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【特集】第13回 ゲンティンクルーズライン日本オフィス山本有助代表に聞く、 運航再開への方策とアプローチ

2020.07.29
業界

第13回 ゲンティンクルーズライン日本オフィス山本有助代表に聞く、
運航再開への方策とアプローチ

スタークルーズ、ドリームクルーズ 、クリスタルクルーズと3ブランドを擁し、とりわけアジア人の心をつかむクルーズを展開してきたゲンティンクルーズライン。同社日本オフィスの山本有助代表に、台湾で運航を再開したドリームクルーズの例に見る今後の方策や、アプローチの方法について聞いた。

●いち早い台湾での運航再開、その運営への取り組みとは

――ゲンティンクルーズラインの3ブランドの現在の状況について教えてください。

山本有助代表(以下略) スタークルーズは、運航再開の目処は立っていません。ただし現在、「スーパースター ジェミナイ」「スーパースター アクエリアス」はシンガポール政府の要請に基づいて、現地で新型コロナウイルスから回復した外国人労働者の宿泊施設として使用されています。「スター パイシス」は香港に停泊中です。

ドリームクルーズは、「ゲンティン ドリーム」の9月末までのキャンセルをパートナー会社の皆さまにお知らせしたところです。今後、各国の行政と調整していき、10月以降シンガポール発着での再開を目指しています。「ワールド ドリーム」は現在、ドイツの造船所で整備中です。「エクスプローラー ドリーム」は7月26日から台湾国内クルーズを開始しました。今年デビュー予定だった20万トン型新造船「グローバル ドリーム」は、今回の一件で造船所が一時閉鎖するなどの影響で作業が遅れていますが、2021年中の就航を考えています。先月、船上の施設として初となるローラーコースターの試験運転を開始したところです。

クリスタルクルーズは、リバークルーズと「クリスタル セレニティ」は9月末、「クリスタル シンフォニー」は10月23日までキャンセル。「クリスタル エスプリ」も10月まで中止です。今年8月に日本でデビュー予定だった探検船「クリスタル エンデバー」も2021年の就航となる予定で、どこでデビューするかはまだ決まっていません。

――グループ内でいち早く運航再開が決定した「エクスプローラー ドリーム」について、早期に再開できた理由や、実現までのプロセスを教えてください。

クルーズを再開する台湾は、国内で感染者がきちんとコントロールされていて、経済も回っています。こういう背景とともに、台湾政府とやりとりを重ねるなかで、台湾人を対象としたクルーズなら実施して良いことになりました。私たちも台湾発着クルーズは長年実施してきており、台湾政府が柔軟に対応してくれたことに非常に感謝しています。

運航に向け、船の安全衛生基準において船級協会の認定を受けました。6月末に同船が台湾に入港してからは、台湾政府が指定したホテルに乗組員を2週間隔離し、健康状態に問題がないかを確認してから乗船させています。乗下船時の体温チェックや問診、消毒など感染予防策も徹底して見直しました。乗組員はお客さまとの距離の取り方や食事時のサーブの仕方、防護服の着方まで厳重にトレーニングしています。できることをしっかりと実践していくことが重要です。やはりお客さまが安心・安全で乗れることや信頼が大事だと思いますので。

そして私たちは、実際にシンガポール当局と連携し、スーパースター ジェミナイ、スーパースター アクエリアスを病院船として運営し、新型コロナに対する衛生管理の実践経験があります。グループ内でその経験やノウハウが共有されていることも大きいと思います。

――台湾発着クルーズの運営はどのように実施していく予定ですか。

現在は乗客定員2,000人のところ、1,200人程度に抑えていますが、日々アップデートされる情報や知見をもとに、柔軟に変化させていくことになると思います。ただし、このキャパシティーを制限することだけが重要なのではなく、船内のクラウドコントロールも実施していきます。限られた人数であっても、レストランなど同じ場所に決まった時間に集めてしまっては意味がありませんので。施設の広さによって、どの施設に何人まで入場可能という基準を設け、一覧表を作成しています。こちらも日々の情報をキャッチアップして、柔軟に対応していくつもりです。

――これまでは、同船の中国料理レストランの円卓に象徴されるように大人数で料理を囲むシーンが多く見られてきましたが、今後食事スタイルはどうなりますか。

これまで「好きな時に、好きな場所で」とうたってきた食事スタイルですが、使用するテーブルを一つおきにしたり、時間制にしたりと、実際に運営していくなかで人が密集しないように見直していくことになるでしょう。ただ、そもそもアジアのお客さまは、ファミリーや自分のグループで楽しむことを好みます。船上で出会った人と食事するなど社交の場として楽しむことの多い欧米の船と比べると、そういう新たな形も受け入れられやすいのではないかと思っています。

●運航再開へのハードルと、その先のアプローチ

――他船でも運航再開を目指すなかで、御社が感じている課題を教えてください。

私たちの船には、それぞれ母港があり、それぞれの寄港地があり、またフライ&クルーズとなることも多いので、課題は山積みですし、今後もどんどん出てくると思います。運航再開については、段階的にやっていきます。エクスプローラー ドリームは良い例で、クルーズの寄港地は台湾国内のみで、対象も国内のお客さまです。今後、もしシンガポール当局との調整が進めば、シンガポールの人たちだけを対象として再開することもあるでしょう。ここなら行ってOKという寄港地が出てくれば、まずはその場所のみを組み込むことになるでしょうし、段階的に運航していくことになると思います。スターやドリームの場合はもともと2~3泊の短い航程が多いのも再開しやすい条件になりえますし、乗船地、下船地、寄港地、フライ&クルーズの場合はお客さまの発着地と、さまざまな条件を一つずつクリアしていかなければいけません。

しかし、仮に諸外国が入国規制を緩和したとしても、状況は簡単ではないでしょう。フライ&クルーズはまだハードルが高いと思っています。発着地になる国からしたら、諸外国からの乗客が乗船してきたら不安に思うかもしれないし、片や日本の港も、船が入ったときに現地の人が不安に思う可能性もあります。乗客、乗下船地の人々、寄港地の人々、誰もが安心できる状況になるまでは時間がかかると思います。

今は科学的にこの人は安全、安心と言い切ることが難しく、そこのハードルもあります。CLIAをはじめ、乗船直前にPCR検査を受けたほうが良い、陰性証明書のようなものが必要では、などと言われていますが、これはクルーズ業界に限ったことではありません。人が集まるところへの不安が解消されるまでにも、だいぶ時間がかかるのではと思っています。クルーズ業界だけがどうにかできるものではなく、科学的に感染していないことが証明できるようになったり、感染自体が収束していかないと難しいでしょう。

もちろん、私たちもただ動静を見守っているわけではなく、運航を見据えてどう安全性を提供していくかをずっと模索してきましたし、業界内においてはいち早く対策を取ってきました。限定的ではありますが、一部で運航が再開したことはうれしいですし、感染状況が落ち着きさえすれば日本人の皆さんにも乗ってほしいという思いを持っています。

――今後の日本市場へのアプローチ、プロモーションをどのようにお考えですか。

今後、感染予防策を徹底していること、安全・安心であることは当たり前のことになるでしょう。その前提で、船旅は素晴らしいということを、改めて伝え直していく必要があると思っています。今回のコロナ禍で、人と会わない、人と触れ合わない、画面上でしか風景が見られない、潮の香りも感じられない――そんな日々を過ごし、私自身、洋上から見る景色、そこでできる体験がどれほど価値のあるものであるかを改めて感じています。私たちの船の自慢は、一生懸命やってくれるクルーです。彼らがいるから滞りなく運航できるし、笑顔を交わすだけでも通じ合う何かがあります。これは乗らなければわからないことです。

残念ながら、日本においてはクルーズにネガティブなイメージを持たれてしまいました。しかし、そういうリスク面だけを見てほしくない。もちろん、科学的にデータや数値を基に安全を確保して船を運航していかなければいけません。しかし、私たちは非接触のビジネスをしているわけでなく、その時間と空間に制約される体験を提供しているわけです。その瞬間、その場にいることがどんなに大切なことか。そして、クルーズが本当に楽しいものであること、人生を豊かにするきっかけになるかもしれない体験が待っていること。その純粋な部分を訴えていくことが正しいアプローチなのではと思っています。それから、私たちの船は、食事がおいしい! これも必ず伝えたいポイントです。

――読者ならびに スタークルーズ、ドリームクルーズ、クリスタルクルーズのファンに向けたメッセージをお願いします。

“Sea” you soon! FacebookやTwitter(英語版)では、ライブを発信したり、ダンスレッスンの動画を公開していたりします。船上のスタッフも頑張っているので、チェックしてみてくだい。

インタビュー:横川ちひろ
2020年7月15日 オンラインにて実施

【特集ページ】
https://www.cruise-mag.com/special/2020afc/index13.html

写真はゲンティンクルーズライン日本オフィスの山本有助代表

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