独占取材敢行!シンガポールで大改装、新生「飛鳥Ⅱ」の舞台裏

CRUISE STORY
クルーズストーリー
2020.04.27

「暑さもそうですが、最初はコミュニケーションにも苦労しました。英語のコミュニケーションが基本ですが、専門用語も多いですし、また人によっては訛りなどもあるので」と語るのは、今回の飛鳥Ⅱ改装プロジェクトの総監督である大島功太郎さんだ。

 

実際、現場ではさまざまな国の人たちが作業をしていた。郵船クルーズを筆頭に日本人スタッフも多いが、主に現場監督をしているのはシンガポール人とインド人、実作業をしているのはバングラデシュ人も多いという。日本語、英語はもちろんのこと、中国語、ヒンディー語、そして何語か判別もつかない言語が船内で飛び交っている。中堂さんは「だからこそ、一度口で交わした約束は、後からでも必ず文面にして確認し、記録として残すようにしています」という。大島さんも「今回、日本船としては初めて海外のヤードでの改修になり、日々初めてのこと、手探りのことがたくさんあります。ただこうした経験の積み重ねこそ、将来的に郵船クルーズの財産になるのではと思います」。

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総監督を務める大島さん。「センブコープは客船の改修に慣れていて、学ぶことがたくさんあります」
広報用の映像撮影も行われていた。各種の検査を担当する海務チームの矢野美希さんはシンガポールでの入渠工事の経験は2回目という
「乗客に安全・安心なクルーズを」の思い

それにしても、作業現場を歩いていると、実に多種多様な工程があり、多くの作業をしている人がいると感じる。例えば新たに生まれ変わるリドカフェ&リドガーデンを筆頭に、今回の改装で多くのエリアのカーペットが張り替えられる。それにはいったん元々のカーペットをはがし、そしてその上に新たに接着剤を塗り、防火効果のあるクッション材を敷き、そしてまた接着剤を塗り、新しいカーペットを敷く……そうした作業の多くが人の手によって行われている。先に述べた外観の塗装にしても、現在進行中の箇所では、作業員が機械を手に少しずつ古い塗装をはがしていた。近づくのも躊躇してしまうような大きな音の中、彼らは黙々と作業をこなしていく。和洋室には日本から来た職人たちも作業に当たっていた。

 

こうした内装面だけでなく、技術的な面での改修にも多くの人の手がかかっている。大島さんいわく、「造水機を新しくしたり、また推進装置に電気を送るため長年使用した高圧トランスを新しくしたりと、安全運航のために技術面でも各所をバージョンアップしています」。今回飛鳥Ⅱは2020年からスタートする排ガス規制に対応するため、ファンネル部分に排ガス脱硫装置(SOxスクラバー装置)を設置しているが、センブコープの現場責任者であるチャイ・イーシァンさんは「この工程が一番大変でした」と語っている。

 

こうした話を聞くにつれ、今回の大改装に対する思いが少しずつ変わっていった。新しく登場する施設、そこでできる体験はもちろん楽しみだが、この改装はそうした目に見える部分だけでなく、もっと飛鳥Ⅱの根幹に関わるバージョンアップなのだと。女性で例えて言うなら、単に洋服や化粧で表層を美しく見せるだけでなく、もっと体の中から、健康や体調を整えるといったことに匹敵するのだと。そしてその根底には「乗客に安全・安心なクルーズを提供し、環境に優しい船にバージョンアップする」という郵船クルーズの確固たる思いが感じられる。

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カーペットを敷く前、まず防火用の下地を敷く。これも手作業で行われていた
デッキでは溶接工が2人一組になって作業していた
アスカプラザのLEDディスプレイ。広々とした空間に動画が登場、生き生きしたイメージになると感じた
新たなビュッフェカウンターも登場
寿司を提供する「海彦」はよりプライベート感のある空間になった
1000人以上による
細かな作業の集大成

この大改装では数えきれないほどの行程があるが、それを一つずつこなすなかで、大島さんは「慣れてくるとセンブコープは作業員の数も多いですし、一人ひとりのスキルが高いことがわかりました。例えば溶接工なども、溶接の技術が高いんです」と思い至ったという。飛鳥Ⅱの改修工事にはこの日だけで数百人、多い時は1 0 0 0人以上が稼働しているそうだ。

 

滞在する数日間で、その工事のスピードにも驚かされた。昨日までむき出しの床だったところが、翌日には新品のカーペットが敷かれている。アスカプラザに導入される巨大なLEDディスプレイ「アスカビジョン」は、足場が組まれていたのに、次に船内に入ったときには足場はなく放映のテストが行われていた。リドガーデンに新しく登場するカウンターもすでに備え付けられていて、ワクワクさせてくれた。

 

こうしたサービス面に関わる改装を担当するホテル部ホテルチーム長・小山勝利さんいわく、「実際現場に設置してみると、もっとこちらに置いたほうが動線が良いのではないかと、現場で微調整することがたくさんでてきます。図面ではわからなかったことが毎日起こるので、それに随時対処する日々です」と語ってくれた。

 

確かに各所の作業を見ていると、実に微に入り細を穿つ作業が多い。「改装工事」というと、各種の機械が登場し、図面通りにシステマチックに進んでいくというイメージがあったが、実際目にすると技術を持った人々による多くの手作業がなされていた。そうした細かな作業や微調整を1000人以上で力を合わせた集大成が、この大仕事につながっているのだ。

 

センブコープで過ごす時間の最後に、この改装にかかわる多くの人々が船首の前に集って記念写真を撮る時間があった。「飛鳥Ⅱ!」と叫びながら、皆ガッツポーズをする。大きな飛鳥Ⅱの前で一人ひとりは小さいけれど、その人間がたくさん集い、力と技を合わせることで、こんな大きな船を動かし、そして美しく改修している──人間ってなんてすごいんだろうと、静かに感動しながらシャッターを切った。

 

残念ながらこの後、飛鳥Ⅱのみならず世界中の客船が、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、予定していた航程をキャンセルせざるを得なくなった。感染の終息を願うとともに、一刻も早くこのプロジェクトの集大成を実際に目にしたいと、今は気持ちがはやるばかりだ。

飛鳥Ⅱの船首の前でガッツポーズ。多国籍のチームで飛鳥Ⅱが生まれ変わる。新たな船出を楽しみにしたい
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飛鳥Ⅱの船首の前でガッツポーズ。多国籍のチームで飛鳥Ⅱが生まれ変わる。新たな船出を楽しみにしたい
2020年6月号に掲載
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