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欧州・台湾でクルーズが一部再開、オンライン会議第3回

2020.08.04
業界

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたクルーズ産業について意見交換するため、スマートクルーズアカデミー(主宰=大阪大学・赤井伸郎教授)は7月31日、第3回目となるオンライン会議「クルーズ振興のための情報共有サロン型ONLINEコンファレンス」を開催した。外国客船会社の日本担当者は、欧州や台湾で一部クルーズが再開され、どのような感染症対策をとっているか取り組みについて報告した。客船会社、国・自治体の港湾担当者、大学関係者など約110人が参加した。

●台湾で運航再開
ゲンティン・クルーズライン日本オフィス 山本有助代表

ゲンティン傘下のドリームクルーズが「エクスプローラー・ドリーム」(7万5338トン)で、7月26日から3泊のショートクルーズを台湾基隆発着で行ったことを紹介。花蓮などに寄港。乗客数は950人で、続く29日発は1000人強だったという。乗客定員を約半分に制限して実施。

運航再開にあたり、ノルウェー・ドイツ船級協会(DNV-GL)から感染症予防認証「CIP-M」を7月初旬に取得。台湾当局と調整し、船員は上陸後3週間隔離して、乗船直前にPCR検査して陰性を確認。船内は殺菌、消毒作業を実施。医療専門家の指導のもと、陽性患者が発生した場合のシミュレーションも事前に実施した。船内もレストランで乗客が密集しないようコントロールした。台湾の地域経済に貢献するため、料理などに地元名産品が扱われていたという。寄港地では花火をあげて歓迎を受けた。運航再開の就航式には、台湾の衛生福利大臣、交通大臣、基隆市長など出席した。「台湾は感染者ゼロなので再開が可能となった。台湾からの沖縄離島クルーズなど再開したいが、今は難しい」との認識を示した。

●ガイドラインで安全徹底
カーニバル・ジャパン 堀川悟社長

グループのプリンセス・クルーズについて説明。「ダイヤモンド・プリンセス」(11万5906トン)での感染対応について、乗客乗員が下船できたが「亡くなられた方にはお悔やみ申し上げたい」と哀悼の意を表した。また「ナショナル・エマージェンシーということで、国交省、厚労省、外務省、防衛省などすべての省庁に協力してもらった」と感謝した。同船はその後、約2週間消毒して検疫済証をとった。消毒に加えて、ベッド、マットレス、カーペットなど交換。「基本的に消毒をすれば大丈夫だが、乗客の感情もあるので、すべて交換した」。

作成した安全対策ガイドラインは厳格化したものだという。乗客は乗船24時間前、Eメールで健康状態を提出。今まで紙で当日提出だったが、接触感染を防ぐためにメールとなった。非接触型での検温や、乗船前の消毒も徹底。以前からノロウイルスやインフルエンザによる感染への安全対策をとっており、基本的手順ができているため、今回のコロナに対応させて徹底的に消毒する。乗客にも手洗いを求める内容だ。

ただし「こういう完璧な対応をとっていたとしても、今回のコロナ感染症では無症状の人がいる。乗船前に見つけるのは難しい」とも指摘。そのため感染者が発生した場合の対応について、CDC(米疾病対策センター)と協議中。PCR検査ができる機能を持つ必要性も挙げた。陽性の場合、船内の医務室の近くで全体の5パーセントにあたる客室は隔離室に使用することも示されているとした。

船内医療体制が陸上の病院と違うことも示し、船内で治療することは困難で陽性者は下船を求めるとした。そのため「港、都市との連携が大事になる。船社と寄港地が協力体制を敷いて、陽性患者が出た場合は感染を最小に抑えることとなっている」とした。

このほか日本で運航再開する場合、カボタージュを課題に挙げた。「長い目で見て、準備期間をもって前進しているところだ」とした。

●運航再開向け調整
コスタクルーズ日本・韓国支社 浜岡聡支社長

コスタは中国発着クルーズを多く展開してきた。そのため「中国政府のガイドラインに沿ったガイドラインを作成中」だという。日本に対しても、政府のガイドラインができてから対応するとした。

なお同じカーニバル・グループにあるアイーダクルーズ(ドイツ)が8月5日から3泊4日クルーズで、「アイーダ・ペルラ」(12万5572トン)で運航再開することを明らかにした。コスタクルーズも8月中の再開で調整中という。

●各船運航再開、全船にPCR検査機
ポナン 伊知地亮日本駐在ビジネスディベロップメントマネージャー

フランス船社ポナンは、フランス船級協会(BV)から認証を取得して、7月11日から運航を再開した。「ル・リリアル」(1万992総トン)はニース発着、「ロストラル」(1万700総トン、264人)はマルセイユ発着で実施するなど各船とも再開。アイスランド、クロアチア、ノルウェー、ギリシャと、各国で運航許可を順次取得しながら進めている。

これまで極地クルーズも多く扱ってきたので、乗船手続きは出発30日前に問診していたが体制を強化。出発2日前に全乗客に自宅近くでPCR検査を受けてもらい、陰性証明書をもって港に来てもらう。乗船直前に医師の診断も受けてもらってから乗船。全船にPCR検査が2台、人工呼吸器も5台を設置している。

また新造船も多いため、船内の空気循環についても「船が竣工したときから外気を100パーセント換気できる機能を持っている」とした。同社の客船が運航再開できたことについては、小型船が多く、定員を100人以下に絞ったことが大きな理由との見方を示した。「CDC(米疾病対策センター)は100人以下の客船は運航を認め、豪州も100人以下で再開するよう進めているようだ」。100人以下と少ないため、オペレーションが可能と指摘した。

●リピーターの予約率高く
シルバーシー・クルーズ日本支社 糸川雄介支社長

シルバーシーが参画するロイヤル・カリビアン・クルーズ(RCCL)の動向など紹介。RCCLは先ごろノルウェージャン・クルーズライン・ホールディングス(NCLH)と共同で、安全衛生基準強化のため専門家委員会を設立しており、CDCの感染症専門家などがメンバーとなってガイドライン作成に取り組んでいる。

社内で検討したガイドラインでは、ショアエクスカーションで、ガイドにも事前にPCR検査を受けてもらい、バスも車内はパーテーションで区切ってもらうなどあった。陸上の従業員に対してもPCR検査の実施など対応している。だが運航再開で決まっているものはまだないという。

業界動向については、「当初、運航再開はアジアが早いと言われていたが、欧州で先に行われているのが現状」と分析。予約状況についても、「6月の予約は昨年と比べても同様の予約数になっている」と傾向を紹介。昨年と比べて、米国や英国は同程度以上、欧州(英国除く)7割、豪州などオセアニア5割、アジア2~3割という。これについは「クルーズそのものが社会に理解されていることが大きい」との見方を示した。米国はクルーズ市場形成までの歴史があることを挙げ、リピーターの予約が多く「クルーズを予約しようという戻りが早い」とした。

●安全確保など意見交換
パネルディスカッション

最後にゲンティンの山本氏、ポナンの伊知地氏、シルバーシーの糸川氏が参加し、赤井氏が司会となってパネルディスカッションが行われた。

各社の安全対策ガイドラインについては、ゲンティンでは6月にできて随時更新。伊知地氏は「ソーシャル・ディスタンスでも、1メートルとする国や2メートルとする国がある。運航する地域にあわせて調整している」として、ポナンでは運航地域・国のガイドラインに沿って対応しているという。

乗船前検査や安全確保などの対応について、ゲンティンでは傘下のドリームクルーズやスタークルーズではオンラインチェックイン機を導入して、港で混雑を避けるように準備しているという。ソーシャル・ディスタンスの実効性についても質問。山本氏は「大型客船が不利とは思っていない。乗船人数を制限すると、1人当たりの面積は大きくなり、その分ソーシャル・ディスタンスがとりやすくなる」との見方を示した。伊知地氏も客船が航空機など他の交通機関よりも1人当たりの面積が広いことを指摘した。

また糸川氏は「米国では、マインド的にアジアは危険と思っているようで、アジアクルーズの予約は低調だ」と意外に思った点を述べた。

オンライン参加者から港側の対応について質問もあった。山本氏は「台湾は感染がゼロでコントロールされている。これができていないと難しいし、再開したとしても集客に結びつかないだろう」と述べた。糸川氏は「感染者が出た場合に受け入れてもらえる港を選ばざるをえない」とした。

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