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【特集】アフターコロナのクルーズ新時代 第8回 シルバーシー糸川雄介日本・韓国支社長

2020.06.25
業界

第8回 シルバーシー・クルーズ糸川雄介日本・韓国支社長に聞く、
ラグジュアリー市場と業界の未来

エクスペディションを含めたラグジュアリー客船を運航し、近年は日本発着クルーズも行うシルバーシー・クルーズ。業界に長く携わる同社の糸川雄介日本・韓国支社長に、運航再開に向けた対策と業界全体で取り組む今後の課題について聞いた。

●運航再開に向けたシナリオ

――まず、シルバーシー・クルーズの現在の状況について教えてください。

糸川雄介支社長(以下略) 現在、7月31日までの運航中止を発表しています。カナダが年内は乗客定員100人以上の客船の受け入れを禁止するとしており、弊社もアラスカ、カナダ・ニューイングランド、北極方面のクルーズ中止を決定しました。

クルーズ中止の発表については、どの期間までキャンセルするのか精査して動いていることや、お客さまへのキャンセルのご案内、返金、フューチャークルーズへのご案内などを含めて手続きに時間がかかるという理由から、1カ月単位で発表しています。

――今後、運航再開に向けてどのようなスケジュールを考えていますか。

運航再開に向けては最短・最長で運航できる場合などいくつかシナリオを考えていますが、後ろ倒しになっている状況です。弊社ではガラパゴス、カリブ海、南極の3つのエリアで運航再開の目途が少し見えてきています。地中海やアジアの秋シーズンについても調査中です。地域もさることながら、船は動かせても発着港までの飛行機での入国制限も関わってくるので、そのあたりも調査しながら再開に向けて進めています。

弊社に限った話ではありませんが、ノルウェー発着でノルウェー人向けのクルーズ、フランス発着でフランス人向けのクルーズなど、まずは一国のお客さまだけを乗せて地元発着で運航するという方向性に進みつつあります。弊社としては当初のスケジュールを実施するというのが第一前提ですが、航路を変えての運航についても模索しているところです。

実は新規の予約も増えてきています。4月20日~5月3日までの数字を見ると、2020年の予約は約1,000人、2021年は約2,500人ほど入ってきていて、予約者の国籍は米国、英国がほぼ7割を占めています。コロナ禍であっても米国や欧州の予約者が多い理由としては、クルーズ先進国であり、クルーズに対する理解が進んでいるということでしょう。

エリアでいうと、2021年のコースではエクスペディションの予約が増えています。人のいない自然豊かな場所に行きたい、乗船地までの飛行機での移動距離が少ないクルーズが好まれるなどの傾向があります。

●ラグジュアリー客船ならではの強み

――再開する際にはどのような感染症対策を考えていますか。

感染防止策については、弊社も傘下であるロイヤル・カリビアン・グループが策定中の全世界向けの独自のヘルスプロトコルに準じつつ、シルバーシー・クルーズ独自のものを現在策定しているところです。

まだ決定していませんが、弊社独自のものとしては、乗船3日~5日前までにお客さまにPCR検査を受けていただく、寄港地で使用するバスではドライバーとお客さまとの間にアクリル板を設ける、現地ガイドのPCR検査を義務づける、昼食は外では食べずに必要であれば船から持ち出すなどを考えています。

これはラグジュアリー船社全般にいえることですが、もともとキャパシティーに余裕があり、シアターも少人数、ビュッフェに関してもスタッフが盛り付けをしてくれたり、ルームサービスを利用する方も多いです。そのため、オペレーション上の変更は実はあまりないと思います。

クルーズは船社、乗下船する国、寄港する国・自治体などの対策に基づき、感染者が出た場合の受け入れ先の確保、船内の導線など多岐にわたった細かい対策が必要となります。

全世界でクルーズ船社との対策が比較的先行しているのがアジアです。各クルーズ船社が上海市政府との間で中国向けのプロトコルをすでに作っています。内容は乗船前のスクリーニングから、船内の換気方法、N95のマスクや消毒液などの備蓄品の確保など。また、感染者が出た場合の船内オペレーションについては、グリーン(非感染者)・レッド(感染者)・イエロー(濃厚接触者)ゾーンに分離し、感染者は病院に、濃厚接触者はホテルに、非感染者は下船させるといったより詳しい内容になっています。

現在、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)とクルーズライン・インターナショナル・アソシエーション(CLIA)で全世界向けのガイドラインが作られていますが、各国によって新型コロナウイルスの感染状況は違います。まず一国のお客さまだけを乗せて運航するなら、その国の一般生活上のプロトコルに合わせたものを作り、その国とのやりとりだけで進められます。だから日本でいうと、日本船での国内クルーズがまず最初になるのではないでしょうか。

●業界全体で呼びかけるクルーズの安心・安全

――今後、日本でのクルーズ再開に向けての課題はどのようなところにあると考えますか。

日本国内では、クルーズは限られた人の旅行スタイルという位置づけでしたが、この10年でクルーズ人口も増え、誰もが乗れるものになってきました。そこでこういう事態となってしまったことで、クルーズに対する懸念をわれわれがどう払拭していくか、というところが課題であると思います。私もクルーズ業界に携わり26年になりますが、もう一度初心に戻ってクルーズの安心・安全に対する誤解を解いていかなければなりません。

今までは国内の港湾、特に地方であれば外国船社に対して誘致を行うなどウエルカムな状態でしたが、今後はそうはいきません。港側にも地元の方々にも時間をかけて説明し、信頼を築いていく必要があります。

――そのためには、具体的にどのように動いていく必要があるでしょうか。

今後の運航再開に向けての道筋を作っていくには、業界全体で「クルーズ復活宣言」のような強いメッセージを出す必要があると思っています。中国には、国、港湾、クルーズ船社、旅行会社で形成されるChina Cruise & Yacht Industry Association(CCYIA)という団体があり、3月末に保健省との間で運航再開に向けての対策を取り決め、4月時点ですでにクルーズ再開に向けて準備を進めているいうリリースを出しています。

このように国や行政を取り込んだクルーズ業界全体を取りまとめる団体があれば、こういった問題が起きたときに、団体と厚生労働省との間でひとつのガイドラインが出来上がってくるので、再開に向けての準備も比較的早く進められるのではないかと思います。

日本の場合はやり取りが細分化されてしまっているところがあるので、今の枠組みでは業界全体としては非常に動きづらいと感じました。私ももともとは日本船社に携わっていたこともあり、日本のクルーズ市場を大きくしていくためには、日本船社がイニシアチブを握ることで、市場を強固に拡大できると考えています。しかし、こういう状態となってしまった今では、日本船社や外国船社といった枠を取り払い、国・船社・旅行会社が一体となってクルーズをピーアールしていかなければならない事態であると考えています。

―「CLIA JAPAN」や何らかの新しい組織での取り組みを考えているという話もお聞きしました。

当初、外国船社全体でオンラインミーティングを始めたときに、国に対する要望をひとつに取りまとめてお願いできるようなオフィシャルな団体が必要ではないかという話が出ました。

まずは、日本外航客船協会(JOPA)という既存の団体の中で、外国船社の分科会のようなものを作れないかという提案をしました。弊社も4月から賛助会員となっていますが、日本船社をベースとしつつも、外国船社の情報共有やクルーズに関する日本の取り決めを共有するなど、外国船社でひとつのまとまりがあってもよいのではないかと話をしています。

もうひとつは、CLIAや任意的なグループを通じた取り組みです。CLIAのワーキング・グループや任意的なグループを作り、再開に向けた情報共有や政府との交渉を行うのはどうかということになりました。

最終的な決定はまだですが、外国船社のプロトコルなどをまとめて国と共有し、またわれわれ外国船社の本社とは、日本での必要事項を共有していこうと思っています。

――今後、日本での販売プロモーションはどのように進めていく予定でしょうか。

日本国内でいうと、まずは日本船の国内クルーズが再開し、次に外国船の日本発着クルーズ、もしくは外国船の日本寄港となり、外国へのフライ&クルーズは最後になるでしょう。弊社は2021年は5回の日本発着クルーズを予定しているので、そこが挽回のタイミングになるだろうと思っています。

クルーズ復活宣言が出せた暁には、「GoToクルーズキャンペーン」などを国としてやってもらえないかという申し入れを業界全体でできないかと考えています。復活宣言と一緒に実施できれば、クルーズ全体でもかなりのメリットがあると思います。

――弊誌読者ならびにシルバーシー・クルーズのファンに向けて、メッセージをお願いします。

クルーズのリピーターの方々は再開を心待ちにしてくださっている一方で、クルーズに対する不安を持たれている方々には少しでも安心・安全を感じていただけるようにお伝えしていかなければなりません。まずは限られた部分だけになってはしまいますが、一日でも早くお客さまを船上でお迎えできるように頑張っていきたいと思っておりますので、もう少しだけお待ちいただければと思います。

※このインタビュー実施後、シルバーシー・クルーズは今秋まで運航停止期間の延長を発表した。
https://www.cruise-mag.com/news.php?obj=20200624_07

【特集ページ】
https://www.cruise-mag.com/special/2020afc/index08.html

写真はシルバーシー・クルーズ糸川雄介日本・韓国支社長

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