にっぽん丸が魅せた
雨の「プレミアム」な船旅

「今日のコンサート、予定通りやるみたいですよ」。寄港地観光ツアーの間、乗客の間をそんな話題がかけめぐった。このコンサート目当てに乗船した人も多いだろうから、中止にならなかったのは何より幸いだが、果たしてこの雨で楽しめるのだろうか……そんな不安な思いが頭をかすめる。

 

会場となる熊野速玉大社までのバスを待つ間、船のクルーから「会場では傘をお使いいただけません。カッパをお持ちください」と案内があった。会場がどういう状況か、予想がつかない。バスが停まる駐車場からコンサート会場までは1 0 0メートルほど。その間にも足元にライトがあり、「お足元にお気をつけください」と声がけが何度もあった。

 

そして到着した会場を見て驚いた。ステージにも観客席にもテントが設置されているのだ。大雨の中の開催で、傘をさせなければずぶ濡れかと思ったのは杞憂だった。

 

それにしても、何もなかった玉砂利の境内に、巨大なスピーカーや300席近い客席と創り上げる、にっぽん丸の創造力とは! 設営は午後から、東京からのスタッフも加わり創り上げたという。

 

雨音が次第に強くなっていくなか、続々と乗客が到着する。その間もクルーたちは、少しでも乗客にくつろいでもらえるように、細かい配慮を怠らない。

 

開演時間になり、熊野速玉大社の宮司さんが登場した。いわく「古くから熊野詣をされる方の中には、時には雨で濡れ、泥にまみれたわらじの方もいました。それでも宮司たちは快く歓迎してきました。熊野にはるばる来られたお客さまは、どんな状況であっても大切なお客さまです」と語る。

にっぽん丸が魅せた 雨の「プレミアム」な船旅
ステージの始まる前、巫女さんによる舞も披露され、神聖な雰囲気に包まれた

まさに雨の状況の中でわれわれを温かくもてなしてくれる言葉に、心がホワッと温まる。

 

そして登場した平原綾香さんも、マイクを手にこんな思いを語る。「私は父・平原まことに憧れてサックスプレーヤーを目指していました。父は4年前に天国に引っ越しましたが……、生前『パパと繋がっているってどうしたらわかるの?』と父に聞いたところ、父は『雨だれの音を聞いてね。僕はその音の中にいるよ』とミュージシャンらしい答えをくれました。今日は実は私の誕生日なのですが……雨が降ったのも、意味のある雨をもらったなと思っています」。

 

にっぽん丸が魅せた 雨の「プレミアム」な船旅
歌はもちろん、ウィットに富んだMCでもわかせた平原綾香さん。「宮司さんもイスが濡れないようにカバーをかけてくれていました」と教えてくれた。最後はデビュー曲 「Jupiter」で、壮大に締めた

 

「雨の熊野」を楽しめるもてなし
光輝くなか、新緑が美しく

 

スピーチに続いて繰り広げられた平原綾香さんのステージは、まるで雨の中に天女が現れたかのような、幻想的で圧倒的な歌声だった。大雨であることがまったく気にならないばかりか、むしろ雨だからこそのかけがえのない時間を体験したようで、思わずホロリと涙が落ちる。盛大な拍手を聞いていると、多くの乗客がそんな思いだったのではないだろうか。

 

いざ、帰る際に驚いた。往路で乗ってきたバスに帰路も乗るよう案内があったのだが、バスの並び順が入れ替わっているのだ。

 

「最初に会場に到着したお客さまはきっと体も冷えているから、最初にお帰りいただけるようにしました」と担当者が言う。コンサートの邪魔にならぬよう、誘導の笛も吹かず、そっとバスを入れ替えたという。こんな隠れたところにもにっぽん丸のホスピタリティを感じ、胸が熱くなった。

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