黎明期から大型客船の時代へ、サービスも進化【クルーズ業界の歴史シリーズ:クルーズ応援談】第3回

黎明期から大型客船の時代へ、サービスも進化【クルーズ業界の歴史シリーズ:クルーズ応援談】第3回
CRUISE STORY
クルーズストーリー
2022.09.16
クルーズの世界の過去、現在、そして未来をひもとく「シリーズ:クルーズ応援談」。
第3回目は、進化を続けるクルーズ客船のサービスに迫る。
文=小鳥遊海
進化を続けるクルーズ客船のサービスについてひも解く

●陸上から隔離された、かつての船内

 

1980年代以降、クルーズ客船は徐々に大型化し、客室の快適性、施設の充実度も長足の進歩を遂げている。大衆向けのカジュアルな大型客船でも大きな窓付きの海側客室はもとより、ベランダ付きの客室がメインカテゴリーになりつつある。テレビはあっても冷蔵庫がない、客室に電話があっても国際電話がかけられない、パソコンを持ち込んでも回線がない、という時代が懐かしくもある。かつてラグジュアリークラスに格付けされていた客船でも、そんなレベルだった。

 

今思うと、1980年代のクルーズ客船は本当に陸から隔絶された世界だった。テレビやビデオデッキがないのは当たり前で、あったとしても航海中はどのチャンネルにしても画面は砂嵐状態。寄港地に着いてもひどいノイズで、ほとんど役に立たなかった。外部の情報は毎日配られる船内新聞(といっても天気予報と日の出日の入りの時間ぐらいで、大半は船内プログラムの案内なのだが)と、ときどきドアの下から滑り込んでくる通信社からの英字ニュースから得られるぐらいだった。

 

客室の電話はレセプションや客室との通話用で、国際通話やファックスは無線室まで行かなければならなかった。今では手元のスマホでどこへでもアクセスできるのであまり困らないのだが、当時、クルーズ客船はこうした「隔絶した世界」を逆手に取って売りにしていた節がある。洋上まで追っかけてこようとする上司や仕事を堂々と阻止できたのは、本当に良かったと思う。

 

かつて無線室まで行ってFAXのやりとりをしていた時代があった

造船やIT、通信技術などの革新で、クルーズ客船のハードは急速に進化を続けている。それとともに、船内サービスや顧客への情報提供、セールスプロモーション、料金システムなどのソフトは、隔世の感がある。もともとクルーズ客船は宿泊、移動に加え、食事やエンターテインメントの提供といった機能を備え、これらの費用はすべてクルーズ代金に含まれているというのが最大の特徴でありメリットである。さらにプラス料金で寄港地観光も楽しめるため、旅行の要素をほぼカバーした、いわば”完全食品”のような存在だ。

 

ホテルや旅館に比べクルーズ客船の客室は狭いが、デッキから眺める大海原と大空は、それを補って余りある解放感を与えてくれる。このクルーズの基本的な機能と効用は昔も今も変わっていない。乗客を満足させ、気持ちよく帰ってもらいたいというテーマは普遍であり、クルーズ会社はそれを実現するため、常に新しいアイデア、手法を取り入れてきた。

デッキから眺める景観は、今も昔のクルーズの醍醐味だ

●ラグジュアリー船のいま

 

世界トップレベルといわれるラグジュアリークラスのクルーズ客船の場合、乗組員数と乗客数の比率は1対1で、乗客一人ひとりの属性、趣味嗜好、興味などに沿ったパーソナルなサービスが最大の魅力だ。オールインクルーシブの料金体系を採用するラグジュアリー客船は1990年代に登場し、以後、同クラスの客船ではスタンダードになった。カジノやエステなどを除くほぼ全ての費用がクルーズ代金に含まれている。

 

ラグジュアリークラスのクルーズは1泊10万円以上することもある高額商品だけあって、オールインクルーシブの中身は至れり尽くせりの充実ぶりだ。たとえば、空港/港間はもちろん、80キロメートル以内であれば自宅と空港までの往復トランスファー、往復の国際便チケット(必要な場合は国内便も含む)、クルーズ前後の宿泊ホテルが用意されることもある。世界一周などのロングクルーズにフル乗船する場合は、ビジネスクラスの往復フライトを提供することも。

 

客室は全てスイートで、全室にバトラーサービスが付き、24時間体制で乗客の身の回りの世話をしている。寄港地での過ごし方、自室でのプライベートパーティー、食事の段取り、靴磨き、洗濯の依頼、お気に入りのワインやスピリッツ、ステイショナリー、バスアメニティ、好みの枕など、彼らはさまざまな乗客のリクエストに対応する。Wi-Fiは無料で、アクセス無制限で利用できる。

 

船内のレストランはワンシーティングこそラグジュアリー客船の証といわれた時代もあったが、現在はメインダイニングの他にサブ・レストランが4~5カ所あり、フレンチ、イタリアンをはじめ日本、中国、インド、タイ、ベトナムなどのアジア料理をサービスしている。テーブルや時間の指定がないフリーシーティングが一般的で、好きな時間に好きな場所で誰とでも食事ができる。フィットネス、エステ関連(一部有料)のメニューは多岐にわたる。心と体の健康維持を目的にした専門家による指導、セミナーなども開催している。

ラグジュアリーなサービスを誇るリージェントセブンシーズクルーズ。シャンデリアを使ったインテリアなどでも知られる
複数のサブ・レストランを擁し、好みに合わせて利用できるシルバーシー・クルーズの客船「シルバー・ミューズ」。写真は和食やアジア料理を供する「カイセキ」

●革新著しい大型クルーズ客船の世界

 

一方、カジュアルクラス、プレミアムクラスでも多種多様なサービスが増え、プラスアルファのクルーズ代金でラグジュアリークラスと遜色のない、パーソナルなサービスが受けられる。最上級カテゴリー客室の利用者向けに専用のレストラン、ラウンジ、バトラーサービスを付けて差別化を図る大型クルーズ客船もトレンドになっている。世界一周クルーズにもチャレンジするカジュアルクラスの大型クルーズ客船も現れるなど、ボーダーレスの時代を予感させる動きが出ている。

 

数千人規模の乗客を受け入れるカジュアルクラスの大型クルーズ客船では、乗船時の混雑を避けるため、オンラインチェックインが普及している。船社によって多少対応は異なるが、出航2週間前から出航日の深夜0時までに指定のホームページにアクセスして、ターミナルへの到着予定時間など必要事項を記入してチェックイン。完了すると、荷物タグ、搭乗券などを含む必要書類を印刷できる。最終のチェックイン時刻は搭乗券に記載される。オンラインで人気の船内レストランやアクティビティー寄港地観光の予約・購入も可能だ。

 

船内のアルコールなどのドリンク類は基本的に有料だが、飲み放題のパッケージプランを購入しておけば勘定を気にしなくて済む。大型クルーズ客船のレストラン、ラウンジ、バー、カフェの規模、種類、数はラグジュアリークラスのクルーズ客船をはるかに凌ぐ。乗客の選択肢はかつてのカジュアルクラスのクルーズ客船に比べれば圧倒的に多くなったが、その分、追加料金が必要なレストラン、サービスも増えた。クルーズ代金に含むもの、含まれないもの、料金や予約システムは事前によく研究しておく必要があるかもしれない。カジュアルクラスの大型クルーズ客船の場合、ディナーは2回制でテーブル指定のケースが多いが、フリーシーティング制を導入している船もある。

 

大型客船ではWi-Fiシステムは有料が一般的。航行中、沿岸部では自身のスマホで国際ローミングが可能な場合もあり、その場合は請求は船社からではなく自身の契約キャリアから後日届く。もちろん、客室の電話でも国際電話は利用できる。ランドリー、ドライクリーニング、スパ、ギャンブル、寄港地観光、専門レストランは別途費用がかかるのが普通だ。

 

大型客船はダイニングも大きく、大人数が同時に食事ができる。2回制が一般的
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