日本初のミュージッククルーズ乗船レポート【後編】
事件あり、笑いあり!
Mighty Crown主催レゲエクルーズ、クライマックスへ

●人生最初で最後の『君が代』シチュエーション

 

そんな感傷に浸ったところですぐに、次なるドラマがやってくるのがこのレゲエクルーズだ。デッキ6のガレリアで深夜12時過ぎ、Mighty Crownが日本で見せるラストのプレイ「Back To The Hardcore」が始まった。「俺らがレゲエにはまった頃に散々聞いていた曲」というMasta Simonのコメントともに、まさにハードコアな曲が次々とかかる。ひょっとしたら80年代~90年代のNYやジャマイカのクラブはこんなディープな雰囲気だったのだろうか。

 

King Turboののちに登場したStone Love Roryはジャマイカ国歌に続いて『君が代』をプレイ。MSCベリッシマのきらびやかなガレリアで、観客は『君が代』で大盛り上がりしているのはどこか不思議な光景だった。ここはNYかジャマイカか……!? いやいやMSCベリッシマの、今ここだけの瞬間だ。きっとこんなシチュエーションで『君が代』を大盛り上がりしながら聞くことは、この先の人生ないだろうな……と思うと、ちょっぴり寂しい思いがした。

デッキ6のガレリアで行われた「Back To The Hardcore」。知られざる名曲の数々は、特に古くからのファンに響いたのではないだろうか(●)
CRUISE GALLERY
デッキ6のガレリアで行われた「Back To The Hardcore」。知られざる名曲の数々は、特に古くからのファンに響いたのではないだろうか(●)

●現実に目をつぶりたい最終日、苦笑を生んだコール&レスポンス

 

最終日となる終日航海日に目覚めたときも、やっぱり昨夜感じた寂しい思いを引きずっていた。クルーズの最終日はいつだって名残惜しいが、こと凝縮されたレゲエクルーズはなおさらだ。遅めのビュッフェレストランには相変わらずちょっぴり気だるい乗客が集っていたが、その姿すらなんだか愛おしい。

 

この日もプールには燦々と太陽が照り付けていた。若干のスコールはあったけれど、3日目以外はほぼ好天に恵まれ、ほぼタイムスケジュール通りに進んできたのに改めて感心する。ジャマイカから来日予定だったWAYNE WONDER、BEENIE MANが乗船できなかったのは残念だが、もはや船上にいる誰もが、そのことは過去のことにしていた。「なんかドタキャンするような気がしたんだよね~」なんて笑いつつ。

 

もはや制服のようになった水着で、プールデッキでレゲエを聞きながら極上タイムを過ごす。「今日が最終日だって信じられない!」と、顔見知りになったママ同士、名残惜しく語らう。本当は翌日の下船のための荷造りをしなければならないのだけど……プールにいた全員が現実に目をつぶって、最後の太陽を楽しんでいた。

プールデッキでのパーティーで、トロピカルないでたちと多彩なサウンドで沸かせたDJ SARASA(●)
CRUISE GALLERY
プールデッキでのパーティーで、トロピカルないでたちと多彩なサウンドで沸かせたDJ SARASA(●)

日も傾き、18時半からプールデッキでの最後のアーティストショーがスタート。本来は4日目の予定だったジャマイカ人アーティストのBarrington Levyが登場した。エンターテイメントの世界で長く活躍するアーティストだけに、リリースされている音源と変わらぬステージは、さすがプロ。ただし「音源と変わらぬ」と感じたのは前半のみで、後半は本人も興に乗ったのか、観客を巻き込んでのコール&レスポンスが続く。「More&More&More&More~!!!」と、くどいまでに引っ張るその姿勢に、Mighty Crownの二人も「嫌いじゃないね!」とちょっぴり苦笑い。

 

その後20時半からのCHEHONのスキルフルなステージに魅了されていたら、やっぱり「ディナー迷子」になってしまった。いつでも開いているビュッフェのありがたいこと! 慌てて食事をかきこんで、ダンディなPAPA Bのステージに魅了される。

アドリブを交えつつ進んだCHEHONのステージ。滑舌の良さで、メッセージがダイレクトに伝わった(★)
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アドリブを交えつつ進んだCHEHONのステージ。滑舌の良さで、メッセージがダイレクトに伝わった(★)

●アーティストも乗客も、ひとつ大きな船に乗って

 

この日のアーティストステージのトリにクレジットされていたのは、CHOZEN LEE。「俺の名前がクレジットされていたら、みんな期待するでしょ?」というコメントともに、彼が所属するFIRE BALLのメンバーがステージにそろった。活動休止していた彼らはレゲエクルーズに先立つ「横浜レゲエ祭2023」で久々に4人勢ぞろいでステージに立ったが、まさかレゲエクルーズでも4人勢ぞろいするとは! 聞けば先日の熊本でメンバーの一人クリスがギリギリ乗船できたらしい。

 

サプライズに満ちたステージに、観客は一斉に跳ねた。その瞬間、MSCベリッシマは世界中の洋上で一番歓声があがっていた船だったはずだ。

FIRE BALLのメンバー4人が勢ぞろいしたフィナーレ。最後にはメンバーの娘たちもステージに上り、アットホームな雰囲気に(●)
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FIRE BALLのメンバー4人が勢ぞろいしたフィナーレ。最後にはメンバーの娘たちもステージに上り、アットホームな雰囲気に(●)

最後はステージに立ったアーティスト勢ぞろいで、即興で歌うラバダブの時間。初日から今日まで登場したアーティストらが続々とステージに表れた。ステージからあふれんばかりのアーティストの数々だ。それを見て「みんなこの5日間同じ船に乗っていたんだなあ」と感慨深くなる。

 

130曲を演奏しきったHome Grownのメンバーは、人並みに埋もれながら最後に『ONE LOVE』を演奏。アーティスト、そして観客全員が夜の海に向かって声をあげる時間には、まさに奇跡のような一体感があった。

ステージにみっちりとアーティストが並んだ、最後のラバダブ。まさに「Big Ship Family」な時間。ただしBarrington Levyが呼ばれたのに行方不明になるというプチ事件もあり、またも笑いが……! 終始ハートフルなクルーズだった(★)
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ステージにみっちりとアーティストが並んだ、最後のラバダブ。まさに「Big Ship Family」な時間。ただしBarrington Levyが呼ばれたのに行方不明になるというプチ事件もあり、またも笑いが……! 終始ハートフルなクルーズだった(★)

アーティストショーの後はMighty Crown最後の見納めとなる18デッキのスカイラウンジへ。6デッキのガレリアが深夜の華やかなパーティー会場なら、こちらは隠れ家クラブのような雰囲気だ。ラバーズロックの名曲『Lovin’ You』などに身をゆだねていたら、ハッピーな曲なのに猛烈な寂しさがこみあげてきた。もういよいよクルーズが終わろうとしている。

 

●後悔も残った航海、だけど乗ったことには一抹の後悔もなし

 

実のところ、このクルーズで後悔はたくさんあった。途中で力尽きて、コンタクトをしたまま化粧をしたまま寝入ってしまったあの晩。「明け方、やばかったっすよ」と教えてもらって、「失敗した!」と後悔した。

 

ちょっと小腹がすいたタイミングでステージを離れた隙に、聞きたかった曲が演奏されたと知った瞬間も。日焼けしすぎて肌がヒリヒリしたのももっとケアしておけばよかったし、顔見知りになった人の連絡先も聞き忘れてしまった。

 

エレベーターで「もっとたくさん服を持ってくればよかったー」と後悔している女子たちもいたし、「昨日飲みすぎて覚えてないっす」と語った青年も憂鬱な顔をしていた。みんな大なり小なり、後悔をしていた。今クルーズのキャッチフレーズは「後悔しない航海を」だったのに。

 

だけどおそらく乗船した人、そして参加したアーティスト誰一人として、このクルーズに参加したことは1ミリも後悔していないはずだ。最初にして最後の「ミュージッククルーズ」。それは時間とお金をかけて参加する価値がある、伝説のクルーズだった。

 

クルーズ後、これでもかというほど周囲から「レゲエクルーズ、どうでした?」と聞かれた。「最高でしたよ」と伝えつつ、ちょっぴり複雑な思いになった。そこには言葉や文字ではこのクルーズを伝えきれないという劣等感と、そしてそれを実際に自身で体験できた優越感が入り混じっていた。さらにはそんなクルーズがもう終わってしまったという喪失感と。

 

下船後しばし「レゲエクルーズロス」に苛まされたのは、私だけではないだろう。「もう一回あったら、次こそ後悔しない過ごし方をするのに!」という未練を残しつつ。

 

「みんな楽しかった? あと人生で一回ぐらい、またクルーズやってもいいかもな」。最終日のステージでSAMI-Tはそう言って笑っていた。その言葉が現実になることを、今はただただ願っている。

 

ペンアイコン取材メモ

Far East Reggae Cruise

日程:2023年7月15日(土)~20日(木)

コース:横浜~済州島~熊本~横浜

クルーズ代金:18万8000円~65万円

船名:MSCベリッシマ(MSCクルーズ)

総トン数:17万1598トン

乗客定員:5655人

 

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