飛鳥Ⅲへの道【シリーズ第1弾】Report
スチール・カッティング
今年9月21日にドイツのマイヤー・ベルフト造船所で「スチール・カッティング」が行われ、2025年就航予定の「飛鳥Ⅲ」がいよいよ実際に造り始められた。
式典は文字通り「最初の鉄板を切り出す」行事。郵船クルーズの遠藤弘之代表取締役社長や工場内に開設された現地駐在オフィスの社員たち、造船所からは会長のバーナード・マイヤーさんを始めスタッフや関係者らが集った。
大きな赤いボタンに遠藤社長やマイヤー会長らが共に手を添えて押すと、ガラス窓の向こうで機械が動き出し、厚い鉄板をレーザーが切り出し始めた。最初の一瞬大きく火花が散り、あとは機器に入力された通りに青い光を放ちながら淡々と切り出す。なるほど、現代の客船作りは最新テクノロジーでスマートに作られていくようだ。
遠藤社長も「1年半以上の設計を経て、ようやく実際の建造が始まりました。ここからが本当のスタートと思うと気が引き締まり、期待に胸が膨らみます」と話す。
飛鳥Ⅲは3種類の燃料を使い分けられるエコシップ。全長や総トン数、速力は飛鳥Ⅱとほぼ同じ。客室数を少し抑えて「日本船ならではのおもてなし」に一層磨きをかける。多くの日本の美術品・工芸作品を船内に飾り、さながら「動く洋上の美術館」になるという。
性能面ではスクリューを360度回転できるアジポッドなどを採用。エコシップゆえに世界各地の自然豊かな海域で環境負荷を抑えて航行できる点もメリットだ。
そして飛鳥Ⅱの2024年の世界一周では、この造船所を見学するランドツアーもある。飛鳥Ⅲが巨大な建屋の中で作られる姿をぜひ見たい。
内陸の造船所から海までは川を下っていく。飛鳥Ⅲは2025年春頃に進水して日本へと回航される予定。造船所の方いわく、「客船が川を下る際には鉄道橋や道路橋も外します。まるで眠れる巨人がゆっくりと下っていくような様子は圧巻で、川岸が見物客でいっぱいになるんですよ」。
ゼロから作った現地駐在オフィスは
新造客船の意思疎通を担う重要拠点
飛鳥Ⅲが建造される建屋のすぐ脇、煉瓦造りの建物2階に駐在オフィスがある。主な仕事は設計や建造に関する交渉や打ち合わせを造船所側としたり、日本の本社とリモート会議をしたり。船体の大きな箇所からインテリアの壁の柄ひとつを決めるところまで、新造船のほぼすべてに渡る。
コロナ禍での苦労もあったものの、「現地に事務所があることで造船所と緻密なやりとりができますし、本社に判断を仰ぐ際にも時差を活用すれば半日後には答えが出るなど、駐在オフィスの存在価値を実感しています」と副サイトマネージャーの丸 元夫さん。
現地駐在オフィス開設は家を借りて最寄りのスーパーを探すようなゼロからの出発だったそう。今では市場の魚介で料理を楽しむスタッフがいるほど現地になじみ、新造客船の一大ミッションに取り組んでいる。