ピースボート、新たな船出
世界一周クルーズで開く扉

■長い航海でも安心する
毎日和食のあるホッとする空間

 

クルーズ最大の楽しみともいえる食事については、オーシャンドリーム時代から定評があったサービスはそのまま健在である。ピースボート独特の洋上居酒屋「波へい」では串焼きなど屋台風情を感じつつ一杯やれるのが特長。また、乗船者から「スエズ運河でも北極圏でも和食がいただけるのはありがたい」という声が幾度となく聞かれたように、日本食サービスが毎日行われている。さらに新しく登場したのがシーフードバー「すし処 海」。握りずしやランチの海鮮丼の味は上質で、スペシャリティ・レストランにもかかわらず、連日多くの乗客でにぎわっていた。

テラスグリルは夕方から居酒屋「波へい」に。牛ステーキやスペアリブ、エビ丸焼きを一度は食してみたい
テラスグリルは夕方から居酒屋「波へい」に。牛ステーキやスペアリブ、エビ丸焼きを一度は食してみたい
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テラスグリルは夕方から居酒屋「波へい」に。牛ステーキやスペアリブ、エビ丸焼きを一度は食してみたい
テラスグリルは夕方から居酒屋「波へい」に。牛ステーキやスペアリブ、エビ丸焼きを一度は食してみたい
「すし処 海」の握りセット。世界のどこにいても本格的な寿司をいただける
「すし処 海」の握りセット。世界のどこにいても本格的な寿司をいただける
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「すし処 海」の握りセット。世界のどこにいても本格的な寿司をいただける
「すし処 海」の握りセット。世界のどこにいても本格的な寿司をいただける

メインダイニングのディナーは寄港地の旬の食材をいかした洋食が自慢。乗船した地中海エリアではギリシャサラダ、オリーブオイル、クスクス、生モッツアレラ、スペイン産生ハム、モロッコ風ラムなどが登場。ワインとともにそれらを堪能した。

 

一方ビュッフェも中華・イタリアンそして時には沖縄など多種多様なメニューをそろえる。ここでは「食の世界一周」ができると好評。野菜が多いヘルシー志向のラインナップも、女性客を中心に喜ばれていた。

メインダイニングのマーキスダイニングルームのディナー。鶏むね肉のトマトソース煮込み
メインダイニングのマーキスダイニングルームのディナー。鶏むね肉のトマトソース煮込み
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メインダイニングのマーキスダイニングルームのディナー。鶏むね肉のトマトソース煮込み
メインダイニングのマーキスダイニングルームのディナー。鶏むね肉のトマトソース煮込み
メインダイニングのマーキスダイニングルーム
メインダイニングのマーキスダイニングルーム
ワインを楽しみたいシーンも多い。欧州ではワインが多い寄港地も少なくない
ワインを楽しみたいシーンも多い。欧州ではワインが多い寄港地も少なくない

1983年に「過去の戦争を見つめ未来の平和をつくる」を標榜して始まったピースボート。その創設の理念をパシフィック・ワールドに見ることができる。ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)は、核兵器を禁止し廃絶するために活動する世界のNGO(非政府組織)の連合体。日本からはピースボートが参加し、そのロゴマークが船体にペイントされている。

 

また、世界一周を行うようになって「国際交流の船旅」に注力。近年は国連とパートナーシップを結び、「持続可能な開発目標(S DGs)」の公式キャンペーン船として航海。環境問題について考える寄港地ツアーも実施する。

横浜を出航してから44日、パシフィック・ワールドははるかスペイン(タラゴナ)に到達した
横浜を出航してから44日、パシフィック・ワールドははるかスペイン(タラゴナ)に到達した
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横浜を出航してから44日、パシフィック・ワールドははるかスペイン(タラゴナ)に到達した
横浜を出航してから44日、パシフィック・ワールドははるかスペイン(タラゴナ)に到達した

船内施設でピースボートらしさが発揮されているのはフリースペース、そしてショップおよびイベントルームだ。改修時に「客船の華」ともいえるカジノと免税店をなくした。カジノを社交ダンスやサルサレッスンができるダンスホール・卓球場・乗船者が講師になる自主企画用の空間を兼備するフリースペースに。免税店をピースボートグッズや日用品をそろえ「手ぶらで世界一周」を合言葉にするショップ・水彩画などカルチャースクール・水先案内人と呼ばれる洋上講師との交流の場ともなるセミナールームへと変えた。

 

国内外の水先案内人の講座も目白押し。中東問題・シリア難民・英国のEU離脱(ブレグジット)といった世界情勢から、海のシルクロードをテーマにした中国琵琶のコンサートなどが開催された。

海のシルクロードにまつわる講演と演奏会はプールサイドで行われた
海のシルクロードにまつわる講演と演奏会はプールサイドで行われた
プリンセスシアターで筆者も講演。想像以上の聴衆の多さに驚いた
プリンセスシアターで筆者も講演。想像以上の聴衆の多さに驚いた

海外ゲストといえば、横浜から名誉船長としてアジア区間に乗船した、ウクライナ・オデッサ(オデーサ)出身のビクター・アリモフさんについて触れたい。ピースボートの船長として累計1万人を超える日本の人たちを世界に連れて行った。アリモフさんは引退後、オデーサで静かに暮らしていたが、その生活は昨年2月に一変した。ロシア軍のウクライナ侵攻で隣国ルーマニアに避難を余儀なくされたのだ。

 

私の乗船と入れ替わるように20~30代の男女5人が、一時下船している。アリモフさんらウクライナからの避難民を支援するルーマニアの団体に届けようと、船内で募金活動を行ったのが彼ら若者である。乗船者から150万円が集まり、これを届けにルーマニアに向かい、同時にアリモフさんや元クルーと再会を果たしている。

 

パシフィック・ワールドはカリアリ(イタリア・サルデーニャ島)、タラゴナ(スペイン・カタルーニャ州)と小さいが、古代遺跡など見どころ豊富な港町に寄港し、22日午前4時にジブラルタル海峡を抜けて大西洋へ。同日午後10時(船内時間)に陽が大西洋に沈むと、ユーラシア大陸最西端ロカ岬の灯台の明かりが見えた。

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世界遺産に登録されるタラゴナの遺跡群。スペインというより古代ローマへ迷い込んだような街並が印象的だった
世界遺産に登録されるタラゴナの遺跡群。スペインというより古代ローマへ迷い込んだような街並が印象的だった
ローマ帝国初期の1世紀ごろに建てられた円形闘技場。背後には真っ青な地中海が見える
ローマ帝国初期の1世紀ごろに建てられた円形闘技場。背後には真っ青な地中海が見える
タラゴナ入港直後、船首からきれいな朝焼けを望む
タラゴナ入港直後、船首からきれいな朝焼けを望む
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タラゴナ入港直後、船首からきれいな朝焼けを望む
タラゴナ入港直後、船首からきれいな朝焼けを望む

ル・アーブル(フランス・ノルマンディー地方)を経て26日、テムズ川をさかのぼって英国ティルベリーに入港した。ここで私は10日余りを過ごした快適な船をあとにしてロンドンへ。真っ先に向かったのはテムズ川のウェストミンスターピアだ。ここからテムズ川リバークルーズに乗船する。

第2次世界大戦で焦土と化したル・アーブル。市庁舎など戦後に再建された都市が世界遺産に登録された
第2次世界大戦で焦土と化したル・アーブル。市庁舎など戦後に再建された都市が世界遺産に登録された
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第2次世界大戦で焦土と化したル・アーブル。市庁舎など戦後に再建された都市が世界遺産に登録された
第2次世界大戦で焦土と化したル・アーブル。市庁舎など戦後に再建された都市が世界遺産に登録された

7万トン級のパシフィック・ワールドではテムズ川をさかのぼってロンドンシティまでたどり着くことはできない。しかし、2万トンクラスのオデーサ船籍「オリビア」(1998~2003年チャーター)ではそれが可能だった。2002年7月、タワーブリッジをくぐって、ロンドンっ子のど肝を抜いたのだった。そしていま、自分の目の前にタワーブリッジがそびえたっている。今回のヨーロッパの旅は、ピースボート世界一周の足跡をたどる船旅でもあった。

かつてウクライナ船「オリビア」がタワーブリッジをくぐってロンドンに入港した瞬間
かつてウクライナ船「オリビア」がタワーブリッジをくぐってロンドンに入港した瞬間
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かつてウクライナ船「オリビア」がタワーブリッジをくぐってロンドンに入港した瞬間
かつてウクライナ船「オリビア」がタワーブリッジをくぐってロンドンに入港した瞬間

6年前の取材では「ピースボートの進化」を感じた。そして今回、空白の3年間を経て「誰もが乗れる、すそ野の広がり」というものを強烈に意識させられた。

 

ピースボート創設40周年の節目に登場したパシフィック・ワールドがもたらした可能性の広がり。それは「ピースボート新時代」の到来を確信させた。

【取材メモ】

ピースボート地球一周の船旅 2023年4月 Voyage114
北極航路 ヨーロッパ&中米コース
日程:2023年4月7日(金)~7月23日(日)[横浜発着108日間]
コース:横浜~神戸~マニラ~ベノア(バリ島)~シンガポール~コロンボ~ポートサイド~サントリーニ~ピレウス~カリアリ(サルディーニャ島)~タラゴナ~ル・アーブル~ロンドン(ティルベリー)~ソグネフィヨルド/ノールフィヨルド遊覧~オンダルスネス~トロムソ~ホニングスヴォーグ~ロングイェールビーン~コングスフィヨルド遊覧~アークレイリ~エイヤフィヨルド遊覧~レイキャビク~オーチョリオス~クリストバル~パナマ運河通航~プエルトケツァル~マンサニージョ~ホノルル~横浜~神戸 ※うち取材はピレウス~ロンドン
船名:パシフィック・ワールド(ピースボート)
就航年:1995年12月/総トン数:77,441トン
乗客定員:2,419名/乗組員数:600名
全長261.31メートル/全幅32.25メートル

CRUISE2023年夏号に掲載
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