八代港/熊本県「受け継がれるレガシーと恵みの海に出会う旅へ」
【特集】美しき港町へ
いにしえへ心運ぶ豊前街道
山間には人気のワイナリーも
かつて豊前街道の宿場町であり、ノスタルジックな雰囲気にほっこりと和むのが、県北に位置する山鹿だ。1000年余り前の書物に登場する温泉郷で、菊池川の水運により、米などの集散地としても栄えた街だ。
豊前街道は熊本から豊前小倉(今の北九州市)に至る道で、参勤交代路の1つだった。街中を南北に延びる街道沿いには、明治創業の「千代の園酒造」などの老舗や、米蔵を改装した飲食店などが昔ながらに軒を連ね、古き良き日本を感じながら散策を楽しめる。
名所の1つ、芝居小屋の「八千代座」から、さっそく街道を歩く。1910年に完成し、大正時代の姿で平成に再生したこの芝居小屋では、坂東玉三郎、市川海老蔵やJポップのアーティストなどが公演してきた。
中に入れば、開業当時の店々の、復元された広告看板が賑やかに天井とその周りを飾り、両側には八千代座のロゴ入り提灯もともって華やか。客席からは今にも喝采が聞こえてきそうだ。
この少し先にたたずむのが、大正期の建物を再利用した「山鹿灯籠民芸館」。伝統の和紙工芸、「山鹿灯籠」も街の名高いレガシーだ。夏の「山鹿灯籠まつり」で、浴衣の女性が頭に掲げて踊る「金灯籠」はその代表格。館内には、各地の寺院などを細部まで再現した、多くの傑作を展示する。和紙とのりだけで作るとは思えない、その精巧な造形には驚嘆するばかり。
さらに街道を進むと、山鹿温泉の「さくら湯」がある。江戸時代に細川忠利公が造った御茶屋(参勤交代で藩主などが憩い、泊まった施設)がルーツ。1872年に市民温泉となり、2012年に往時の姿で再生した。今も多くの市民が通う。江戸時代に殿さまと重臣用の御前湯、のちに貴賓湯となった「龍の湯」もよみがえっている。見れば、すぐそばの豊前街道を、豪勢な大名行列が進んだ昔へはるかに心誘われる。
郷愁香る街道以外に、訪ねたい美食のスポットがある。まず自社農園も持つ、山間の「菊鹿ワイナリー」へ。雨は電動式レインカットハウスで防ぐなど、栽培の工夫も重ね、「日本ワインコンクール2022」の「欧州系品種・白」部門で「菊鹿シャルドネ樽熟成2019」が最高点で金賞に輝いた。地元産シャルドネによるワインは、トロピカルな風味も伴う柑橘系で、奥深さもある。土地独自の香味が何とも魅力的だ。
一方、裏山のタケノコや山菜など、季節ごとの地元食材による精進料理で名高いのが「日輪寺 南無」。料理は素材自体の醍醐味が口に広がる、体に優しい味わいだ。
境内の、風情ある庭を見下ろす店内では時間もゆるりと流れ、また訪れたくなること必至。八代からの、熊本の旅プランは尽きない。