いしかり就航15周年、未来へつなぐ航路
一時下船を利用して末の松山を訪ねる。平安の昔、貞観地震(8 6 9年)による大津波で仙台平野はほぼ一面が冠水した。しかし、宝国寺の裏山・末の松山には届かなかった。これにより、「決して波が越えることがない地」として有名になり、好んで和歌に詠まれる言葉(歌枕)となった。東日本大震災でも周辺の市街地は2メートルも浸水したが、末の松山に避難した人は無事だったという。
正午過ぎに帰船し、サントリーニへ。キーマ、ブラックカラメル、野菜、ほぐし肉の4種の本格カレーやタンドリーチキン、もちもちナンなどが並ぶカレーバイキングのランチを楽しむ。船旅にはやはりカレーがよく似合う。
12時50分、仙台出港。仙台~名古屋。この航路こそいしかりをはじめ太平洋フェリーが創設以来ずっとフェリー部門第1位を獲得する船を輩出し続ける大きな要因になっているのではないか。
そして福島県相馬沖にさしかかった14時20分。船内アナウンスとともに多くの乗客が左舷側デッキに集まってきた。やがて姉妹船「きそ」の姿が現れる。お互いに汽笛を鳴らし合う。きその乗客がこちらに向かって手を振っているのが見える。負けずに手を振り、今後の安航を祈る。きそとの行き合い。それはコロナ禍によって、ラウンジショーが中止を余儀なくされた時期でも乗客を楽しませ続けてきたものだ。15年間変わらぬ、仙台~古屋間でしか楽しめないイベントである。
コロナ禍といえば、いしかり就航10周年がまさにその騒ぎのさなかであった。祝賀イベントもほとんど行われることがなかった。せめて乗組員だけでもささやかにお祝いをしよう。就航10周年ワッペンをつくってみんなに配ったのだという。
廃炉が進む福島第一原発が右舷側にうっすらと見えた。いしかりは福島県浜通りに沿って南下。福島に沈む夕陽がとても美しい。
今航、最後の晩餐。15年前の内覧会で思わず目を見張ったエーゲ海ブルーの壁は、当時と変わらない。ただ、バイキングメニューにはこの間に変化があった。
デビュー当初の目玉メニューだった牛ステーキがローストビーフに。以前はアジアンフェアなど特別企画も行われたが、現在は地産地消のメニューが異彩を放つ。今回の乗船中も東北せんべい汁、三陸産わかめ&めかぶのおくら和え、仙台麻婆焼きそば、仙台麩の卵とじのほか、北海道はザンギ、ちゃんちゃん風チーズ焼き、名古屋台湾ラーメン、名古屋風手羽先のから揚げなどなど寄港地ご当地メニューが楽しめる。変わらぬものといえば、就航当時からの9つのマス目の取り皿。フードロス防止にも役立っていそうだ。
ディナーのあと、デッキへ。犬吠埼の明かりが闇夜に浮かんでいた。もう関東である。
3月13日、朝。いしかりはすでに遠州灘の上。午前8時。伊良湖岬と神島に挟まれた伊良湖水道を抜けると伊勢湾。セントレア(中部国際空港)から旅客機が飛び立った。名古屋港はもうすぐだ。
いしかりデビューから15年間変わらないこと。下船が近づくと船内に流れるオリジナルソング『海上のシネマ』。これを聴くと、ある思いが必ず湧き上がる。もっと乗っていたかったなあ、と。
■スターリンク導入でネット利用がさらに快適に
2026年4月からきたかみ(苫小牧~仙台間)を皮切りに、順次スターリンクを導入し、より快適な通信環境が実現することになった。船内Wi-Fiを使ってSNSでの発信はもちろん、洋上がコワーキング空間になるとは夢のよう。さらに、案内所やショップ、レストランでのキャッシュレス決済導入や、当日の手続きなしで乗船できるスマート乗船の開始など、時代にあわせたバージョンアップを遂げている。いしかり、きそでも7月1日から導入予定だ。
■フェリー定期航路では国内最長
名古屋~仙台~苫小牧は総延長約1330キロメートル。これは国内最長のフェリー定期航路。全区間乗り通すと39時間30分の航海となる。福島県相馬沖での姉妹船「きそ」との反航(すれ違い)や、金華山(宮城県)・犬吠埼(千葉県)・伊良湖岬(愛知県)の眺望などデイクルーズならではの旅情も大きな魅力だ。
■就航15周年記念企画も続々
第1弾として、宮城県亘理(わたり)産いちごを使った「ときめき春のいちご(15)フェア」を船内レストランのディナーバイキングで期間限定開催した(3月27日~4月5日)。いしかり就航と同時に東日本大震災から15年という歩みを共に振り返り、未来へ想いをつなぐ応援企画でもあった。
■国内フェリー初の展望エレベーター
5階から7階まで3層吹き抜けのエントランスにそびえる展望エレベーターは、就航当時、国内フェリー初の設備として話題を呼んだ。いまでこそ国内フェリーでも珍しくなくなった展望エレベーターだが、他と異なるのは古代ギリシャ神殿を思わせるデザイン。従来のフェリーのイメージを一新した。







