客船評論家ダグラス・ワードのクルーズ・ウォッチ

客船評論家ダグラス・ワード氏の連載。昨今のクルーズ業界を俯瞰し、
毎回テーマに沿って、分析&解説していきます。今号はデジタル化について。
客船評論家ダグラス・ワードの「クルーズ・ウォッチ」 デジタル時代に入ったクルーズの世界
ダグラス・ワード Douglas Ward

【今号のテーマ】デジタル時代に入ったクルーズの世界

――最近は乗船のチェックインを事前にパソコンで行うなどデジタル化が進んでいますね。

 

電子機器を使うシステムは、クルーズだけではなく世界的な流れになっています。今回じっくり考えてみましょう。もともとコロナ禍のため船社や港湾側が低接触にしようとしたのが始まりでした。

 

「ダイヤモンド・プリンセス」を例に挙げますと、近年メダリオンクラスが登場しました。クルーズカードの代わりにメダル型の端末を身に付けて客室を開錠したり、レストランの予約もできるそうです。高速インターネット環境と最新テクノロジー利用のおかげで船内でより快適に過ごせるとのこと。

 

またキュナード・ラインやMSCクルーズなども、船内アプリを乗船の前にスマートフォンにダウンロードし、手続きの時間を短縮する方法を進めています。入力は英語が多いので、日本人には少しハードルが高いでしょうが、感染予防には役立つはずです。

 

慣れるのは決して簡単ではありません。しかしまずはデジタル化を受け入れる姿勢が大切だと思います。かつて洗濯機や冷蔵庫、電子レンジ、パソコンはありませんでした。携帯電話が登場したのもつい最近のことです。それが現在では現金を持ち歩かずスマホやクレジットカードの決済で買い物ができるほど環境が変化しました。同様にクルーズの進化をある程度理解したほうがよいでしょう。

 

客船評論家ダグラス・ワードの「クルーズ・ウォッチ」 デジタル時代に入ったクルーズの世界
キュナード・ラインのオンラインサイト「マイ・キュナード」。日本人乗客も多いせいか、日本語にも対応している
客船評論家ダグラス・ワードの「クルーズ・ウォッチ」 デジタル時代に入ったクルーズの世界
大型船ではチェックイン時に行列ができることもある。解消するためにオンライン・チェックインが一役買っている

 

――しかしシニア世代はスマホが苦手な人も多いようですが。

 

日本人だけではなく、欧米のシニアも同じです。スマホやタブレットを持たず、今後も使うつもりがない人がけっこう多いのです。コロナ禍が一段落してクルーズが再開されたころ、私が住む英国でもデジタル化が少し問題になりました。わかりにくいし面倒だからです。当時は対人距離などのコロナ規制もまだ厳しく、質問や問い合わせはメールか電話。スマホの画面を見ずに初心者に説明するのは大変な仕事だったはずです。

 

そんな時に英国のフレッド・オルセン社は有料サービスを発表しました。デジタルの乗船手続代行です。コロナの陰性証明やワクチン接種情報を用意すれば、オンラインでやってもらえます。乗船日はただ港へ行くだけ。日本円で約5000円だったと思います。

 

すべての船社に求められるサービスではありませんね。私の考えでは乗客の側からも「少しずつ覚えよう」という前向きなアプローチが今後は必要でしょうか。パソコンやスマホに慣れるということ。前向きに受け入れ慣れていく。良い機会だと考え、新しいことを学ぶという気持ちで。健康なら何歳からでもできる挑戦です。

客船評論家ダグラス・ワードの「クルーズ・ウォッチ」 デジタル時代に入ったクルーズの世界
クルーズにもスマホの必要度が高まっている。シニア世代でもうまく使いこなしている人も多いので、前向きな気持ちで取り組みたい

 

――具体的な例を挙げてください。

 

・スマホを購入またはレンタル
・契約時に詳しく学ぶ
・困ったら家族や知人に聞く
・市民講座などにも参加する
・乗船前は旅行会社へ質問
・乗船日にターミナルでも聞く

 

日本人スタッフが乗船している客船ならば、時間がある時に船内アプリの使用法などを聞くこともできます。

 

また英語がある程度できる方は、スマホの表示言語を英語に変えてデジタルに強い船内のクルーに質問することも可能です。

 

船内でコンピューター教室があったら参加するのも良い考えです。フォトショップも昨今はパソコン画面から注文する客船がとても増えました。店のクルーが画面を見ながら教えてくれます。たとえ買わなくても、一度はお店に立ち寄り使用法を学びましょう。

 

気をつけたいのは、毎日少しずつにすること。短い時間で習得しようとするとストレスになりますから。使えるようになる過程こそが楽しみです。デジタル機器の利用によって人とのコミュニケーションが減ったという人もいますが、私は100パーセント賛成できません。なぜなら人々に質問することで、クルーズ中に多くの人と出会えるからです。スマホを通じて友人を増やすといった新しい楽しみもできました。

 

――船社や旅行会社に伝えたいことはありますか。

 

乗客のストレスを軽減するような工夫やサポート対策をお願いしたいものです。再びクルーズをしたくても、申し込みや乗船の手続きが複雑になり、悩んでいる人もけっこういるようですから。

 

まず、選択肢があったほうが良いと思います。たとえば乗船に関する書類送付を考えてみましょう。高級な小型船の船社などは、現在でも郵送で一式を送っています。ドイツのハパグロイド・クルーズやシルバーシー・クルーズなどはその一例です。Eチケットやバゲッジタグ(荷札)が入っているので、自分で印刷する必要はありません。

 

しかし多くの船社で、現在メールの添付文書で乗船用の書類や注意事項を送ってくるのが通常になってきました。メールで良いのか、または従来通りの郵送が良いか。どちらかを選べたらストレスが減るでしょう。パソコンやスマホが苦手な人、自宅にプリンターがない人、コンビニなどで印刷が面倒な人は迷わず後者を選ぶはずです。たとえ追加料金がかかるとしても。

 

加えてデジタルに対応するサポート強化も望まれます。

 

たとえばリピーターの特典に、無料のWi-Fi接続がキュナード・ラインなどにあります。デジタル機器を使わなければこの恩恵は利用できません。

 

これを「乗船書類の郵送」へ振り替えることはできないでしょうか。こんな選択肢があったら、シニア世代も安心できると思います。

 

最後に、アンケートなどで出された乗客の声をよく聞き将来に反映して欲しいと思います。

プロフィール

ダグラス・ワード

Douglas Ward

 

客船評論家。乗船歴55年。2021年末出版の「リバー・クルージング(欧州&北米版)」(インサイト・ガイド刊)の著者。同社によるオーシャンクルーズ版を現在執筆中で、2023年出版予定。音楽や庭仕事が趣味。刺身とジントニックの愛好者。英国在住。

プロフィール

★2021年末に出版された「リバー・クルージング(欧州&北米版)」(インサイト・ガイド刊、英語版)。インターネット通販のアマゾンなどで購入できます。
http://www.amazon.co.jp

聞き手・翻訳=吉田あやこ
クルーズアンバサダー。乗船歴34年、在英29年。「クイーン・エリザベス2」と初代「飛鳥」の元乗組員。欧州クルーズを中心に乗船中。
関連記事
TOPへ戻る
シェアアイコン