一気に進んで契約に至りました。

 

――ドイツのマイヤーベルフト造船所に決めた理由を教えてください。

 

河村 マイヤーベルフトは客船業界ではトップの造船所のひとつです。価格はもちろん重要でしたが、建造実績が豊富であることも決め手でした。最新鋭の客船を造ってきた技術力の高さと経験があります。

 

遠藤弘之取締役(※以下敬称略) 日本でクルーズする日本籍の客船ですから、日本で造りたいという希望はあり、その方法を模索しましたが、残念ながら実現に至りませんでした。

 

――サイズ的には現在の「飛鳥Ⅱ」よりやや大きく、一方で乗客定員は抑えていて、よりラグジュアリー感が出るような気がします。
河村 当初から飛鳥Ⅱ以上に乗客定員を増やす気はありませんでした。その中でLNGタンクを備えた上でどれだけの広さを確保できるかということを考えていきました。

 

遠藤 メンバーそれぞれが希望の施設を盛り込んでいくと、7〜8万トンになりそうでした。それをコンパクトにしていく作業が必要でしたね。

 

――どんな議論でしたか。

 

遠藤 露天風呂を造るのか造らないのか、ダイニングのサイズはどのぐらいの広さにするのか。環境に配慮してLNG燃料を使えるようにしたいなど、多岐にわたっていました。

 

歳森幸恵新造船準備室長(※以下敬称略)エンジンなどの技術的な部分に加え、私達はパブリックを広くしたいという思いがあり……さまざまなせめぎ合いがありました(笑)。

 

河村 実は当初、LNG燃料が使える客船という話はなかったのですが、先を見据えて方針転換しました。

 

――やはり環境に配慮してとのことでしょうが、一方でLNGを補給できる港は限られています。

 

河村 実は先日、横浜港と弊社を含む数社でLNG供給体制に関する覚書を交わしました。LNGに加えて陸上から電源を取る設備も備える予定で、これにより停泊中に燃料をたかなくてすみます。ただ日本では客船が入港するターミナルに給電設備が整備されているところはないと理解しています。この新造船が港のエコ化を進めていくひとつの契機になれば幸いです。

 

――現在の飛鳥Ⅱから受け継ぐところを教えてください。

 

歳森 飛鳥Ⅱは昨年改装しましたが、そのコンセプトに新造船につながる改装を、というのがありました。露天風呂や大型のLEDなどは改装で盛り込まれ、新造船にも設置します。私達は「飛鳥ラグジュアリー」と呼んでいますが、新造船ではワンアンドオンリーのおもてなしをさらに極めていきたいと思っています。

 

河村 変わらないものはソフト面、飛鳥流のおもてなしは脈々と受け継いでいきたいと思っています。

 

――幅広い世代が楽しめる客船というのをコンセプトにされています。

 

歳森 個人の自由を叶えられる客船にしたいです。そのためにはデジタルもうまく活用していきたいですね。客室は全室バルコニー付きになり、居住性を高めるためバーエリアにミニシンクやウォークインクローゼットをつける予定です。客室でゆったりする楽しみも増えると思います。

 

――コロナの影響はいかがですか。

 

遠藤 交渉がすべてオンラインだったのは大変でしたね。細かいニュアンスが伝わらないこともありました。

 

河村 一方で時差を利用して効率的に仕事ができた面はあります。契約前はほぼ毎日オンライン・ミーティングをしていたのですが、こちらの夜、先方は朝にミーティングして、こちらは翌日に、先方はその後の日中に課題について考えられました。

 

――マイヤーベルフトというのはどういう造船所でしょうか。

 

遠藤 とても近代的で機械化が進んでいて、建屋内ですべての作業ができます。全天候型なので、天気の影響を受けず作業が可能です。

 

――その点、工期の遅れなどの不安は少ないのでしょうか。

 

遠藤 マイヤーベルフトでも5万トンサイズの客船でLNG燃料対応は初めてなので、そこは時間がかかるかもしれません。それ以外は予定通り進むと思いますね。ただ畳の客室をドイツ人の方が作ろうとすると大変かもしれないですが……!

 

――この後のスケジュールは。

 

歳森 2023年までは机上で設計の詳細を詰めていく作業が続きます。2023年11月がスチールカッティングの予定で、2025年はドックを出て試運転となります。

 

――2025年が楽しみですね。

 

遠藤 この船で日本のクルーズ文化の未来を切り拓きたい。新しい一面を提案したいと思います。いろいろなお客さまに多様な楽しみを提供できる客船になればと思っています。

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エムス川沿いにあるマイヤーベルフト造船所。川の水位の関係で、船が建屋を出るのは4月か10月のタイミングしかなく、そこでお目見えとなりそうだ
緻密に組まれた工程表
打ち合わせはすべてオンラインで実施。背後にあるデッキプランの図なども、データでやりとりしたという
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