日本初のミュージッククルーズ乗船レポート【後編】
事件あり、笑いあり!
Mighty Crown主催レゲエクルーズ、クライマックスへ

日本初のミュージッククルーズ乗船レポート【後編】 事件あり、笑いあり! Mighty Crown主催レゲエクルーズ、クライマックスへ
CRUISE STORY
クルーズストーリー
2023.09.22
Mighty Crownが「MSCベリッシマ」をチャーターして行った、
日本初のミュージッククルーズ「Far East Reggae Cruise」に乗船した。
レゲエをテーマに行われたこのクルーズの模様をレポートする後編。
いよいよクルーズはクライマックスへ……!
写真=Junya S-Steady(●印)、REAL☆SHOT MASATO(★印)  文=吉田絵里 
Fareast Reggae Cruiseでは毎夜、6デッキのガレリアで朝までパーティーが行われていた。4日目の夜、「BACK TO THE HARDCORE」と題された一夜は、ここが日本の洋上とは思えない、ディープかつ熱い雰囲気だった(●)

日本初のミュージッククルーズ乗船レポート【前編】はこちら

 

ステージに現れたFreddie McGregor(フレディ・マクレガー)は、車いすに乗り、介助が必要な状態だった。脳の病気をしたとのこと、客席からも半身が不随なように見受けられた。それでもジャマイカから遠路はるばる、長距離フライトを経て、このレゲエクルーズのステージに上がったのだ。その事実だけで、なんだか胸がいっぱいになってしまった。彼を動かしたのは、Mighty Crownへの愛と尊敬だろうか。

 

観客の不安そうな目をはねのけるかのように、Freddie McGregorは名曲にあわせて歌い出す。その歌声はきっと往年のスイート・ボイスとは違うのだろうが、渋みと凄みがあった。観客を見つめる目力も強い。レゲエファンでなくても聞けばなじみのある名曲を披露する姿は、強烈な存在感を放っていた。気づけば、涙が頬をつたってくるのを感じる。周囲を見渡すと、同じように涙を流す乗客は少なくなった。いまこの瞬間を閉じ込めてしまいたいような、奇跡的な時間だった。

Freddie McGregorの前にステージに登場したCHINOが、彼の歌を支えた。ステージの皆が真っ白ないで立ちで、どこか神々しささえ感じた(★)
CRUISE GALLERY
Freddie McGregorの前にステージに登場したCHINOが、彼の歌を支えた。ステージの皆が真っ白ないで立ちで、どこか神々しささえ感じた(★)

ちなみにFreddie McGregorのステージには後日談がある。このクルーズにはほかにジャマイカからBEENIE MAN、WAYNE WONDERという2組の来日が予定されていた。ただし2組とも諸事情により直前のキャンセル。その空いた穴を埋めようと、さらには前日のロンドン・シアターに入れなかった乗客のためにと、なんと4日目のプールデッキのステージにも自らが志願して姿を現したのだ。そのサービス精神たるや!

 

驚いたのは、昨日のロンドン・シアターで見るよりも、さらに声に艶があり、パワフルだったこと。昨日、そして今日と進化を遂げている往年のアーティストの姿に、またも胸に熱いものがこみあげてきた。

 

ちなみに最終日の下船時、ギャングウェイでFreddie McGregorとすれ違った。「2日間のショーは最高だった!」と伝えると、レゲエ界のレジェンドはじっとこっちを見て、「I’ll be back!」とゆっくり手をあげてくれた。これもまた映画のワンシーンのようで、心に深く刻まれたシーンだ。

 

ただしこうした感動のステージだけで幕を閉じないのが、レゲエクルーズだ。3日目の夜にはまた6デッキのガレリアで、今度はオールホワイト・パーティー。Mighty Crownの二人はもちろん、その場にいる全員が真っ白な服に身を包み、ダンスに次ぐダンスを楽しんでいる姿は圧巻だった。

 

このクルーズ唯一のドレスコードが「オールホワイト」、見事に真っ白な人波!(●)
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このクルーズ唯一のドレスコードが「オールホワイト」、見事に真っ白な人波!(●)
もちろんMighty Crownも真っ白なコーディネート。上から見下ろす景色も壮観だった(●)
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もちろんMighty Crownも真っ白なコーディネート。上から見下ろす景色も壮観だった(●)

思えばその日の日中は済州島に寄港したのだ。友人とともにサムギョプサルを食べ、オルレ市場で名物のオレンジを絞ったフレッシュジュースを飲んだりもしたのだ。そうした「外国の街をそぞろ歩き」という特別なイベントすら遠い昔のように、この船では次々と奇跡的な瞬間が訪れる。

 

「いやあレゲエクルーズ、濃いね~」。その前にプールサイドで言葉を交わした乗客とガレリアでばったり合い、乾杯しながらそんな言葉を交わした。船内あちこちで同じような乾杯が交わされていたはずだ。

済州島では西帰浦(ソギッポ)に寄港。足を延ばしてサムギョプサルを味わう
このクルーズではオルレ市場までのバスも出ていた。市場では名物のフレッシュオレンジジュースを
西帰浦(ソギッポ)と言えば必ず名が上がる名所、オルレ市場。屋台も多く出ていて、食べ歩きを楽しむ乗客も
オルレ市場に並ぶキムチのバリエーションの多さ。こうした異国情緒ももちろん感じられるクルーズだった

●完璧な「夏休み」と悩ましいディナー時間

 

4日目は熊本寄港。じりじりと照り付ける太陽の下、カラフルな出で立ちの乗客たちがターミナルでさまざまな「くまモン」と記念写真を撮っている。くまモンポート八代には各種出店もあって、アイスクリームなど飛ぶように売れていた。早めに船内に戻ったら、ビール片手にデッキで寝そべる人も多い。太陽が照るクルーズ船のデッキとレゲエとビールとくまモンと……と、あまりに完璧な「夏休み」の姿に、思わず頬がゆるくなる。

多くの人がくまモンと一緒に記念写真におさまっていた

今年の夏は酷暑だったが、MSCベリッシマのプールデッキなら怖いものはない。ザブンと飛ぶ込めるプールやエアコンのきいたビュッフェレストランもすぐそばだ。そしてプールデッキにはハンバーガーやポテトが、そしてビュッフェには選ぶのを迷うほど多彩な料理が並ぶ。

 

ただし実のところこのクルーズで難しかったのが、食事の時間だ。通常のクルーズと同様、このクルーズにもメインダイニングでのフルコース料理が含まれていた。しかも昼~深夜まで設定されているイベントに配慮して、ディナーは時間内ならいつ行ってももいいフリーシーティング制だ。

MSCクルーズはイタリアのDNAを継ぐ船社だけに、パスタには外れがなかった。普段目にしない、豆状のパスタも
フルコースディナーのデザート。メインダイニングのメニューは写真付きで、オーダーしやすいのもよかった

とはいえ、この日も寄港地熊本で遊んでからプールで泳いで着替えたら、もうすぐ観たいステージが迫っているという状況。結局は優雅にフルコースを食べている時間も少なく、ビュッフェでサッと済ませた。それは多くの乗客も同様で、メインダイニングよりもビュッフェのほうが常に人出があった印象だ。

 

MSCベリッシマのビュッフェには焼き立てピザもあれば、日本人シェフ監修の和食もあり、予想以上にクオリティーが高かった。それはこのレゲエクルーズ以外の自主クルーズでも同様で、MSCベリッシマは外国船でありながら日本人にマッチした料理のセレクションで、ストレスが少ないのも人気の理由だろう。好きな時間に好きなものを味わえる自由度も、このレゲエクルーズにマッチしていた。

 

しかもMSCベリッシマのビュッフェは24時間中20時間営業(!)。深夜~早朝に踊りすぎて小腹が減ったのか、普通のクルーズなら閑散としていそうな時間に、MSCクルーズ自慢のピザを囲んで「カンパーイ!」としているグループが多かったのも、レゲエクルーズならではだ。

 

プールサイドやビュッフェでは、MSCベリッシマの料理を監修する日本人シェフ、杉浦仁志 エグゼクティブシェフ特製のテリヤキバーガーも
メインダイニングにもビュッフェにも和食が並んだ。陸の和食と比べても遜色なく、明太子やイカの塩辛といった外国船では珍しいおかずも

さらにいえば、このクルーズではドリンクパッケージを付けている乗客が圧倒的に多かったのではないだろうか。深夜のガレリアには出張バーが出きていて、深夜でも飛ぶようにビールやカクテルが出ていた。いつもと違って深夜までクルーは忙しかったかもしれないが、よくよく見ると誰よりも激しく踊っているクルーもいたりして、乗客からの歓声をあびていた。クルーにとってもいつもとはひと味違ったクルーズだったのではないだろうか。

 

ちなみに陽気な酔っ払いはたくさんいたけれど、泥酔者や、ましてはケンカなどには一度も遭遇しなかったことはきちんと書いておこう。

 

●事件は起きた……! それでもクルーズでのフェスは極楽すぎる

 

4日目の夜もまた、ドラマチックだった。16時30分からプールデッキではFUJIYAMA SOUNDによるステージが開始。横浜が織りなす縁でCRAZY KAN BANDの横山剣、HAN-KUN、DOZAN11 a.k.a三木道山とステージが続く。

 

Mighty Crownは6月にHAN-KUNとの初コラボレーションとなる配信シングル「傷が絆に feat. HAN-KUN」をリリースしている。これまであったわだかまりが、今は絆になっているという率直な内容の楽曲で、HAN-KUNは洋上で丁寧に歌い上げた。ここに至るまでにさまざまな軌跡を経て、各アーティストもMighty Crownもこの船に集っている。そう思うと、やっぱりこの瞬間が尊いものに感じた。

柔らかい歌声と歌唱力で乗客をHAN-KUNワールドに引き込んだ(●)
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柔らかい歌声と歌唱力で乗客をHAN-KUNワールドに引き込んだ(●)

この日も横浜レゲエ祭筆頭に、レゲエ関係のフェスには欠かせないバンドHome Grownがサウンドを支えていた。初日から大活躍の彼らのサウンドは、ますます太く、タイトに。Home Grownはこのレゲエクルーズのために、なんと過去最高の130曲(!)を仕込んできたという。影の立役者ともいうべき彼らの存在には、アーティストも乗客もひたすら感謝するばかりだ。

Home Grownの、130曲も演奏する演奏力、体力に驚く。2011年に亡くなったメンバーでパーカッション奏者に触れ、「シンジマンも観てるよね」と語られるシーンも(●)
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Home Grownの、130曲も演奏する演奏力、体力に驚く。2011年に亡くなったメンバーでパーカッション奏者に触れ、「シンジマンも観てるよね」と語られるシーンも(●)

そんな彼らの出番が終わり、次なるジャマイカ人アーティストT.O.Kのステージに転換しようと、ジャマイカからやってきたRUFF KUTT BANDがセッティングを始めたところ……事件は起こった。

 

非情にも空から大粒の雨が落ちてきたのだ。

 

最初はテントを出してしのごうとしていたが、雨脚はさらに強まっていく。ただしステージでマイクを握っていたSAMI-Tは、その状況を楽しむかのように笑いながらマイクを握って言った。「ジャマイカから来れないっていうなら、俺うたっちゃうよ?」。急きょ乗船がキャンセルになったWAYNE WONDER、BEENIE MANのヒット曲を歌いだしたのだ。というそのエンターテイナーな姿勢と、それを盛り立てるように強くなる雨脚に、観客もヒートアップ! こぶしを挙げ笑い声をあげ、デッキにたたきつける雨と呼応するように踊る。

 

「びしょ濡れになっても大丈夫、歩いてすぐにキャビンに戻れるからな!」とマイク越しまくし立てるSAMI-T。そうそうなのだ!と頷く観客たち。熱帯のスコールのようにザーザーと振り出したところで、「みんな、いったん解散~!!!」というSAMI-T大声が響き、服が張り付くほどびしょ濡れになった観客は、大笑いしながら散り散りになった。

 

大雨が降りしきるなか、マイクで盛り上げるSAMI-Tとヒートアップする乗客たち

結局その大雨はすぐに通り過ぎ、船内放送でT.O.Kのステージが10分後に開始されることがアナウンスされた。観客は皆その間に客室に戻り、ずぶ濡れになった服を着替え、何事もなかったかのようなパリッとした装いでプールデッキに再集合した。

 

そう、とにかくこのレゲエクルーズは音楽を楽しむ場所として、最高に楽なのだ。雨に降られて濡れればすぐに客室に着替えに戻れるし、日差しが強ければすぐに帽子を取りに戻れる。ステージも食事場所も徒歩5分以内だし、さして並ばずにバーでビールもカクテルも手に入る。何しろ船内には20カ所ものバーがあるのだ! なにひとつ我慢せず、ストレスフリーで心ゆくまで音楽を楽しめる最高の場がこのMSCベリッシマだった。

 

そんな事件を経て始まったT.O.Kのステージは、さすが全世界に名をとどろかすとあって華があった。手をあげる観客の中に混じって、MSCベリッシマのクルーも手を振り、腰を振っている。

 

私自身、T.O.Kを「横浜レゲエ祭」で生で鑑賞したのは20代か。あの時は観客のジャンプで横浜スタジアムが揺れた気がした。40代になった今、今度はさらに環境が整ったクルーズ船上でまたもT.O.Kを生で見られている。Mighty Crownのおかげで、しっかり大人の階段をのぼれたのでは……なんて思う。

プールデッキ全体が情熱的な赤に染められたT.O.Kのステージ。乗客はもちろん、クルーにとっても特別な光景が広がる一夜になったのではないだろうか(★)
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プールデッキ全体が情熱的な赤に染められたT.O.Kのステージ。乗客はもちろん、クルーにとっても特別な光景が広がる一夜になったのではないだろうか(★)
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