【前編】洋上に出現したジャマイカ!
MSCベリッシマが音楽の楽園になった6日間
FAREAST REGGAE CRUSE2025レポート

そのクルーズは日本外航客船協会(JOPA)が主催する「クルーズ・オブ・ザ・イヤー2023」を受賞したことでも知られるFAR EAST REGGAE CRUSE。日本発着クルーズを数多く行っている「MSCベリッシマ船上で行われた、類のないミュージッククルーズの様子をお届けしよう。
2023年7月に初開催された日本初のミュージッククルーズ「FAR EAST REGGAE CRUSE」。日本人にはなじみのクルーズ船となった「MSCベリッシマ」(16万7,600トン)をチャーターして行われたもので、日本が世界に誇るレゲエのサウンドシステム(※1)Mighty Crownが主催した。そのクルーズは“洋上のレゲエフェス”として多くの音楽ファンの間で話題になっただけでなく、その年の日本外航客船協会が主催するクルーズ・オブ・ザ・イヤーのグランプリを受賞するという快挙を成し遂げた。
Mighty Crownは、サウンドクラッシュ(※2)の世界大会で何度も優勝し、世界中のレゲエ好きからも注目される存在。日本国内でも横浜スタジアムで行われた「横浜レゲエ祭」に3万人を集めたトップアーティストだ。筆者はその存在やレゲエシーンの盛り上りはもちろん知っていたし、前回クルーズ後のSNS上の「やばい」「最高の音楽フェス」などの評判を目にし、実際に乗船した友人の絶賛の感想も聞いていた。
それでもレゲエは若者中心のカルチャーでは? リタイアした年配の人が乗客の中心層であるクルーズ旅行に合うのか?と疑いにまみれた印象を持っており、そこまで興味を持っていなかったのが正直なところだ。
そんななか、1年のブランクを置いて2度目の「FAR EAST REGGAE CRUSE」開催の報を耳にした。先の友人の熱の入った感想を聞き、「体験しないとわからない」という言葉に心動かされ、乗船を決めた。
ちなみに多くの乗客同様、筆者はクルーズ旅行自体が初めての参加。そんな筆者がどんな体験をし、どんな感想を持って下船したのかを綴っていこう。
(※1)移動式の音響システムと、そのシステムを運用するDJクルーを指す。スピーカーセットなどを所有し、セレクター(選曲担当)、MC(マイクパフォーマンス担当)などで構成される
(※2)サウンドクラッシュ:サウンドシステムがいかに観客をわかせられるかを争うバトル形式のショーケース
【前回のFAR EAST REGGAE CRUSE 2023レポート】
●日本初のミュージッククルーズ乗船レポート【前編】
衝撃の連続だった……! Mighty Crown主催レゲエクルーズ
●日本初のミュージッククルーズ乗船レポート【後編】
事件あり、笑いあり! Mighty Crown主催レゲエクルーズ、クライマックスへ

初日、ゆりかもめで東京国際クルーズターミナルへと向かう。「あれがMSCベリッシマだよ」という友人の言葉にも「ふーん、大きいね」程度の感想だった。友人のフフフという含み笑いの意味もわからなかったが、船が近づくにつれその大きさに圧倒されることになる。これは……巨大マンション? これが海に浮かんでいるのか? 想像をはるかに超えるスケールに驚きと得体のしれない期待にテンションが上がっていると、友人は「初めて見る人はみんなそのリアクションだよ」と笑った。
さていよいよ乗船だ。陽気なクルーたちの出迎えを受け、ゴージャスなレセプションフロアを抜けると、スワロフスキーで飾られた、輝かしいらせん階段が目に入った。さすがは大型客船らしい豪華なインテリアだと思いつつ、BGMで流れる南国の緩やかなレゲエのリズムとのギャップに微笑みが生まれる。よく耳を澄ませば、そのBGMはレゲエの名曲の数々。聞けばMighty CrownのSAMI-T&COJIEが自らセレクトした数十時間にも及ぶ“間違いない”プレイリストだという。このこだわり、乗客を細部まで楽しませようと言う主催者Mighty Crownの本気度がうかがえる。


流れていたボブ・マーリーを口ずさみながらキャビン(客室)に到着。今回は海側のバルコニーが設けられたキャビンで、収納スペースやソファもあり、快適に過ごせそうだ。なによりデッキチェアが完備されたバルコニーがいい。ここから眺める太平洋はさぞ美しいことは想像に難しくない。停泊中のバルコニーからは、100メートルほど先の東京港のコンテナや、その先の街並みが見えた。そう、そのときはまだ見えていた……。
早めに荷ほどき終えたので、船内を一通り見て回る。広々としたビュッフェやレストラン、有料で楽しめるカフェやバー、さらにスペシャリティレストラン、ウォータースライダー付きのプールやゲームコーナー、キッズエリア、スポーツジム、スパ、カジノetc…。ライブがなかったとしても暇を持て余すことはないであろう充実の施設だ。


そんな船内を陽気なレゲエミュージックを聴きながら一通りチェックしてキャビンに戻り、バルコニーから外を見ていると雲行きが怪しくなった。視界はどんどん暗くなり、雷の光とともに雨が降り出したかと思えば……瞬く間に嵐のような様相になった。さっきまで見えていた景色が一切見えないくらいの集中豪雨だ。耳をふさぐほどの雷が鳴り響き、スマートフォンからは警報の通知が届いた。おいおい大丈夫か? と不安に駆られる。いやいや初のクルーズ、幸先が良いとは言いづらい微妙な気分に。
しかし出航の時間が近づくにつれ、またも様相が変わってきた。なんと雨はだんだんと小雨になり、ついに出航前に雨が上がった! 先ほどまでの土砂降りはなんだったのか……なんだかあっけにとられながらのクルーズの始まりだ。
出航を記念したセイルアウェイパーティー、トップを飾るのはもちろん、Mighty CrownのSAMI-T。今年の1曲目として選ばれたのはFreddie McGregorの「Big Ship」。前回のレゲエクルーズに参加し、感動のステージを披露した大御所の名曲だ。
直前の大雨の不安を吹き飛ばすように、「もう船は出航してるぜ!」「雨が全ての邪気を洗い流してくれた、この旅はすばらしいものになる!」とSAMI-Tが興奮気味に叫ぶ。わき上がる歓声に、旅への期待感は一気に高まった。何よりSAMI-Tの昂ぶりが、乗客にダイレクトに伝わってくる。


SAMI-Tの観客への問いかけによると、初参加とリピーターの割合は半々くらいか。年齢層は30~40代が一番多そうだが、レゲエファンらしく着飾った10代~20代の若者も少なくない。そして下は1歳以下からのベビーや子供達も多く、さらには白髪交じりの乗客も目に付き、とにかく幅広い。
MCで印象的だったのが、SAMI-Tの「俺たちはカルチャーのためにこのクルーズをやっている」という言葉。世界的に見ても前例のない規模のミュージッククルーズの開催。これだけ大きな船をチャーターするのだから、経済的なリスクもあるだろうし、それに対するプレッシャーもあるだろう。それでも2度目の開催を決めたのは、レゲエというカルチャーを根付かせ、広げていきたいというトップランナーの責任感だろうか。前回、そして今回も、クルーズ業界の悲願である「若年層の取り込む」という成果を見事にクリアし、クルーズカルチャーの可能性を示したのだから、Mighty Crownの功績には恐れ入る。






