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【緊急寄稿】コンコルディア事故について―池田良穂教授
外国客船
2012/01/18
今回の「コスタ・コンコルディア」の事故原因について、大阪府立大学大学院の池田良穂教授(海洋システム工学分野)に、現時点での考察をお願いした。詳細は以下のとおり。

「コスタ・コンコルディア」の転覆事故について考える

国際海事機関(IMO)の日本政府代表団の一員として、10数年間、船舶の損傷時の安全性規則の改定に携わり、その新SOLAS条約(海上における人命の安全のための国際条約)が発効した直後に、このような大海難が発生したことには目を疑った。人間がからむシステムに発生する事故のリスクを根絶するのがいかに難しいかを思い知らされた。

インターネット上には、すでにたくさんの写真が掲載されているので事故状況を把握しやすい。まず、目についたのが座礁で開いた破口が船の長さの16パーセントにも及び、しかも船底近くにまで達し、さらに幅方向に深くえぐられていることだ。しかし、不思議なことにその破口は船体の後方に限られ、しかも前方に突き出したフィンスタビラザー(横揺れ防止装置)には損傷がない。船が直進中に岩礁にぶつかれば、船の前方から船底が切り裂かれるはず。損傷状況からは、船は急速に右旋回をしていて、船尾が横方向に移動して岩礁と接触したに違いない。

規定航路から外れて島に異常に接近したことと、この急旋回の原因が何なのかが問題となるが、これについてはヒューマン・エラーが濃厚であり、今後の船長らへの事情聴取で明らかになるだろう。水面下の岩礁はレーダーには映らずとも、電子海図には示されるので、当時操船指揮にあたっていた航海士の技量の問題もありそうだ。ずいぶん昔にはサッカー観戦に夢中になって前方確認を怠って衝突したイタリアのフェリーもあったが、そうしたモラルの問題がなかったのかも検証されるであろう。

さて、ここからは技術的な検証に移ろう。暗い海面で20度程度右舷に傾いて浮いている写真もあったが、この写真からは転覆が近づいているとは思えない。この種の大型クルーズ客船では、復原力(傾いた船が元に戻ろうとする力)がなくなって転覆する限界横傾斜角(すなわち復原力消失角)は40度強はあるはずなので、この時点でまだ転覆の危険はないはずだった。しかし、浸水途中に各デッキにそれぞれ薄く水が溜まると復原力が低下し、この復原力消失角も小さくなることが知られている。

なぜ、左舷が損傷したのに、右舷側に転覆しているかも疑問のひとつだ。左舷側が損傷すれば、左舷の区画に水が入り、まず左舷側に傾く。筆者らの11万トン級船での研究では、最大17度近くまで傾き、その後時間の経過とともに直立に戻る。これが「中間段階の大傾斜」と呼ばれる現象で、おそらく、それを立て直すべく右舷のタンクに水を入れたため、各デッキ上に溜まった水が一気に右舷側に溜まり、左舷側の船側が海面上に出たのであろう。破口が小さい場合には、これで破口が海面上に出て浸水が止まるが、今回の事故で破口が船底近くにまであったので、浸水がその後も続き、無傷の右舷側の各デッキに溜まった海水が排出されずに、船は傾いたまま海岸に打ち寄せられて座礁、横転となったと考えられる。

IMOでは、最近、巨大クルーズ客船の退船避難に潜む危険性から、客船自体が損傷後も乗客乗組員を載せて近くの港まで帰る能力をもつことを義務付けた。これを「安全なる帰港に関する要件」と呼ぶ。ハード面での安全性を高めるためのものだが、船員に大型船の「安全神話」、「不沈神話」を作ってしまい、これが退船の遅れにつながったことも危惧(きぐ)される。これも今後、検証すべき事項であろう。

文=池田良穂
大阪府立大学大学院海洋システム工学分野教授
日本クルーズ&フェリー学会会長







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