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【特集】アフターコロナのクルーズ新時代 第9回 シーボーン・クルーズ・ジャパン児島得正氏

2020.06.26
業界

第9回 シーボーン・クルーズ・ジャパン児島得正氏に聞く、
withコロナ時代のクルーズビジネスのあり方

ラグジュアリー船社シーボーン・クルーズ・ジャパンの事業責任者である児島得正営業部長は、クルーズ業界に携わって30年のキャリアを誇る。コロナ禍の危機に瀕したクルーズ業界は今後どうあるべきか。同氏の考えを聞いた。

●PCR検査と心のハードルを下げる啓蒙活動

――まずは御社シーボーン・クルーズの状況をお伺いできればと思います。

児島得正氏(以下略) 先月の時点で、2020年11月までの自主運航停止を発表しています。また正式にはいつ運航再開するのかという発表はしていません。日本においては、運休していない21年以降のクルーズについては、お客さまからのご予約は受け付けております。

――御社はもちろん、多くの船会社がこのコロナ禍の影響を受けています。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大により、クルーズビジネスのあり方が大きく変わると思っています。船会社の規模に関わらず、ランニングコストは以前よりかかると思いますし、ダメージが大きくありそうです。船会社の中には採算の取れそうな事業を売却したり、また船を売船したりするところも出てくるでしょう。そして売船は既に始まっていますから。

個人的な意見ですが、運航が再開しても、今のままの状況なら新型コロナウイルスの感染拡大前のレベルに戻ることはないと考えています。まだコロナについて医学的に良く分かっていない事が多いと聞いていますので、計画されている再開案を見てみても、最初は5割程度の定員でスタートし、その定員を様子を見ながら増やすなど手探りな感じが否めません。医学的な根拠の後押しを受けて乗客定員が100パーセントになるのには時間がかかると思います。

また現時点では、乗船に当たっては乗組員や乗客がPCR検査などで新型コロナウイルスの感染が陰性であることが絶対条件になってくると思います。このPCR検査などをどのタイミングでやるのかも重要です。乗船時に陰性である事が重要だと鑑みると、やはり乗る直前が一番効果的で、そうなると世界中の港で世界中の乗船者に対してPCR検査をできるのかという問題になってくる。これには膨大な費用と時間がかかるのは否めません。

一方で乗客の方々の気持ちの問題もあります。北米の市場調査でも、遠距離の旅行やクルーズに対する意欲が低いと出ています。もともとシニアが主体の旅行ですので安全性を含めた問題がクリアになり、旅行に対する心のハードルが下がらない限り、クルーズ業界の早期復活はないと考えています。こうした心のハードルを下げるためにも、船会社は安心安全に対する啓蒙活動を進めていくべきだし、また国や観光産業全体でも取り組むべき課題だと思っています。

先日、タヒチを航行するポールゴーギャン・クルーズが7月から運航を再開するというニュースが流れました。前職で就航当時から同社の販売を手掛けていた経験が有りますが、同社の客船はタヒチ域内を航行しています。9.11の時もそうでしたがこうした危機においては、限られた域内をクルーズする船、いわばドメスティックな船の果たす役割が重要だと思います。当時はドライブ&クルーズと呼ばれていましたがタヒチだけでなく、欧州や米国、そしてアジアなど世界中のエリアでも同様です。世界的なその意味においては、日本では日本船の果たす役割が大きく、再開に向けた取り組みに期待しています。日本国内だけを航行でき、1泊からのショートクルーズを実施できる。まずは日本船がこうした短いクルーズを実施していき、徐々に拡大して市場の警戒心を取り除いて行くというプロセスを踏むしかないのかなと思います。

●クルーズ全体のイメージを上げるために

――世界的にみると御社のようなラグジュアリー客船の方が運航再開が早いのではという声があります。

確かに小型ラグジュアリー客船はスペースレシオが高く、運航再開がしやすいかもしれません。ただそういう話自体が意味のないものだと思っています。そもそも大型のカジュアル船でも、乗客を減らせばスペースレシオが確保できるわけですし。大切なのは、船のサイズやカテゴリーといった枝葉末節な話ではなく、クルーズ全体のイメージです。業界が一体となって啓蒙活動をしながら前に進んでいくことが重要です。

それにはクルーズの国際的な組織が主導することも必要だし、また国や地域の連携も大切です。まずは世界最大の市場である北米の動きが参考になるのでしょう。世界の大手船会社3社は北米を拠点にしています。だから北米の運航再開基準が今後のグローバルスタンダードになってくると思います。

それに対し、外国船が日本海域を航行するときには、独自の厳しい基準になる可能性もあります。地域性などを考慮した、地域ごとのローカライズは必要かと思います。

――日本の港湾における外国船の受け入れについてはいかがでしょう。以前は誘致活動も盛んでしたが。

特に九州で客船の受け入れを一旦見送る港が増えていると聞いています。新型コロナウイルス感染拡大前は、経済発展や地域振興のために客船誘致をしていましたが、コロナ後はこうした議論よりもまず、もし船で感染者が出たときにどう対応するかという話が重要になってきます。乗船者が陰性であれば地域で経済活動を行ってもらいたいけれど、だからこそ陰性が担保できないと入港は難しいという状況でしょう。だからPCR検査などで陰性が確認できるのかが前提になってきます。

ダイヤモンド・プリンセスで新型コロナウイルスの感染拡大が起きたのが2月、それから現在まですでに5カ月ほど、クルーズに対するネガティブなイメージがついてしまっています。それを払拭するには、最低でもそれと同等の時間かそれより倍以上の時間が必要だと思っています。それも日本だけでなく世界的な規模でです。そのためにはさらなる投資も必要かもしれませんし、船によってはハードの部分、例えば空調の改装なども必要になってくるかもしれません。

●乗客目線に立つ重要性

―― 一方でリピーターの方々を中心に「クルーズに参加したい」という声もあります。

そうした声もありますね。それにはやはりクルーズが安全である、感染するリスクがないというのが前提になります。

しかし、それには以前と同じサービスをすることは難しくなってきます。そもそもクルーズは船という箱が旅行の本質的な目的ではなく、そこに乗り合わせた多くの人とコミュニケーションをとること、いわば3密が醍醐味でもありました。今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、それを根底から否定するものです。

安易に運航再開しても、こうした楽しみを提供できないのであれば、「これだったら楽しくない」と乗客の方々が離れていく可能性もあります。以前の様なクルーズ体験が出来ないので有れば他の選択肢を選ぶか、根気強く待つかになります。選択するのはあくまで乗客の方々だけに、船会社はどうあるべきかということを考えるよりもまず、乗客の目線に立って、どういうサービスが求められているかを考えることが重要です。

――読者ならびにシーボーン・クルーズのファンの方に向けたメッセージをお願いします。

これを読んでいる方々は、クルーズ好きのリピーターの方が多いと思います。先々に安全を最優先してクルーズが再開される日が来たら、その日には真っ先にクルーズに乗って楽しんで欲しいです。今の時代だからこそ、口コミが重要です。withコロナの時代にもクルーズが楽しいことを、ぜひ多くの人に伝えて、宣伝してほしいと思います。

インタビュー:吉田絵里(CRUISE編集長)
2020年6月19日 オンラインにて実施

【特集ページ】
https://www.cruise-mag.com/special/2020afc/index09.html

写真はシーボーン・クルーズ・ジャパンの事業責任者である児島得正営業部長

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