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【特別寄稿】韓国フェリー沈没事故について――池田良穂教授
業界
2014/04/25
16日、韓国で起きたフェリー「セウォル」(6,586トン)の転覆・沈没事故について、大阪府立大学・大学院教授の池田良穂教授(海洋システム工学分野)に、現時点での考察をお願いした。詳細は以下のとおり。

【特別寄稿】韓国フェリー「セウォル」の転覆・沈没事故について

韓国でのフェリー転覆事故の映像をテレビで見て、一瞬、2009年に起きた熊野灘沖での「ありあけ」の事故映像なのかと見間違えた。船の形もよく似ており、大傾斜して今にも転覆しそうな姿もそっくりであった。

「ありあけ」の事故は、高速航行中に後方から大きな波を受け、復原力(※1)が一気に減少して、大傾斜し、車両甲板上のコンテナやトレーラーが横に移動して40度近くの大傾斜したもの。乗客はヘリコプターで救助され、船長は大傾斜したままの船を果敢に操縦して、熊野灘の砂浜に乗り上げさせ、沈没をかろうじて免れた。

沈没した「セウォル」は、この「ありあけ」と同じ長崎の造船所で建造され、同じ日本の海運会社が沖縄航路に使用していた準姉妹船で、「ありあけ」よりは若干小ぶりのRORO型(※2)旅客カーフェリーであった。

●海難の原因

この「セウォル」の海難の原因は、船員の証言や船舶自動識別装置(AIS)の航跡図から特定することが可能だ。仁川港を濃霧などのために約2時間遅れて出港した同船は、ほぼ全速で済州島に向かって航海しており、航路の変針地点で3等航海士の指示で右に舵を切った。この3等航海士は、この水域での運航は初めてで、出港が遅れた関係で当直がたまたまこの変針の時間帯にあたったという。ただし、舵を握っていた操舵手はベテランで、同航海士の指示で舵を切ったが、それが一般には考えられない急速なものとなったと伝えられるが、それが舵の故障なのか、ヒューマンエラーによるものなのかは、本原稿執筆時点ではわからない。筆者は、当初は小型漁船などの他船を避けるための非常処置だったのかと思ったが、そうした証言は今のところ出てきていない。

急旋回をすると、船は外側に傾斜し、これを「外方傾斜」という。同時に遠心力も働き、傾斜と相まって、船上の人や荷物には旋回円の外側に滑り落ちる力が働く。この横傾斜角は、旋回が急なほど、また船の復原力が小さいほど大きくなる。この危険性は、船の世界では周知の事実であり、船の建造時にも危険なほどの大傾斜にならないように設計されている。船乗りであれば、自分の船がどの程度のスピードで、舵を切った時にどのくらい傾くのかは知っているはずで、荷崩れが起こるほどの大傾斜をしないように、慎重な操船が行われているはずである。

●カーフェリー船型の特徴と危険性

「セウォル」の船としての特徴に、転覆に至った原因はないのかを明らかにしておくことは、今後の同種の海難を防ぐためには大変重要であろう。船の復原力は、積み荷の状況だけでなく、船型にも大きく関係している。青函連絡船「洞爺丸」(※3)の海難を契機として、日本で復原性規則がつくられ、これをベースにした国際規則が国際海事機関(IMO)によって制定されている。これを契機にして船の転覆事故は少なくなり、その後の事故は、過積載(荷物の積み過ぎ)や重心が高くなるような積み付けなどのヒューマンエラーが原因であることが多い。

例えば、復原力に余裕のないコンテナ船では、1個ずつのコンテナの重さに基づいて適正な復原力となるようにコンピューターで計算をして積み付ける。カーフェリーの場合には、1等航海士が積み付けの指揮をする場合が多く、その能力に負うところが大きい。重たいトラックやコンテナはできるだけ下のデッキに、軽い乗用車などを上にと適切に積載することが、実際の航海時の復原性を左右している。「セウォル」の場合、ブリッジ前方にあるデッキ上のコンテナの重さも重要だ。

高速客船では、波による復原力の減少の配慮も重要なポイントだ。後方または前方からの波で、波長が船の長さに近いとき、波の山が船の中央に来たときに大きく復原力が減少する。特に、後ろから波を受ける追い波では、波の進行速度と船の速度が近くなると、こうした危険な状態が長く続く。前述の「ありあけ」の大傾斜は、これが原因とみられており、国内でも同様の大傾斜事故を起こしている高速フェリーは少なくないという。

「セウォール」が事故を起こしたときには、波は高くなかったといわれており、その事故の数日前からの天気図を調べてみたが、この海域が荒れていた形跡は見られなかった。しかし、横転した同船の写真には突き出したフィンスタビライザーがはっきりと写っていた。これは、海はある程度は荒れていたことを示唆しており、改造や積み付けによって、もともとの復原力が小さくなっていれば、波からの影響でさらに復原力が小さくなり、急旋回による横傾斜が異常に大きくなってもおかしくはない。船底部の燃料タンクの油が消費されたり、バラスト水が不足したりするとさらに重心は上昇する。

●浸水時のRORO型船の危険性

車両甲板に浸水したときのRORO型船の危険性については、「洞爺丸」だけでなく、欧州での度重なるカーフェリー事故によって指摘されている。広い車両甲板に海水が溜まると、重心が上がるのと、水が自由に偏る「自由表面影響」で復原力を消失して一気に転覆するので、多くの犠牲者を出すことが多い。800人以上の犠牲者を出した1994年のバルト海でのカーフェリー「エストニア」の事故以来、多くの研究が行われ、IMOの規則も強化されている。

ただし、この規制強化は、船が衝突して損傷したときを想定したものである。今回のように、船自体に損傷がないときにも、こうした危険性が存在することを、今回の事故が明瞭に示したと言える。損傷がないまま大傾斜しても、「ありあけ」のように40度程度で傾斜が安定すれば車両甲板には浸水せず転覆もしない。しかし、復原力がなくなる「復原力消失角」を超えるとすぐに転覆、またはそれより小さい角度でも船内に浸水する開口が没水する「海水流入角」を超えると沈没する。

「セウォル」の場合には、復原力が小さかったため旋回時の車両甲板でのコンテナおよび車両の荷崩れによって、海水流入角を超えてしまい、浸水が進んで横倒しとなり、さらに浸水して沈没したものとみられる。一気に完全に反転した転覆状態にならなかったのは、荷崩れした貨物が左舷舷側にたまり、横倒れ状態における重心が下がって安定したためであろう。この状態で救助された乗客・乗員も多い。

その後、船体全体に浸水して完全に転覆状態となったが、船首は水面近くにあった。これは船首部の車両甲板下の水密区画に溜まっている空気のおかげである。

●船員の救助

船員の乗客救助にはかなりの疑問が残る。客室乗務員で、最後まで乗客の救助、誘導にあたった女性乗組員が亡くなっているが、他の船員が船内に残る乗客を誘導せずに、船を離れたことは犯罪行為に近い。緊急時は、まず最上部甲板の所定のマスターステーションに乗客を誘導し、船長から全員退船の指示があれば、船員がライフラフト(救命いかだ)を降ろして、乗客から移乗させるのが鉄則だ。

今回の場合には、ほぼ横倒し状態になるまでの時間は短かったと考えられるが、そこから船内の空気が抜けて沈没するまでの時間はかなりあったはずだ。船内に留まらずに、できるだけ上の甲板へと誘導しなかったことが悔やまれる。

(※1)復原力=傾いた船が元に戻ろうとする力
(※2)RORO型船=車両を収納する車両甲板を持つ貨物船。ランプウェイがあり、車両を自走させて積み込むことができる
(※3)青函連絡船「洞爺丸」=1954年、台風により沈没。死者・行方不明者1,000人以上を出した

文=池田良穂
大阪府立大学大学院海洋システム工学分野教授
日本クルーズ&フェリー学会会長

〈SHIP DATA〉
船名:セウォル
運航会社:清海鎮(チョンヘジン)海運
船種: RORO型旅客カーフェリー
総トン数:6,586トン
全長:145メートル
型幅:14メートル
初就航:1994年







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