クルーズポートを歩く

加賀百万石の都・金沢。その外港として、北前船交易で繁栄を遂げた金石と大野。
開港半世紀を記念して開業した金沢港クルーズターミナルは、コロナ禍を乗り越え、いま新たな「海の百万石」として歩み始めた。

文=カナマルトモヨシ
【クルーズポートを歩く】第7回 金沢港
イラスト=岩﨑絵美

第7回 金沢港

新たな時を刻む「海の百万石」

日本海を渡る船が、まるで引き寄せられるように港内に進む。やがて白い建物が見えた。金沢港クルーズターミナル。愛称は「ひゃくまんごくマリンテラス」という。

古来、金沢の外港として存在したのが犀川河口に位置する宮腰(みやのこし)津と、大野川河口の大野湊だ。それではかつての宮腰そして大野に行ってみよう。

宮腰は現在、金石(かないわ)と呼ばれる。金沢市による「こまちなみ保存区域」に指定された古い町並みが残る。戦国の世、前田利家(1539〜9 9年)が宮腰から金沢城へ入城し、「加賀百万石の祖」となる。こうした縁もあり、宮腰は加賀藩の外港として優遇される。やがて北前船航路の重要な中継港となり、港は殷賑を極めた。

その象徴が銭屋五兵衛(1 7 7 4〜1852年)である。最盛期には千石積みの持ち船を20隻以上、全てで200隻を所有し、全国に34店舗の支店を構えた豪商だ。それは「海の百万石」と呼ばれるほどの威勢を誇った。
海外交易の必要性を痛感していた五兵衛は、鎖国下でも外国との密貿易を積極的に行った。清国やロシア、米国の証人と取引し、豪州大陸の果て・タスマニア島に領地を持っていたという伝説もある。そんな五兵衛は加賀藩の実力者と結び巨利を得たが、対立派によって投獄され一生を閉じる。

江戸期を通して、船の入津をめぐる宮腰と大野の争いは絶えなかった。対立を収拾すべく、加賀藩は1866年に両地区を合併。固い約束を意味する「固いこと金石(きんせき)の交わり」から宮腰に代わり町名に金石を採用した。

明治後期に鉄道が普及すると北前船交易も衰退。港町の繁栄にも陰りが見える。ちょうど百年前の1923年、大野町長は金沢の貿易港建設構想を発表。だが、太平洋戦争により棚上げに。この計画が再浮上するのは1963年の三八豪雪によってだ。北陸地方の陸上交通がほぼ途絶え、金沢市内の石油が枯渇する事態に陥った。これを機に金沢での本格的な港湾建設の気運が急速に高まったのだ。

こうして1970年11月1日、金沢港が正式に開港。21世紀になると、金沢港はクルーズポートとしても北陸を代表する存在になる。2016年からはコスタクルーズの日本海周遊の発着港となり、その他の外国客船も頻繁に寄港。それらの乗客で兼六園やひがし茶屋街といった観光地はにぎわった。

開港50周年を記念して2020年には金沢港クルーズターミナルがオープン。さらなるにぎわいに弾みをつけようとした矢先、コロナ禍が水を差す。

ただ、金沢港は歩みを止めなかった。2022年、「みなとオアシス」として登録。金沢港クルーズターミナルや石川県銭屋五兵衛記念館も登録施設となり、神戸〜金沢で日本船による「令和の北前船」クルーズも実施された。

そして今春、外国の客船が金沢に姿を現した。海の百万石はいま、新たな時を刻み始めたばかりだ。

【クルーズポートを歩く】第7回 金沢港
【アクセス】

【アクセス】
金沢港クルーズターミナル
JR金沢駅西口(金沢港口)からタクシーで15分
JR金沢駅から北鉄金沢バス「金沢港クルーズターミナル」行きで約30分

大浜ふ頭(MSCベリッシマ寄港時)
JR金沢駅西口(金沢港口)からタクシーで20分
JR金沢駅から北鉄金沢バス「コマツ金沢工場」行きで約35分

【クルーズポートを歩く】第7回 金沢港
醤油ざんまいの一日を楽しもう
醤油の町・大野で蔵元めぐり

大野は江戸時代の醤油五大生産地(他は銚子、野田、小豆島、竜野)のひとつ。直源醤油やヤマト醤油味噌など醤油の蔵元が多く残り、その白い土蔵等、歴史を感じさせる家並みが続く。散策のほか作業所の見学ツアー、糀や醤油を使ったランチ、醤油ソフトのスイーツなども楽しめる。
写真クレジット:©金沢市

【クルーズポートを歩く】第7回 金沢港
波瀾万丈の生涯海の豪商を学ぶ
石川県銭屋五兵衛記念館

北前船交易で活躍し、海の豪商と称された銭屋五兵衛の記念館。銭屋五兵衛の波瀾万丈の生涯を、シアターや北前船実物4分の1の模型などで学ぶことができる。また現存する銭屋本宅の一部を移築し、当時の住居を「銭五の館」として再現。銭屋一族ゆかりの遺品を展示する。

【クルーズポートを歩く】第7回 金沢港
新しい図書館は金沢の新観光地
石川県立図書館

2022年7月にオープン。愛称は「百万石ビブリオバウム」。ビブリオは図書、バウムは木を意味する。四方を本に囲まれた円形劇場型の空間設計など、建築物としても必見。閲覧席の一角に輪島塗など石川県の伝統的工芸品が展示され、オープンキッチンを備えた「食文化体験スペース」なども併設する。

カナマルトモヨシ
日本および世界各地の港町をクルーズ客船やフェリーで訪ね歩く航海作家。本誌では『世界の港町、歴史海道をゆく』を49回にわたり連載。臨時増刊『にっぽん&世界のクルーズポート・ガイド』の制作にも関わる。
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