コロナ禍明け、クルーズ船の変化とは
日本では国際クルーズが本格運航!
この3年、コロナ禍によってクルーズの世界にはどんな影響があったのか。
2023年3月1日は、日本のクルーズの歴史にとって新たな1ページが刻まれることになった。コロナ禍を経て、3年ぶりに外国客船「アマデア」が日本に入港したのだ。再開第1号としてこの時アマデアを受け入れたのは、清水港。コロナ禍でも日本船の運航再開に際し、積極的に受け入れていた清水港が、ここでもまた存在感を示した。 このアマデアを皮切りに、当初のスケジュール通り、日本に続々と外国船が来航。コロナ禍の3年は延期が続いていただけに、乗客も関係者も「いよいよクルーズの世界は元に戻った」と胸をなでおろしたはずだ。 さらに潮目が変わったのは、5月8日の5類移行だ。それまでは多くの船会社が日本寄港、発着クルーズにはワクチン接種証明を求め、また乗船時にPCR検査を実施していた。それが5月8日以降、ワクチン接種証明もPCR検査も撤廃する動きが加速、コロナ前と同様の乗船手続きに戻った船会社が多かった。
●進む洋上のDX
ただし3年に及んだコロナ禍は、クルーズの世界にさまざまな影響を与えた。特にDX(※=デジタルトランスフォーメーション。デジタルテクノロジーを使用して、ビジネスや市場の要求を満たすプロセス)と感染症対策の2点は、この3年は大きな進歩があったのではないだろうか。 その象徴が、オンライン・チェックインの導入だ。ロイヤル・カリビアン・インターナショナル(R CI)、MSCクルーズ、キュナード・ラインなど、多くの船会社が乗客に事前にオンライン・チェックインを求めるようになった。
こうしたオンライン・チェックインのみならず、特に大型船では船内アプリの導入を推進している。アプリ上ではチェックインはもちろん、事前にショーや有料レストラン、スパの予約などが可能だ。多くの場合、事前にアプリ上で予約するほうが、乗船後に船内で予約するよりも割引がある。こうした船会社の戦略がDX化を推し進めている。 これらDXの先鋒が、プリンセス・クルーズの「メダリオン」だろう。メダル型のデバイスを身につければ、客室のドアが開いたり、自分のいる場所にドリンクなどを届けてもらえたりする。日本発着クルーズを実施している「ダイヤモンド・プリンセス」にも導入されており、好評を博している。
船会社がDX化を進める背景には、オペレーションに携わる人員の削減が挙げられる。船会社がクルーズ船を運航する上でのコストとして大きいのは人件費であり、その削減につながるのだ。 一方でDX化は感染症対策にもつながっている。例えばオンライン・チェックインをすれば、乗船時に乗客と乗組員の対面でのやりとりが減る。さらにアプリでは各種の予約ができるし、船内で使った費用も自動で計算されるので、乗客がカウンターに足を運ぶ機会も減っている。 さらに言えばDX化はペーパーレスにもつながっている。船会社のアプリにはスケジュール管理機能があり、行きたいイベントなどをリスト化できたりする。RCIなどはすでにこの機能を備えており、多くの海域で船内新聞を廃止している。ペーパーレスは環境対策はもちろんだが、チェックイン時同様、接触の機会を減らす感染症対策も兼ねている。 一方でデジタル機器にハードルを感じる人にとっては、ストレスに感じることがあるだろう。
●感染症対策もバージョンアップ
DX化のみならず、物理的な感染症対策も、この3年間で強化されている。例えば船内各所に置かれている消毒液の数は、コロナ禍前よりもずっと増えている。さらに乗客や乗組員の意識も変わり、食事前にきっちりと手を洗う人が増えたのではないだろうか。ダイニングでウエイターが出迎えがてら、乗客一人ひとりに消毒液を一押しするサービスをしている船会社もある。 医務室のバージョンアップも、コロナ禍を経てなされたことだ。多くの客船が船内でPCR検査ができる体制を整えた。配置されている医師や看護師もコロナ禍に感染症対策の研修を改めて受講するなど、多くの船が医療体制をアップデートしている。 またこうした感染症対策の一環として、乗組員に対するトレーニングも数多く行われた。正しい清掃・消毒の仕方や、船内で感染症が発生したときの訓練だ。陸のホテルなどに比してそれらの訓練が行われる機会は多く、その点でもコロナ禍を経てクルーズ船はより安心して遊べる空間となっている。
●日本発着にも響く乗組員不足
この3年におけるクルーズの世界の変化は、こうしたポジティブな面がある一方で、ネガティブな一面もある。 そのひとつが乗組員不足だ。これは日本近海に限らず、世界中のクルーズ船で起きている課題だ。さらに言うと、クルーズ業界だけでなく、陸のホテルでも同様に、人材不足が深刻だという。
クルーズ船でもホテルでも、感染拡大が深刻な時期に休業を余儀なくされた。クルーズ船の乗組員には、例えばフィリピンやインドネシアなど各国から出稼ぎに来ている人も多い。彼らはいったん母国に戻り、その後転職し、現在まったく違う仕事をしているケースが少なくない。 こと日本発着クルーズを実施する外国船に関しては、3年間ずっと日本に配船できないままだった。いざ本格的に配船が決まり、そこからクルーを募集してアサインしてトレーニングして……となると、最低3カ月はかかる。各社、人材と時間が限られている中での日本配船なのだ。
ウエイターなどサービス部門の乗組員でも、日本発着クルーズで初めて日本に来たという人も中にはいるだろう。 外国船による日本発着が再開された当初、こうした慣れない乗組員と英語に不慣れな日本人乗客の齟齬もあったと聞く。ただしこうしたコロナ禍による変化が背景にあったことを考えると、致し方ない部分もあるだろう。 外国船は一度乗船すれば船内は基本的に外国だ。乗客としては、日本国内にいるのとは違った言語やサービスの仕方を楽しむ姿勢があってもいいだろう。多国籍の環境に慣れた乗組員たちは、おそらくあっという間に日本人向きのサービスを取得するから、むしろリピートしてその変化を楽しみたい。
●準備も船内サービスも変化
こうした乗客の心構えも準備も、コロナ禍前後でさまざまに変化した。
例えばこれまではクレジットカード付帯の海外旅行保険があるからと特に保険に加入していなかった人も、クルーズに参加するのに当たって、保険を見直す機会は多いだろう。特に日本から海外に寄港するクルーズの場合は、船会社が海外旅行保険の加入をすすめるケースも少なくない。
また常備薬の見直しをした人も多いと聞く。いざというときに検温できるように、多くの人が体温計をスーツケースに入れている。
クルーズにマスクを持っていくか、着用するかは、個人の裁量に任されている。ただし陸上でもマスク率が下がっているように、洋上でもマスク着用率は減っている。外国人乗客に関しては、海外同様マスクを着用している人を見つけるほうが難しい。
船内のサービスもコロナ禍前に戻ってきている。外国船では社交ダンスが復活し、ダンスホストが乗船する船もある。また他の乗客とテーブルをシェアする場面も増えている。ダイニングでメートルディーにほかの乗客と一緒に食卓を囲みたいと伝えれば、マッチングしてくれる船は少なくない。船内でのコミュニケーションが好きな人にとっては、いよいよ待ち望んだ「社交」の復活だ。
コロナ禍を経て、船旅の楽しみは変わったことがある一方で、ダンスや社交といった、これまでと変わらないところもある。まだ乗船に踏み出せなていない人も、そろそろ洋上の楽しみを復活させてはいかがだろうか。