「ぱしふぃっくびいなす」、
その土地ならではの味を求めて

CRUISE STORY
クルーズストーリー
2019.08.27

 

●食材の詳細を伝える そして一番大切なものは

 

食事、特にクルーズにおける食事は、味だけが重要なわけではない。むしろどの席で、誰と、どう味わったかの方が、後々印象に残っていることが多い。そうした食にまつわる背景の一端を担っているのが、フードアンドビバレッジマネージャーの福永匡浩さんだ。

 

ディナー前に、福永さんが確認する項目は多い。どのテーブルが誕生日か、何かのお祝いがあるか。お子さんがいるテーブル、アレルギーや減塩など、特別食をご用意するテーブルはどこか、など。

 

そしていざ食事が始まると、前面に出てくるのはウエーターだ。ウエーターはほとんどがフィリピン出身。「彼らにはまず、打ち合わせ段階で細かいところまで確認します。お皿の向きはどこが前か、左右どちらに置くかなど。寄港地の食材をとり入れた料理では、その食材の詳細まで伝えるようにしています」。

 

日本とは違う環境で育った彼らだけに、寄港地と食材がすんなり結び付くわけではないから、丁寧に説明するようにしているそうだ。

ただし、と福永さんは言う。「一番大切なのは、笑顔とあいさつだと伝えています。そして彼らには、自然に笑顔になれるというすばらしい国民性があります。お客さまとは、機会があればできるだけ話をしてくださいと伝えていて。だからこそ彼らの言葉の上達は、目を見張るものがあります」。

 

とある日のランチ時、デザートの「アセロラ水まんじゅう」が運ばれてきたときのこと。ウエーターが「おいしい、おいしい、おいしいデザートですよ」と、ちょっぴりいたずらっぽい笑みを浮かべつつサーブしてくれるものだから、クスッと笑ってしまった。

その反応を見て彼は続けて、「プルプルしていておいしいですよ」とも。またも笑いつつ、ふとプルプルなんていう言葉、よく知っているなと感心したのだった。

 

この船では、クルーと乗客が楽しそうに会話する姿がよくみられる
CRUISE GALLERY
この船では、クルーと乗客が楽しそうに会話する姿がよくみられる

 

●クルーたちの笑顔が食事をさらにおいしくする

 

こうした現場での彼らの所作を、さらに細かく見ているのがヘッドウエーターである奥林久直さんだ。各所のバーの責任者で、料理とワインの組み合わせなども考えつつ、一方でフィリピン人ウエーターの動きを見守る役目も担っている。

 

「彼らにはダイニングを歩くときは、常に周囲を見るように、気を配るように伝えています。なるべく下を向かずに、お客さまのドリンクがなくなっていないかなどをチェックするように。逆にこちらは、彼らが困ったことがないか、気軽に相談できるような環境を整えるように気を配っています」。

 

外国人クルーらを自宅に招待して、彼らに自国の料理をふるまってもらうこともあるという。ウクライナ人のクルーには、当地の水餃子であるペリメン、クロアチア人クルーには、グラタン風のムサカなど……外国の料理名がポンポンと飛び出して話は脱線していったが、これぞ「ふれんどしっぷ」ならではのエピソードだと感じた。

 

奥林さんはほかにも、誰かが誕生日だとミーティング後に「ハッピーバースデー」を歌うこともあると教えてくれた。とあるディナーでも、バースデーソングが聞こえてきたので、誰かの誕生日かなとそちらを振り向くと、なんと乗客の方がウエーターの誕生日を祝っているところだった!

 

ウエーターを筆頭に、食事場所が和気あいあいと和んでいるからこそ、ぱしふぃっく びいなすで味わう食はおいしく、そして何より楽しんで食べられるのだ。

ダイニングに明るい風をもらたすフィリピン人ウエーターたち
CRUISE GALLERY
ダイニングに明るい風をもらたすフィリピン人ウエーターたち
ペンアイコン取材メモ

春の奄美大島・南国宮崎・土佐クルーズ
日程:2019年3月11日(月)〜15日(金)
コース:神戸〜宮崎〜名瀬〜宿毛〜神戸
クルーズ代金:17万2000円(ステートJ)〜72万円(ロイヤルスイートA)
船名:ぱしふぃっく びいなす(日本クルーズ客船)
総トン数:2万6594トン
乗客定員:620人/乗組員数:220人

2019年10月号に掲載
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