【祝就航!】「三井オーシャンサクラ」が受け継ぐもの、新たに描くもの

にっぽん丸が引退して約4カ月。伝統を受け継ぐところと、新たな時代を拓いていくところと。
初めて船内に足を踏み入れ、同船の船内とそのバックグラウンドを紐といていく。
■受け継いだ歴史とともに
「サクラ」の名で新たな船出へ
9月16日、横浜港・新港ふ頭。雨が降りしきる中だったが、その中にたたずむ商船三井クルーズの新たな客船「MITSUI OCEAN SAKURA(三井オーシャンサクラ)」はどこか凛として見えた。
船内のオーシャンステージはこの日、記念すべき命名式が行われた。同船はもともとシーボーンの「シーボーン・ソジャーン」として世界で活躍してきたラグジュアリー船で、このたび日本籍船として運航するために改装、この日の命名式を迎えたのだ。三井オーシャンクルーズとしては2024年12月に就航した「三井オーシャンフジ」(3万2477トン)に次ぐ、2隻目の運航船となり、今年5月に惜しまれながら引退した「にっぽん丸」の文化を継ぐ存在でもある。
商船三井クルーズの向井恒道代表取締役社長執行役員は、同船について「私たちが受け継いできたクルーズ事業の伝統とおもてなしの精神を乗せて、新たな時代へ船出する存在」と語る。
商船三井グループの客船事業の歴史は、140年以上に及ぶ。船内で過ごす時間だけでなく、寄港地で出会う風景や文化、人と人との触れ合いを通じ、乗客の人生に残る体験を届けたい――。向井社長の言葉からは、新しい船を世に送り出す高揚感とともに、長く続いてきた客船事業を次代へつなぐ決意が込められていた。

2024年12月に就航した三井オーシャンフジは、華道家元池坊の次期家元、池坊専好氏によって命名された。今回はその際に託された言葉と思いを受け継ぎ、「MITSUI OCEAN CRUISES一同」が命名宣言を行った。
「本船をMITSUI OCEAN SAKURAと命名いたします。この船で今後長きにわたり、美しい日本、そして世界をめぐり、心をつなぎ、安全に航海することを誓います」
宣言に続いてオープンデッキで伝統のボトル割りが行われ、その様子がオーシャンステージのスクリーンに映し出された。ボトルが割れた瞬間、会場は大きな拍手に包まれた。
「サクラ」は日本を象徴する花である。それと同時に、同社がかつて運航した「さくら丸」「新さくら丸」にも用いられた、商船三井の客船史と深く結びつく名でもある。向井社長は命名記念昼食会で、日本の美しさを世界へ届けたいという思いに加え、先人たちが築いてきたクルーズの歴史への敬意を込めて、この名を付けたと説明した。
新しい船でありながら、その名には、いくつもの時代を航海してきた記憶が宿っている。

■世界を航海したラグジュアリー船を
日本籍船として新たな姿に
三井オーシャンサクラの基本設計は、旧「シーボーン・オデッセイ」である三井オーシャンフジと共通する。全長約198メートル、客室数229室、船客定員458人。すべての客室が海側に面したスイート仕様で、約9割にプライベートベランダを備える点も同じだ。
最も数の多いベランダスイートでも、客室面積は26平方メートル前後。ゆったりとしたソファやウォークインクローゼットを備え、短い船旅はもちろん、長期の航海でも快適に過ごせる。乗客数を抑えた3万トン級というサイズには、海外のラグジュアリー船として培われてきた、空間のゆとりがある。

一方で、三井オーシャンサクラは、バハマ船籍から日本籍船に転籍するため、就航前に船内設備や仕様を幅広く改めた。
バハマ籍の三井オーシャンフジは、日本発着クルーズでもクルーズ中に一度は海外へ寄港する必要があり、中・長期のコースを得意とする。それに対して、日本籍の三井オーシャンサクラは、国内だけをめぐるクルーズや1泊2日の短い旅も設定できる。
2026年9月から12月にかけては、平均約3泊の短期クルーズを中心に展開。長い休暇を取ることが難しい現役世代にも参加しやすいコースがそろう。さらににっぽん丸で親しまれてきた「飛んでクルーズ北海道・沖縄」などの人気クルーズも受け継ぐ。三井オーシャンフジと三井オーシャンサクラは、姿こそよく似ているが、航路や旅の長さの面では異なる役割を担う。
クルーズ代金に関しては、2隻とも船内での基本的な食事に加え、200種類以上のドリンク、高速インターネット、寄港地によって半日の寄港地観光ツアーなどを含む。海外からの乗客についても最大3割程度を想定し、日本の港や文化、食を世界に紹介する役割が期待されている。



■海を見ながら湯に足を浸す
サクラだけの新たな居場所
船内で最も分かりやすい三井オーシャンサクラならではの施設が、デッキ8のグランドプールに設けられた足湯だ。
プールサイドの一角に腰掛け、服を着たまま湯に足を浸せる。目の前にあるのは大海原である。温泉旅館の縁側のようでもあり、洋上のリゾートのようでもある。
プールを利用するほどではないけれど、海風を感じながら体を温めたい。飲み物を片手に、もう少しだけ外で景色を眺めていたい。そんな時に自然と足が向きそうだ。日本人が心地よいと感じる過ごし方を、船上の時間にさりげなく取り入れた場所といえる。

そしてもう一つの新スポットが、デッキ5の寿司バー「潮彩」だ。
この名は、にっぽん丸で親しまれた寿司バーから受け継いだもの。職人が旬の魚を握る寿司をコースで提供、写真の寿司おまかせコースで1万5000円(税込)。そのほかのコースもあり、日本酒も楽しめる。夕食後はバーとして営業し、隣接するオーシャンクラブ&バーでの音楽やエンターテインメントとともに、夜の時間を彩る。
かつての船で愛された潮彩の名が、新たな船で再び掲げられる。そこにも、三井オーシャンサクラが大切にする「継承」が表れている。

■似ているからこそ楽しい、2隻それぞれの違い探し
船内を歩き始めると、三井オーシャンフジに乗ったことのある人なら、おそらく不思議な感覚を覚えるだろう。階段の位置やパブリックスペースの構成、客室へ続く廊下。知っている場所に戻ってきたようでありながら、どこかが少しだけ違う。
歩きながらその違いを見つけることが楽しくなってくる――少し贅沢な「違い探し」である。
たとえば、スパ&ウェルネス木霊(こだま)。三井オーシャンサクラの温熱ベッドが並ぶエリアは、木目をふんだんに用い、やわらかな光に包まれている。三井オーシャンフジにも同じ空間があるが、温熱ベッドはタイル貼りというちょっとした違いがあった。
船内のアートも、2隻でそれぞれ違う。
スパに飾られた作品をはじめ、階段の踊り場、廊下、ラウンジなど、船内の随所に異なるアートが配されている。大きく主張する作品もあれば、何度か前を通って初めて気付くものもある。アートを探しながら歩けば、普段は通り過ぎてしまう場所にも足を止めたくなる。


■同じ「北斎」でながら異なる二つの空間
インテリアの違いが最も印象的だったのが、三國清三シェフ監修のスペシャルダイニング「北斎 FINE DINING」だった。
三井オーシャンフジのにも同じダイニングがあるが、そちらは濃い木目と深みのある色彩を重ねた、重厚でクラシカルな空間だ。ゆったりと置かれた革張りの椅子、落ち着いた照明、ダークトーンのじゅうたんが、正統派のフランス料理店らしい風格を醸し出す。
対して三井オーシャンサクラの「北斎」は、白や青を基調にした明るい空間。床には幾何学的な模様が広がり、白い椅子や青のアクセント、天井のラインが軽やかなリズムを生み出している。三國シェフの料理を、今度はどのような気分で味わうことになるのか。インテリアの違いが、食事への期待を高める。


■就航グッズが充実したオーシャンブティック
もう一つ、三井オーシャンサクラでしばし足を止めたのが、デッキ7のオーシャンブティックだ。
衣類や服飾雑貨などに加え、船名やロゴをあしらったオリジナル商品が豊富に並ぶ。特にデビューシーズンは、三井オーシャンサクラの就航を記念したグッズが充実。桜の花があしらわれたデザインのグッズの数々は、選ぶ時間そのものが旅の楽しみになりそうだ。


三井オーシャンサクラは、9月19日、横浜発着の「三井オーシャンサクラ デビュークルーズⅠ~鳥羽・日高~」で運航を開始する。
命名式で語られたのは、「美しい日本、そして世界をめぐり、心をつなぐ」という誓いだった。受け継いだものを大切に抱きながら、自らの色で日本の海を進んでいく。新しい「三井オーシャンサクラ」の航海が、まもなく始まる。







