【シリーズ:クルーズ応援談】
第3回「クルーズ客船の進化は止まらない」

●かつての固定テーブルシステムの良さ

 

ひと昔前の客船は夕食時のテーブルは決められ、クルーズ中はずっと同じメンバーで食べるのが基本で、ウエイターやバスボーイも同じスタッフが付いた。1週間、同じメンバーで食べて同じスタッフにサーブされれば、自然とコミュニケーションが増え、人情も深まるというものだ。ウエイターは客の利き腕はどちらか、食前、食後にどんな酒を飲むのか、アレルギーはないか、コーヒー、紅茶の種類、砂糖やミルクは要るのかなどをチェックし、すぐに覚えた。料理の説明もしてくれた。「今日のレタスはあまり新鮮じゃない」「今晩は肉はやめた方がいい。魚がいいよ」(もしかしたら上からの指示で在庫がタブついてきたので、魚を勧めるようにいわれているだけかもしれないが……)と教えてくれた。彼らと寄港地ですれ違えば、あいさつや冗談を交わすようにもなった。

 

テーブル担当のソムリエやバーテンダーも同様だ。バーの常連になれば、「いつもの酒か」と聞いてくる。通っていくうちにシングルはダブルになりトリプルへと増える。もちろん、プラスのチャージはなし。客の好みを覚えていて、お勧めの酒をとっておきの飲み方で用意してくれる。クローズの時間になっても、すぐに追い立てるようなことはしない。

 

【シリーズ:クルーズ応援談】 第3回「クルーズ客船の進化は止まらない」
船内のバーは、いわば社交場。バーテンダーも毎夜通うと好みを覚えてくれる

10数年前からだろうか、他の船内で使った費用とともにチップも自動的に精算されるようになった。以前、チップは部屋に用意された封筒に現金を入れ、ダイニングスタッフには下船前日の最後のディナーの時に、キャビンスチュワーデスには下船日当日の朝に手渡すか客室に置いていくのが慣習だった。担当のスタッフたちが周りをうろうろし始めると、そろそろ渡す頃合いで、スタッフの目がいつもより輝いているように見えたものだった。単なる儀式、ルーティンと言ってしまえばそれまでだが、双方にとって感謝の気持ちを改めて伝え合える良い機会だった。

 

現代は複数のレストランが設けられたことや、フリーシーティング制のダイニングが多くなったことで、乗客とテーブル付きスタッフとの関係性は薄まった。船内チップはスタッフ間に不平等が生じないように公平に分配するシステムなので、船側にとっては取りはぐれる心配がない自動精算は、理にかなっていて効率的なのだろう。乗客はドル紙幣を集める手間がなくなった。

 

そういえば、衛生管理上もあるのか、船長との握手や記念撮影もいつしかほとんど見なくなった。何千人もの乗客とそのような場面を設定するのは物理的に無理で現実的ではないし、乗客も求めていないのかもしれない。かつて船長はスターのような存在だったが、今は違うようだ。

 

●プレミアムクラスはボーダレスに

 

プレミアムクラスの大型クルーズ客船の中には、ラグジュアリークラスに迫るサービスを提供するブランドが登場している。クルーズ代金にはチップ、Wi-Fi、アルコールなどのドリンク代(利用制限あり)が含まれ、全船、全客室が対象だ。追加料金でより快適なWi-Fiが手に入るほか、アルコールや料理の選択肢も増やせる。複数のレストラン(一部有料)では三つ星レストランや有名シェフ監修の料理を楽しめる。スイート客室にはバトラーサービスのほか、専用のラウンジ、レストラン、サンデッキ、高級アメニティを用意するなど、もはやクルーズ客船のクラス分けを飛び越えている。

【シリーズ:クルーズ応援談】 第3回「クルーズ客船の進化は止まらない」
新造船「ビスタ」の就航を予定しているオーシャニア・クルーズは有名シェフ監修の美食が味わえる

現在、多くの客船ではクルーズカードを船内で持ち歩き、支払いカードやルームキーとして利用しているが(これでも30年前にはなかったシステム)、これに代わる非接触型の端末を開発したプレミアムクラスのクルーズ船社もある。これをポケットやウオッチ型ベルト、ネックレスに付けておくだけで、客室の解錠はもとより、船内での飲み物の注文や有料レストランの利用、買い物などさまざまな場面で使える優れものだ。

 

このクルーズ船社はチェックイン時の密集を避けるための専用アプリも開発。さらに、オンデマンドサービスとして、スマートフォンやタブレットなどのデバイスからアプリに直接アクセスして、飲み物や食事、船内ショップの商品をオーダーでき、船内のどこにいてもスタッフが届けてくれる。ソーシャルディスタンス確保の一環で、客室のテレビにも同様の機能が備わっている。

 

【シリーズ:クルーズ応援談】 第3回「クルーズ客船の進化は止まらない」
スマートフォンはいまやクルーズでも必須のアイテムだ

船内プログラムは出発60日前から閲覧できて、独自の行動プランも事前に作成できる。ビデオで避難訓練のルートも確認できる。船内にいる家族、友人の居場所をアプリで探すことができ、メッセージのやり取りも可能。相手が居る場所までのルートも案内してくれる。大型クルーズ客船の広い船内では、とてもありがたいツールかもしれない。このアプリがあればオンラインカジノやオンデマンドの映画やインタラクティブゲームも楽しめる。コイン型端末と専用アプリの連携サービスは、クルーズ業界で最先端のシステムと言えるだろう。

 

このクルーズ会社は「洋上最速」を謳うWi-Fi環境を有料で提供している。メールをはじめ、ビデオ通話、写真投稿、オンライン会議、動画ストリーミングを快適に利用できて、ワーケーションにも十分対応できるとしている。非日常性に日常性を取り込むクルーズ客船の世界。ボーダーレスの創造で、まだまだ面白くなりそうだ。

 

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