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郵船クルーズ新造船はラグジュアリーなエコシップに

2021.04.01
日本船社

既報の通り、郵船クルーズは新造船建造を発表した。同社としては実に34年ぶりの新造船となる。

●広々とした空間と「和のもてなし」を提供

新造船は5万1950トンのサイズを予定、現状の「飛鳥Ⅱ」(5万444トン)を若干サイズアップしながらも、乗客定員を現状の827人から740人と約85パーセントに抑える。乗客一人当たりのスペース、すなわちスペースレシオは70総トン超。これは海外の客船格付け本で長年ファイブスタープラスの最高評価を得ているドイツのラグジュアリー客船「オイローパ」(2万8890トン)とほぼ同じ広さに該当する。加えて全室バルコニー付きとなる。

これに関して郵船クルーズの坂本深代表取締役社長は「これまで養ってきた和のおもてなしに最新のテクノロジーを加えた、『飛鳥ラグジュアリー』を提供したい」とその抱負を語った。一方で記者会見ではクルーズ代金に関する質問も出た。これに関しては坂本社長は「ラグジュアリーなサービスを提供することで、それがクルーズ代金に反映されることもあるかもしれない。ただターゲットを狭める意図はなく、幅広い年齢の方に楽しんでいただきたい」とした。そのために船内Wi-Fiの整備を実施、「仕事と余暇を両立する、いわゆるワーケーションを実現できる船になる。仕事をしながら世界一周クルーズができるようになる」と語った。

幅広い年齢層が楽しめる客船というコンセプトは船内施設にも表われる。レストランやカフェやバーは15カ所以上を予定。寿司を含む和食を提供するレストランや、肉やワインを提供するグリルレストランなど選択肢が広がることで、坂本社長は「それぞれの好みに合った味が見つかる」と胸を張る。一方でラグジュアリーなサービスを提供したいという目線から、海外の大型客船にあるような大型のウォータースライダーなどの施設は設けない。仕様は変更になる可能性があるとしながらも、プールデッキのイメージ図を公開、リゾート感と高級感の溢れるインテリアを明らかにした。

乗客は日本人を想定、「和のおもてなし」をサービスの基本とし、「飛鳥Ⅱ」に設置して好評を博している露天風呂を新造船にも設ける。一方で坂本社長は「和のおもてなしが外国人の方に向かないかというと、そうではない。幅広い国の方にも楽しんでもらえる客船になる」と外国人の誘客に関しても意欲を見せた。

5万トンというサイズについては「これを超えるサイズになると、経験上きめ細やかなサービスが難しくなる」とした上で、当初から大型化は年頭になかったと明らかにした。船型は現在の飛鳥Ⅱから比して船首は短く、船尾が長い造形になる。飛鳥Ⅱよりも喫水が浅くなるため、これまでよりも入港できる港が増える可能性がある。

●コロナ禍における建造発表、それを支える財政面

今回の新造船の資金調達を担当したアンカー・シップ・パートナーズ株式会社の篠田哲郎代表取締役社長は、同新造船プロジェクトが全国の地方銀行30行が資金面でサポートしていることを明らかにしたうえで、「飛鳥クルーズと地方創生は親和性が高い。客船が地元の港に寄港すると、乗客は地元をめぐるツアーに参加し、それだけでなく地元の食材を味わってもらえたりもする」と評した。新造船は寄港地が増えることによるコースの多様性のみならず、地方発着クルーズの増加、地方自治体や地方金融機関とタイアップした新しい形のクルーズの提供にも期待がもてそうだ。

またこのコロナ禍において各地の金融機関がサポートしたことについ篠田社長は、「皆さまに非常にポジティブに今回の案件に関わっていただいている。その姿勢はコロナ前、コロナ後変わっていない」と明らかにし、各社が長期的な目線でこの新造船の成功を見据えていることをうかがわせた。坂本社長も「移動を伴うビジネスは現在苦しい状況に置かれているが、この新造船の発表がクルーズ業界のみならず日本の観光業界を少しでも力づけられればと願って止まない」と述べた。そのうえで「このプロジェクト自体、コロナ前の4~5年前からスタートしている」とし、「現在の日本のクルーズ人口はここ数年30万人を突破して右肩上がりだった。とはいえそれは人口の0.3パーセントに過ぎず、さらに伸びしろがある」と期待を込めた。そしてコロナの影響としては「今回の交渉に関してはすべてオンラインで行った。この時代ならではの画期的な交渉方法だった」と振り返った。

一方でコロナ禍の報道などにおいてクルーズの安全面において不安を持つ人が増えたのではという質問に対しては、坂本社長は「現在運航している飛鳥Ⅱで徹底した感染症対策を実施していることなどをアピールしていきたい」とした。加えて新造船でも徹底した感染症対策を実施することを明らかにした。換気・空調システムは100パーセント外気取り込み式とし、船内の公室・客室での空気循環は行わず、また換気装置には高性能フィルターやイオン殺菌装置を整備する。エレベーターなどは非接触式のものを採用、公共のトイレでも非接触型水栓を採用する。医務室には集中治療室(ICU)の設置、PCR検査室等を設置するほか、隣接したエリアは空調システムも独立させたうえで、感染者が発生した場合には治療、隔離区間として利用が可能になる。

●環境に配慮したエコシップ、採用した背景は

性能的な特徴では、液化天然ガス(LNG)燃料、低硫黄燃料、ガスオイル燃料の3種の燃料に対応するデュアル・フュージョン・エンジンを搭載することが筆頭に挙げられる。これまでLNG燃料の客船はMSCクルーズ、コスタクルーズなど大型船で採用されているが、中型客船としては世界で初めての対応となる。こうしたエンジンを採用することで坂本社長は「環境負荷を減らしたエコシップになる」と明かした。これに対し、記者から日本ではLNG燃料の補給が限られている中でLNG燃料対応にした背景を問われると、「対応可能な地は増えてくると考える。環境問題は避けては通れない課題で、お客さまも環境に配慮していない船には乗りたくないという時代がきている」とした。加えて海外クルーズも実施していることを挙げ、環境に関する規制が厳しいエリアも航行できるとした。

技術面ではほかにも、日本客船としては初めて陸上電源を利用できる客船となることを明らかにした。これにより陸上電源の供給が可能な港においては、高効率な電力供給が受けられ、本船のエンジンを停止させることが可能となり、環境負荷を低減する。加えて投錨なしでの船体の位置制御を可能にする自動船位保持装置(DPS)を採用して海底植物などの損傷の最小化を図る。

●海外の造船所を選定した理由、船名と飛鳥Ⅱの行方

今回の新造船はドイツのマイヤーベルフト造船で建造されるが、その背景にはこうした最新鋭のテクノロジーを搭載する客船であることも同造船所の選定の理由だったと坂本社長は明かす。同造船所は毎年大型客船2隻、中型客船1隻を建造できる能力を持ち、かつ「アイーダ・ノヴァ」となどのLNG燃料船を建造した経験もある。こうした経験を評価し、同造船所の選定になったという。篠田社長も「基本は国内の造船所で建造するのがもっとも好ましいと考えている」という前提を述べたうえで、環境や感染症に適応しているさまざまな設備を備える客船を同造船所が提示、こうした仕様に関して郵船クルーズ、日本郵船に検証いただき、これが適正であると判断いただいたので、発注に踏み切った」とした。船価については「特殊な船なので、その分船価は高くなる。ただグロストン当たりの価格はおよそマーケット並み」とした。

こうした背景に関して、日本郵船の長澤仁志社は、日本郵船において客船事業はコア事業ではないとしながらも、「現在の飛鳥Ⅱはフラッグシップであることは間違いなく、長年培ってきた客船の文化をDNAとして残していきたい」と抱負を述べた。「現在当社グループで推し進めているESG(環境・社会・ガバナンス)経営においても、環境に配慮し、感染症対策を施し、加えて日本の地方創生という意味を持つことで、日本郵船の経営方針にのっとった事業である」とした。

新造船の船名は未定だが、坂本社長は「飛鳥という名前がもたらすブランドイメージは大きい」とその名前の影響は避けて通れないとした。また現行の「飛鳥Ⅱ」に関しては「2隻体制も視野に入れたい」とし、その動向の名言を避けた。また現在は横浜を母港にしているが、これに関しても今後はどうなるか未定であるとした。

写真左からプールデッキ、フォーシーズンズダイニングルーム、ロイヤルスイートダイニングテーブル(いずれも完成イメージ。仕様は変更になる可能性がある)。

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