大自然の恵みがつくりだす
アラスカの多彩な世界
その町々をホーランド・アメリカ・ラインの客船で快適にめぐりながら、氷河の絶景だけではない、アラスカの奥深さに触れた。
写真・文=横川ちひろ
朝5時にセットしたアラームで目を覚まし、身支度をしてデッキ11船首のクロウズネストへと向かった。窓の外はまだ暗く、船内もひっそりとしていたが、クロウズネストだけは違った。本を読んだり、軽食を持ち込んだりしながら、すでに何人もが待機している。このラウンジは進行方向に窓が大きく採られていて、待ち受ける絶景を見るのに格好の特等席なのだ。
今回乗船したのはホーランド・アメリカ・ラインの「ユーロダム」で、ジュノー、シトカ、ケチカンなどとインサイド・パッセージをめぐるコース。
ホーランド・アメリカのアラスカ航路は2017年に就航70周年を迎え、同社がとりわけ得意としている。長い歴史と実績ゆえ、一日に2隻しか航行が許されていないグレーシャーベイ国立公園の航行に優先権を持つ。乗客たちが朝早くから胸を高鳴らせて待つものこそ、同社のアラスカクルーズのハイライトの一つ、このグレーシャーベイ・クルージングである。
●期待のグレーシャーベイ航行
辺りがほの明るくなった頃、グレーシャーベイ国立公園に突入した。霞がかっているが、はるか奥まで稜線が続いているのがわかる。船内には公園のレンジャーと先住民族クリンギット族の女性が乗り込んで、アラスカの気候や取り巻く環境、生息する野生動物などについて説明してくれた。
その後、前日の夜に客室に届けられていた公園の地図や各ポイントの通過時間が記された資料を握りしめ、デッキへと向かった。グレーシャーベイを航行する間は、特別にデッキ5〜7の船首部分が開放されるからだ。
レンジャーは航行中、グレーシャーベイにより親しめるよう船内放送でサポートしてくれ、それは船内のどこにいても耳に届く。
「右舷の岩肌にマウンテンゴートがいます」。アナウンスが流れると、皆が一斉に右舷側へと顔を向ける。高性能そうな本格的な双眼鏡を持つ人も多い。目を凝らすと岩肌に白くぽつぽつといるのが目視できた。岸辺でブラウンベアの親子が歩く姿や、氷に乗って流れてくるアザラシも見られた。
野生動物探しに興じた後は、最深部にあるマージェリー氷河、アザラシが多く生息するジョン・ホプキンス氷河へ。氷河を目前に静止する船上から、氷が海に流れ込む迫力ある景色をしばし見つめる。この2大氷河は今もなお、拡大を続けているのだという。
ほどなくして、船は右舷側、左舷側のどちらからでも氷河が見えるよう旋回。ベランダ付きの客室からなら、この絶景を一人占めしているように感じられただろう。
●船内でも知識欲を満たす
ホーランド・アメリカ・ラインでは全船を通じて、寄港地を深く知るためのプログラム、エクスプロレーションセントラル(EXC)を展開している。寄港地に見識の深いガイドが乗船していたり、その地に暮らす人や専門家による学びのプログラムを豊富に実施。アラスカクルーズでも、グレーシャーベイ航行日のように、歴史や環境、文化についての聞きごたえたっぷりの内容から、名産のサケ5種類の覚え方や野生動物の雄雌や個体の見分け方などすぐにでも活用したいものまで内容は幅広い。
訪れる前のアラスカのイメージはとにかく氷河の絶景、だったが、氷河だけでない大自然の壮大さや、野生動物の姿、先住民族の暮らし、文化を知るほどにアラスカの魅力が奥深いことを実感した。
そして感心してしまうのが、クルーがとても物知りなこと。見どころやグルメについて、特にディナーの時間には話がとても弾んだ。ホテル・ディレクターに話を聞くと、同社の自慢はクルーだという。「皆、アラスカに詳しいから、寄港地のこともどんどん質問してみて」と胸を張って語ってくれた。
こうした船上の体験でますますかきたてられた興味を胸に、各町へと繰り出すことになった。