にっぽん丸が魅せた
雨の「プレミアム」な船旅

今回は熊野古道のお膝元・新宮に寄港&停泊するクルーズで、
歌手の平原綾香さんのコンサートが見どころ。
出発前は「クルーズは晴れがいい」と思っていたけれど……。
アクセスしにくい世界遺産に
「にっぽん丸」で楽々と
「雨マーク、消えませんね……」
横浜港で今回の撮影を担当するカメラマンさんと合流し、まずそんな会話を交わした。横浜港では青空の下で「にっぽん丸」が燦然と輝いているが……明日からの寄港地である新宮の天気予報には大きな雨マークがついている。
今回参加するクルーズは、「にっぽん丸で航く 熊野プレミアムクルーズ」。プレミアムと銘打っているのは、世界遺産に指定されている熊野三山のひとつ、熊野速玉大社で平原綾香さんのコンサートが組み込まれているからだ。
「組み込まれている」とはすなわち、このクルーズに乗船した人なら誰でも、無料でコンサートに参加できるということ。その意味でも「プレミアム」なクルーズだ。
ただし当日の夜、雨、しかも大雨が降ったら……。もしや中止?場所変更? そんな不安を抱えた乗客を満載にして、にっぽん丸はゆっくりと横浜港から出港した。




翌朝到着した新宮港は、ほどよい日差しに包まれていた。雨でなくてよかった、とホッと胸をなで下ろす。この日は寄港地観光ツアーに参加し、熊野三山のひとつである熊野那智大社などをめぐる。
バスが走り出して早々、車窓からの景観に目を奪われる。「この季節は新緑が最も美しい季節になります」。バスガイドさんのそんな説明に、乗客一同、深く頷く。
世界遺産に登録されている熊野古道。「古道」と名がついている通り、そこは熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社、那智山青岸渡寺を詣でる古くからの参詣道で、だからこそ豊かな自然に包まれている。山肌を眺めると、ところどころ原生林があることに驚く。その一帯は黄緑色を中心に、淡い緑の濃淡が織りなすグラデーションが美しい。
「山深いところですよねえ。そこにおいしいディナーをいただいて、落語で大笑いして、一晩寝たら着けるなんて。船旅はやっぱり楽よねえ」。寄港地観光ツアーで一緒になったご夫婦と、そんな会話を交わし、深く頷きあった。

いい季節にいい場所へ
初めての場所は寄港地観光ツアーで
到着した朝から、寄港地観光ツアーに参加した。熊野エリアは山深く、見どころが点在しているため、公共交通機関でめぐるのはハードルが高い。岸壁に並んだバスに案内され、さっそく寄港地観光ツアーのありがたさが身に染みた。
ツアーは早々に熊野古道の真髄へ。大門坂では両脇に立ち並ぶ杉の大木に見惚れ、そして那智の滝、熊野那智大社とめぐった。昨晩も熊野では雨が降ったようで、那智の滝では上から落ちてくるような迫力の水しぶきが感じられた。那智大社の朱色と新緑の淡い緑のコントラストが目にまぶしい。にっぽん丸は本当にいい季節にいい場所に連れていってくれる。




那智大社のすぐ隣に青岸渡寺が並ぶのを見て、神仏習合という独自の熊野権現信仰を肌で感じる。青岸渡寺の本堂の中には、「ここはお寺ですので、拍手はせず、手をお合わせください」と書いてあったのが目を引いた。日本各地を旅していると、時に廃仏毀釈の歴史を感じるシーンがあるが、ここ熊野では、神も仏も仲良く共存している。
その後、那智勝浦名物のマグロに舌鼓を打ったあとは、橋杭岩の奇勝に目を見開いた。写真で見るよりも圧倒的にスケールが大きい。「いまは引き潮だからさらに迫力がありますよね」。ガイドさんがそう説明してくれた。潮の香りを感じながら、実際に来てみないとわからないことがたくさんあると改めて感じる。
ツアーバスは本州最南端の碑にタッチして達成感を与えてくれたあと、無事ににっぽん丸に戻ってきた。ただしその頃には残念ながら空は灰色の雲に覆われ、激しい雨に見舞われていた。

