ワインと美食にひたるにっぽん丸の3日間
洋上のワインフェスを愉しみ尽くす
にっぽん丸の歴史は長きに渡るが、ワインと美食に焦点を当てたクルーズは初の試みとのこと。「ワインが大好きだから、早くから予約して楽しみにしていたの」とウキウキした表情の乗客も。2日間のペアリングディナーで供されるワインと料理の考案には3ヶ月もかかっているというから、期待も高まろうというものだ。
●「和」のペアリングを愉しむ
出港後ほどなくダイニング「瑞穂」にて、「にっぽん丸和膳とカーブドッチワイナリーのワイン」と名付けられたペアリングディナーが始まった。新潟県の日本海沿岸部にあるカーブドッチは、レストランや宿泊施設を備えた滞在型ワイナリーだ。土壌とブドウ品種の個性を素直に表現した質の高いワインづくりで人気を博している。
前菜から甘味まで9皿からなるディナーには、秋の味覚が満載されている。まずはスパークリングワインで乾杯。グラスの中で立ち上る繊細な泡と、白い花を思わせるなつかしい香りをしばし楽しむ。シャルドネだけで造られたこのワインは、前菜のバイ貝や数の子の西京漬けにぴったりだ。鹿児島県産の戻り鰹などからなるお造りには、赤ワイン(ピノノワール)がペアリングされている。魚には白を、肉には赤をと言われがちだが、ワサビを利かせて醤油で食べる赤身の刺身には、きれいな酸味を持つ日本のピノノワールがよく合う。
3品目は鹿児島県産黒ムツの秋果焼きみかん添えだ。これと共に出されたのは白ワイン(シャルドネ、ノンバリック)である。一般的には白から赤の順に飲み進めるので、赤から白に戻ったのがおもしろい。ただその理由はすぐに分かった。柿や無花果などの秋果には、ほのかな甘味があり、みかんを黒ムツに絞りかければ爽やかな酸味も加わる。白ワインのフレッシュな酸味やトロピカルフルーツの香りにマッチするのだ。日本ワインならではの旨みや緻密な味わいにより、にっぽん丸の真骨頂である和食の美味しさがさらに際立っている。乗客から「和同士でぴったりね」との声も。まさに「日本」の美味しさを堪能するディナーとなった。




翌17日、船は駿河湾を通り、伊豆諸島の新島、利島、大島の周辺をゆったりとクルージングしている。この日はボージョレ・ヌーヴォの解禁日だ。世界中の人々がボージョレ・ヌーヴォを飲み、お祝いをしていると思うとワクワクしてくる。にっぽん丸でもワインフェスが始まった。試飲会、トークショー、ペアリングディナーなどワインを満喫する1日となる。


●日本の風土をワインで実感する
7階のリドテラスはカーブドッチワイナリーの試飲販売会でにぎわっていた。ブースには7種類のワインが並び、乗客たちは「新潟でワインを造っているなんて知らなかった」と興味津々だ。その中で目を引いたのは、「サブル(SABLE)」(砂を意味するフランス語)という名のきれいなルビー色をした赤ワインである。海の近くにあるこのワイナリーでは、海風で吹き寄せられた砂を含む土壌でブドウが栽培されている。その「砂」をワインの名前にしたという。
カーブドッチワイナリー代表取締役社長の今井卓氏はこう語る。「砂地のブドウからは軽やかなワインが生まれます。軽やかながらしっかりとした味わいのワインに仕上げていますよ」。それはこのサブルでも実現している。カベルネソーヴィニヨンなどのしっかりとした骨格が感じられながらも、軽やかで果実味あふれるワインとなっているのだ。「覚悟を決めて、砂地の個性を反映させたワインを造っていきます。日本のワインを世界で一番美味しく飲める場所は日本ですよ」と今井氏は朗らかに笑う。それを聞き、サブルがなおおいしく感じられた。



