キュナード・ラインのグリルクラスで、
「お気に召すまま」のクルーズライフ

そう、グリルクラス専用ダイニングの魅力は、なんといってもパーソナル・タッチなサービスだ。とある日には同行者が気を利かせ、バースデーケーキを用意してくれた。すでに誕生日を過ぎていたこともあり、「サプライズ〜!」と言いながら大きなケーキが目の前に差し出されるまで、自分の誕生日のことは完全に忘れていた。ウエイターもマネージャーも、まるで忍者のごとく気配を消してこっそりケーキを運んできたのだ。サプライズもさることながら、そのチームの連携力にも驚かされた。

サプライズといえば、クルーズ終盤に突如テーブルの上にお箸と醤油がセットされていたことがあった。「これは?」と怪訝な顔をすると、「スペシャル・フォー・ユー!」と言って、ウエイターもマネージャーも微笑んでいる。
その笑みの理由はすぐにわかった。なんと日本人のゲストのためにと寿司を前菜として、またもサプライズで持ってきてくれたのだ。その日のメニュー表には、寿司はなかった。我々のためだけに、お米を炊き、寿司を握ったのだろうか。決して大多数ではない日本人ゲストのためだけのサプライズとは。グリルクラスの底力を知った瞬間だった。
正直なところ乗船前は「毎日同じこじんまりしたダイニングで飽きないかな」と懸念していた。グリルクラスに滞在している乗客は、一般のブリタニア・レストランやビュッフェを利用することもできるから、実際に気分転換を兼ねて滞在中に浮気したこともあった。
それでもやはりグリルクラス専用ダイニングに戻ってウエイターやマネージャーの顔を見るたびにホッとしたし、「ここは私の席!」という愛着も湧いてきた。毎晩ディナーには最低でも2時間以上、時に3時間かけたこともあったが、そこには驚くほどあっという間に過ぎていく心地よさがあった。

多彩なキャリアがあるから乗客のわがままに応えられる
専用ダイニング以外、グリルクラスのサービスの大きな特徴が、コンシェルジュとバトラーのサービスだ。彼らは一度で乗客の名前を覚え、「お客さまの荷ほどきから靴磨き、寄港地での特別な手配まで、ありとあらゆるリクエストを受け付けます。もし難しいことがあってもチームで連携し、なんとか解決するようにします」(コンシェルジュのフィリップさん)。
彼らのキャリアを聞いて驚いた。フィリップさんは海洋学を学び、過去に水族館の飼育係として働いていたことも。さらにキュナード・ラインでは医務室やライブラリーなど船内のさまざまな部門での勤務経験がある。クイーンズ・グリルのバトラーのフィルジェムさんはほかの船会社で働いた経験もあり、キュナードでは客室係も経験している。こうした多彩なキャリアがあるからこそ「お客さまが客室に求めるもの、船内サービスに求めるものなどが想像でき、サポートできます」(フィルジェムさん)。あらゆる角度から乗客をサポートできる体制を整えている。
コンシェルジュは専用のグリルズ・ラウンジに駐在していることが多く、「ここにきておしゃべりしていく乗客も多い」とのこと。いることで安心感を覚える人も多いのだろう。
このグリルズ・ラウンジは同じくグリルクラスの専用スペースであるグリルズ・テラスと繋がっている。このテラスは見晴らしがよく、開放感抜群。特に今回はアラスカクルーズであり、デッキに出て景観を眺めるシーンも多かったが、そんなときにゆったりとした専用空間があって良かった。

コンシェルジュのフィリップさん。明るく気さくな人柄でグリルクラスの乗客にとって「頼れる相談役」

バトラーのフィルジェムさん。はつらつとした笑顔で、見かけるとすぐに声をかけてくれた


一度グリルクラスを選んだら次もグリルクラスに
ひょっとしたらクイーン・エリザベスは誤解を受けやすい客船かもしれない。その名があまりに有名なため、「クイーン・エリザベスに乗れば夢の世界が広がっている」と思いがちだ。特に初めて乗る人ほど、期待値は高いだろう。
ただし先述の通り、内側客室のクルーズ料金は驚くほどリーズナブルだ。もちろん内側客室だってクイーン・エリザベスのクルーズライフは存分に楽しめる。
けれども「クイーン・エリザベスらしさ」を感じたいなら、奮発してグリルクラスがいい。特別な船で特別な扱いを受ける……まさに「クイーン」「キング」になったような気分が味わえるのだ。
一度グリルクラスに滞在した人は、次もグリルクラスに滞在することが多いという。「もうグリルクラス以外に泊まれない体になってしまったね……」と、同行者とともに笑い合った。


