ワインと美食にひたるにっぽん丸の3日間
洋上のワインフェスを愉しみ尽くす

●洋上で世界のワイン産地をめぐる

 

一方、同じく7階のホライズンラウンジでは、世界のワインを楽しむ試飲会が開かれていた。「ワインでめぐる世界一周」と名付けられた3回制のこの会は、全会全席、即刻満員に。旅を先導するのはソムリエの第一人者である田崎真也氏だ。世界最優秀ソムリエコンクール(1995年)の優勝者である田崎氏は、現在日本ソムリエ協会会長を務めている。

 

田崎氏が選ぶ9種類のワインが、真っ白なシートの上に並んでいる。ミュスカデ(フランス)、アルバリーニョ(スペイン)、ジンファンデル(カリフォルニア)・・・・・・ワインの伝統国ヨーロッパからアメリカなどの新興国まで、世界を巡っている気分になれる。「ソーヴィニヨン・ブラン(ニュージーランド)の香りが素敵!」や、「ピノタージュ(南アフリカ)とは初めて聞いた」など、新たな出会いに感激する声も。ワインにペアリングされたフィンガーフードも多種多様である。例えば、カルネメーレ(チリ)にはラム肉串焼きのシシカバブ風、リースリング(ドイツ)には鶏ささみ焼きの山椒添えと言った具合だ。ある乗客は「フードとワインを一緒に口に含むと、風味が数倍に膨らむ気がするね」とペアリングの効果に目を丸くしていた。

 

ふと見渡すと参加者は老若男女と幅広い。「ワインについてよく知る一般消費者が増えましたね。ワインの資格を持つ人がこれほど多い国は世界でも珍しいですよ」と田崎氏は微笑む。日本のワイン文化は着実に醸成されていると感じた試飲会となった。

 

フィンガーフードとともにペアリングされた9種のワイン。味も見た目の美しさも考え抜かれている
CRUISE GALLERY
フィンガーフードとともにペアリングされた9種のワイン。味も見た目の美しさも考え抜かれている
9ヵ国のワインが集う。下船後、早速購入して家で飲みたくなる美味なワインばかりだ
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9ヵ国のワインが集う。下船後、早速購入して家で飲みたくなる美味なワインばかりだ

その後、ペアリングについてさらに知るため、田崎氏のトークショーに参加した。ワインを中心に、料理と飲み物のペアリングの極意が丁寧に紐解かれていく。ワインとは食事をしながら飲む食中酒であり、料理の味を引き立てさらに美味しくするソースや調味料のようなもの。そう捉えてワインと料理をペアリングするとよいとのことだ。そういえば、ペアリングとマリアージュは同じ意味なのだろうか。その思いを読んだように田崎氏はこう語った。「ソムリエはワインと料理のペアリング(組み合わせ)をします。食べる方が気に入ればマリアージュ(結婚)となりますね」。それを聞いて、にっぽん丸の洋食と田崎氏が選ぶワインのペアリングディナーが待ち遠しくなった。

 

多くの乗客が熱心に耳を傾けた田崎真也氏のトークショー
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多くの乗客が熱心に耳を傾けた田崎真也氏のトークショー
日本ソムリエ協会会長を務める田崎真也氏。にっぽん丸とのつながりも深い

●「洋」のペアリングを堪能する

 

数時間後、ペアリングディナーがダイニング「瑞穂」で始まった。ボージョレ・ヌーヴォの解禁を祝い、まずはボージョレで乾杯だ。2022年のブドウは素晴らしい出来とのこと。確かに、軽くてフレッシュという例年のイメージを覆す、コクのある味わいが口に広がる。

 

まずはオードブルの「フォアグラのフラン」が運ばれてきた。ペアリングワインはアルザス産ゲヴュルツトラミネールだ。濃い黄色のこのワインには、少しとろりとした舌触りや芳醇な果実味がある。栗のエスプーマが添えられたフランの濃厚な味わいを引き立ててくれる。続く魚料理は「鱸のグランチャーレ焼きとオマールのベニエ」だ。魚に肉(グランチャーレは豚頬肉の塩漬け)を添えて焼くというユニークなメニューは田崎氏のアイディアであるとのこと。鱸のふっくらした食感とグランチャーレの引き締まった食感のコントラストが素晴らしい。サフランソースとシトロネル風味のソースが添えられたこの一皿のお供は、ブルゴーニュ地方のシャルドネである。柑橘系の香りとふくよかな口当たりを持つ白ワインが料理にぴったり寄り添ってくれる。

 

梨のグラニテで一息付いた後は、肉料理の登場だ。赤ワインソース仕上げの「牛フィレ肉のカフェドパリスタイル」には、インゲンやクレソンなどの若々しい野菜が添えられている。ペアリングされたのは南フランスの濃いガーネット色をした赤ワインだ。グルナッシュ主体のこのワインには豊潤な果実味や甘草の香りがある。糖度は控えめ。だから重みのある牛フィレ肉だけでなく付け合わせのさわやかなクレソンにも調和してくれる。オードブルからデザートまで6皿からなるディナーを終えた時、「ワインと料理の相性抜群!ペアリングがマリアージュ(結婚)になった」と満足を遥かに超える気分を感じていた。

 

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ボージョレ・ヌーヴォでの乾杯とともに始まった華やかなペアリングディナー
田崎氏のアイディアもいかされた鱸のグランチャーレ焼きとオマールのベニエ
牛フィレ肉のカフェドパリスタイル。ワインは付け合わせとの相性も抜群だった
最後を飾る愛らしいデザートはホットワインとともに
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