飛鳥Ⅱでめぐる小豆島・阿波
美食、美酒、美景をたっぷり味わう6日間
■鳴門海峡の恵みを受ける阿波の地をめぐる
翌4日目、船は徳島小松島港に入港した。この日も秋晴れに恵まれ、徳島名物の阿波おどりと御囃子によるにぎやかな歓迎セレモニーをデッキから楽しんだ。すだちやぼうぜの開きなどの徳島名物が並んだ和朝食で体を目覚めさせ、徳島の景勝や伝統文化を堪能するツアーに参加した。
まずは織工房藍布屋で藍染めを体験する。阿波の藍は正藍と呼ばれ、他の地域の藍と区別されてきたほどの高い品質を誇るという。さて、おっかなびっくり藍染めを開始した。花などの模様が描かれた紙に布をあて、模様に沿って熱い蝋を塗り、布を藍染料(すくも)に浸し染めてから乾かす。すると蝋を塗った部分が白抜きとなって模様が現れた!次は模様紙を使わず思い切り好きな絵柄を描いてみよう。
神秘的な藍の色合いへの感動は、午後に訪れた鳴門海峡の渦巻く海への感動へと引き継がれていく。鳴門うずしお観潮船のデッキから、渦を巻く海の色や逆巻くしぶきのありようがよく見える。すると、さきほどの織工房でふれた阿波しじら織の質感や藍の濃淡と驚くほど似ていることに気付いた。昔の人々は鳴門の海の様子を藍染めで表現しようとしたのではあるまいか。
鳴門海峡で渦潮が起こる理由は、瀬戸内海と太平洋に面した紀伊水道の2つの海域では潮の干満に時間差があるからだという。このように内海と外海がうまく合流しぶつかり合う海域は、身の締まった美味で上質なハモが育まれる絶好の漁場でもある。このため徳島は、全国有数のハモの産地となっている。
そのハモの美味しさを、徳島から国内外に広く届けているのが株式会社ヒロ・コーポレーション取締役の四宮浩氏だ。日本料理人としても活躍する四宮氏はこう語る。「ハモは淡泊な魚で味わいがとても上品です。秋はハモに脂が乗っており、本日の夕食では茶碗蒸しや酒蒸しを通してハモの美味しい出汁を感じ取っていただけますよ」。
はたして、その通りの味わいを堪能した食めぐりディナーとなった。飛鳥Ⅱ限定醸造の日本酒をおともに、あわび柔らか酒蒸しなどの料理を通してハモの品の良い風味を実感できた。ハモの入った椎茸茶碗包み蒸しにすだちをかけると、酸味が加わりさらに香りが際立つ。紅葉鯛と鮪の造りにも、脂が乗り甘みを増した秋の風味がある。この日は徳島の名物や景勝を通して、この地域の文化や伝統を存分に堪能できた。
明けて翌日は終日航海日である。実質船を愉しむ最終日となるこの日は、カクテルフリーパスを使ってカクテルを楽しみつつリラックスしようと決めていた。フリーパスがあれば対象となる8施設の営業中いつでもカクテルを好きなだけ飲むことができる(有料。1日または17時以降有効の2種類)。飛鳥Ⅱのソムリエさんは「いろいろな時間にいろいろな場所で、いろいろなカクテルを味わっていただきたいからフリーパスを作りました。ノンアルコールカクテルの種類も豊富ですから、アルコールを飲まない方もバーの雰囲気を楽しんでいただけますよ。お好きなカクテルを全て制覇することも夢ではありません」と微笑む。そうか、そうしてみよう!と、わくわくしながらフリーパスを購入した。
■TPOに合わせてカクテルを楽しむ1日
ランチの後、イー・スクエアでパソコンを開き、雑事を片付けながらカラフルなノンアルコールカクテルをいくつか試してみた。フルーティながら厚みのある質感で、お酒を飲んでいる雰囲気も楽しめる。しかも酔わないので読書も進み、すっきりした頭で船内イベントにも参加できた。これは健康的だ。日が傾き始める頃、船の最前方から最後の日没を眺めようと思いビスタラウンジを訪れ、この場所のシグネチャーカクテル「グリーンフラッシュ」を注文する。マンゴーとクランベリーの色合いで染まったグラスが、濃いピンクと金色に染まった秋の夕焼けの色にしっくりとなじんでいた。
この日のドレスコードはインフォーマルだ。ドレスアップした人で賑わうピアノバーで、食前酒の定番カクテルとされるシェリーベースの「ビバーチェ」をすする。もちろんフリーパスで。ディナーを楽しんだ後、本クルーズの千秋楽を飾る麻倉未稀さんのショーが始まった。初日のショーに続き、鑑賞するのは2度目となる。麻倉未稀さんと言えば、思春期の頃に見た人気テレビドラマ『ヒーロー』の主題歌を歌う歌唱力抜群のミュージシャンというイメージが強い。しかしニ夜のショーを通して、そうしたイメージを凌駕する麻倉さんの音楽の世界に魅せられた。ポップ、ラテン、ジャズ・・・・・・そしてもちろんあの『ヒーロー』も。この夜はフラメンコを思わせるスパニッシュバージョンで熱唱してくれた。もちろんフリーパスでジントニックも頼んだ。お酒を片手にショーを鑑賞するという、もっともエンターテインメントなお酒の楽しみ方をも満喫した夜となった。
翌日の下船日、リドカフェで朝食を取りながらあれこれ思いを巡らせた。この秋、美味しい食材が豊富に出回っている。しかしその食材が、どこで誰にどのように生み出されるのか、日常生活では詳しく知ることはない。今回のクルーズでは、生産者の方が乗船し、講演を行うという機会も設けられていた。
オリーブやハモの生産者の方々に実際にお会いし、話を聞くことで、生産者の方々がどれほど地域を愛し、信念を持って食材を生み出しているかが伝わってくる。美味しい食材を生かした料理、食材を生産する人々、食材が育まれる美しい地域。それらが立体的に結びついた実りある秋の日々となった。このようなクルーズを今後もっと体験したいものだ。
小豆島・阿波オータムクルーズ
日程:2023年10月21日(土)~26日(木)
コース:横浜~小豆島~小松島(徳島)~横浜
船名:飛鳥Ⅱ(郵船クルーズ)
総トン数:5万444トン
乗客定員:872人/乗組員数:約490人
取材協力:郵船クルーズ