まだ見ぬ東京へ。飛鳥Ⅱ船上で楽しむ伊豆の島々

CRUISE STORY
クルーズストーリー
2023.08.28
飛鳥Ⅱの船上から、絶海の孤島青ヶ島を望む。ここも東京都だ

■船内から見る絶景と東京の離島を深く知るイベント

 

3日目の朝、前方に大きなパノラマの窓が広がる11デッキのビスタラウンジに行くと、すでに二人連れのご婦人がくつろいでいた。「飛鳥Ⅱではいつも、ここの66番のテーブル席に座るの」と、一人の方が語る。「真ん中で一番眺めが良い席。港に着く時など、ここでいろいろ見ましたよ」と楽しい思い出を聞かせていただいた。飛鳥Ⅱには長年のファンも多いので、きっとそれぞれにお気に入りの船内スポットがあるのではないだろうか。そのうち、遠くの右舷前方に島影が見えてきた。青ヶ島だ。たしかにその席は、ブリッジ(操舵室)にいるかのように、全方向の見晴らしが良いのだった。

 

船長気分で大海原を眺められるビスタラウンジ。各種ドリンクも用意されていて、ゆったりした時間を楽しめる
CRUISE GALLERY
船長気分で大海原を眺められるビスタラウンジ。各種ドリンクも用意されていて、ゆったりした時間を楽しめる

青ヶ島は、国際的環境NGOによる「死ぬまでに見るべき絶景13選」の中、唯一日本から選ばれた場所だという。緑に覆われた島の外側からは見えないが、内陸にカルデラがある火山島で、約170人が住むという。初日のディナーの食材にあったひんぎゃの塩の「ひんぎゃ」とは火の際という意味で、ここ青ヶ島の火山性の地熱を利用して作られた塩だ。デッキで再び解説してくれた船舶アンバサダーの小林さんによると、青ヶ島は黒潮の早い海流に囲まれているため、船を港に着けるのが難しく、現在、多くはヘリコプターを利用するとのことだった。

外輪山と内輪山からなる二重カルデラという珍しい地形の青ヶ島
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外輪山と内輪山からなる二重カルデラという珍しい地形の青ヶ島

この旅は、島に上陸はしないが、知識を深め、楽しむためのイベントが充実していた。ランチ前の時間、八丈島でチーズ工房を営む魚谷孝之さんによる「牛と八丈島」という講演会を聞いた。魚谷さんは2013年に八丈島に移住し、初日のディナーでいただいたジャージー牛乳のモッツアレラチーズや、ブッラータチーズなどを作っている。島はかつて、人口より牛の数が多かったが、戦争で軍の食糧になったため牛が激減した歴史を持つという。現在、魚谷さんはジャージー牛の酪農のために、アニマルウェルフェア(※)を大切にしているそうで、島のきれいな空気や水、自然環境の中でのびのび育つ牛たちが想像できた。朝食時には、この工房製のジャージー牛乳のヨーグルトドリンクとプリンも登場し、どちらもコクがあって大変においしかった。

 

※動物の身体的及び心的状態を指す。家畜を快適な環境下で飼養することにより、家畜のストレスや疾病を減らすことが重要とされる。結果として、生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながり、農林水産省も普及に努めている。

魚谷孝之さんによる講演会「牛と八丈島」が行われた。食材の舞台裏を聞くことで、食への興味が高まる
朝食時に提供されたジャージー牛乳のヨーグルトドリンクとプリン

■洋上のグルメギャラリーさながらの、船上デッキBBQ

 

正午近くになり、船は、小さな富士山のような八丈富士がそびえる八丈島の近くまで来た。そしてオープンエアのシーホースプールサイドで、楽しみにしていた「景色と美食を楽しむデッキランチ」がスタート。多彩なビュッフェの中に、白身の尾長鯛の握り寿司、島レモン風味のいなり寿司、明日葉やうみかぜ椎茸のアイスクリームなど、八丈島の食材を使った料理が並ぶ。外のグリルではカニやエビ、肉などがいい香りを上げて焼かれていた。すっかり筆者のお気に入りになったうみかぜ椎茸のBBQも。島レモンのリキュールやレモネード、八丈島産の焼酎を提供するミニバーも登場した。八丈島の漁師さんや島レモンの生産者の方たちもいて、さながら船上の八丈島グルメギャラリーという雰囲気だ。そして、すべて制限なく心ゆくまで楽しめるのがうれしい。

景色と美食を楽しむデッキランチ。太陽のもと、皆で景色と食事、そして音楽を楽しんだ
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景色と美食を楽しむデッキランチ。太陽のもと、皆で景色と食事、そして音楽を楽しんだ
グリルされ、うまみが凝縮されたうみかぜ椎茸
緑色は明日葉、白はジャージー牛、ベージュはうみかぜ椎茸のアイスクリーム

■最高に盛り上がった八丈太鼓とライブショー

 

やがて八丈島の方々による八丈太鼓の演奏が始まった。大きな太鼓の両側から二人が叩く。片方が一定のリズムを刻むように打ち、もう片方がダイナミックなリズムで打つ。それが勇壮な調べとなって、気持ちよく身体に響いた。八丈島の織物、黄八丈の着物姿の女性たちによる民謡も披露され、船から見える八丈島を背景に、一気にお祭り気分に。

 

その後、オルケスタ・デ・ラ・ルスが再びライブショー。昨晩に続きノリノリでかっこいいラテンサウンドが大空に飛んでいく。セットリストの1曲「Azucar Mambo」(アスーカル・マンボ)では、歌詞の「Azucar」が「アスカ」に聞こえるように歌ってくれて、思わず飛鳥の日本人クルーも合唱していた。その後、乗船客やオルケスタ・デ・ラ・ルスのメンバーが飛び入りで八丈太鼓に挑戦するひとときがあったりと、最高に盛り上がった。この機会を通して、八丈島の魅力の一端を知ることができたような気がする。いつかゆっくりと島を旅してみたいと感じた。

プールデッキで開催されたオルケスタ・デ・ラ・ルスのショー。天気とあいまって大盛り上がり
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プールデッキで開催されたオルケスタ・デ・ラ・ルスのショー。天気とあいまって大盛り上がり
ステージからデッキまで飛び出し、盛り上げてくれたメンバーたち
メンバーが飛び入りで八丈太鼓に挑戦するシーンも

■露天風呂と日本の伝統工芸作品の美を楽しむ

 

ところで、飛鳥IIで旅する大きな楽しみの一つは、最上階グランドスパの広々とした展望風呂だ。2020年に新設された露天風呂も気になり、ディナーの前に行ってみた。ちょうど空いた時間で、湯船をほぼ独り占め状態。露天風呂はモダンでスタイリッシュなデザインで、ゆったり広くとても心地良い。外気に触れる、幅の広い湯船から見えるのは水平線とおだやかな海だけ。船の揺れと一緒にお湯も揺れる感覚が面白く、自分が海の中にいるような気分にもなる。ちょうど御蔵島の近くを航行中だったのでイルカがいないかと海面に目を凝らしたり、心身がほぐれるひとときを過ごせた。

 

また、今回久しぶりに乗船して気がついたのは、陶磁器や漆器など、美しい職人仕事の工芸作品を船内のあちこちで目にすることだ。日本工芸会とコラボレーションして展示販売しているそうで、目を楽しませてくれる。一つのショーケースの中に、以前、飛鳥IIで訪れた佐渡島でお会いした、人間国宝の陶芸作家、五代伊藤赤水氏作の無名異窯変徳利を見つけた。なんだか飛鳥llを通したご縁を感じて、密かにうれしさがこみあげてきた。

飛鳥Ⅱ船内では日本の伝統工芸作品が各所に展示されている
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飛鳥Ⅱ船内では日本の伝統工芸作品が各所に展示されている

■クルーズをより楽しむ黄金の法則とは

 

クルーズ最後のディナーでは、料理に合わせたワインのセレクションも。飛鳥IIのスタッフ自らが、山梨県でぶどう栽培からボトルのラベルデザインまで携わったというオリジナルワイン「飛鳥クルーズ駒園甲州 2022」などだ。洗練され、遊び心あるプレゼンテーションの料理の数々に、軽やかな気分が盛り上がった。

 

料理に合わせて、各種ワインのマリアージュもされていた

横浜港に戻る最終日も天気が良く、キャビンのバルコニーで、夜明け前の移りゆく空や海の色、そして日の出を見た。朝食前、7デッキに長く伸びるウッドデッキを散歩していると、前方から、オルケスタ・デ・ラ・ルスのメンバーの方がジョギングしてくるのが見えた。こんなこともクルーズならでは。すれ違う際に、「ライブ演奏、素晴らしかったです」と思わずあいさつすると、足を止めて笑顔で応えてくださった。クルーズをより楽しむ黄金の法則はここにも生きていた。いつだって、早起きは三文の得なのだ。

デッキでジョギングするオルケスタ・デ・ラ・ルスのメンバー。こんなシーンもクルーズならではだ
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デッキでジョギングするオルケスタ・デ・ラ・ルスのメンバー。こんなシーンもクルーズならではだ
ペンアイコン取材メモ

海の上の東京 島めぐりクルーズ
日程:4月16日(日)~19日(水)
コース:横浜~鳥島・そうふ岩クルージング~青ヶ島クルージング~横浜
船名:飛鳥Ⅱ(郵船クルーズ)
総トン数:5万444トン
乗客定員:872人/乗組員数490人
飛鳥クルーズ公式サイト
https://www.asukacruise.co.jp/

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