■太平洋フェリー3隻にも「つながる」が導入
フェリーに乗って沖へ出ると、いつの間にかスマートフォンの電波が弱くなる。そんな経験をした人も多いのではないだろうか。船旅の間くらい、スマホから離れてデジタルデトックスするのもいい。とはいえ、家族や友人に連絡したり、旅先の情報を調べたり、SNSに写真をアップしたり。海の上でもインターネットが使える安心感は、やはり大きい。
クルーズ船ではすでにおなじみとなった、衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」を利用した船内Wi-Fi。ここ1~2年、その波は国内の長距離フェリーにも広がり、“海の上ではつながりにくい”という状況が大きく変わり始めている。
太平洋フェリーでは2026年7月1日から、名古屋―仙台―苫小牧航路に就航する「いしかり」「きそ」「きたかみ」の3隻で、Starlinkを活用した「フェリーWi-Fi」をスタートした。

このサービスは、KDDIとワイヤ・アンド・ワイヤレスが提供するもの。多数の低軌道衛星を経由することで、携帯電話の電波が届きにくい洋上でもインターネットに接続できる。
通信速度は最大220Mbps。太平洋フェリーでは指定された船内のパブリックスペースで利用でき、料金は24時間1500円。auなどの対象プランを利用している場合は無料となる。
通信速度は海域や天候、船内の利用状況などによって変化する。陸上の光回線とまったく同じ感覚で使えるとは限らないものの、これまで通信が難しかった沖合でもインターネットを使える場面が増える意味は大きい。

■国内の長距離フェリーで導入広がる
KDDIの「au Starlink フェリーWi-Fi」は2025年から本格的な展開が始まり、東京九州フェリーを皮切りに、新日本海フェリー、オーシャン東九フェリーなどへと広がった。新日本海フェリーでは、一部の船で客室も利用エリアになっている。
商船三井さんふらわあも2026年3月までにフェリー全10隻へStarlinkを利用した船内Wi-Fiを導入。阪九フェリーでもStarlinkによる通信サービスが使えるようになるなど、国内の長距離フェリーを取り巻くネット環境は、このところ急速に進化している。
KDDIによると、すでに導入されている航路で「au Starlink フェリーWi-Fi」を利用した際の接続率は98.1%。SNSをチェックしたり、動画を見たり、ときには仕事をしたりと、洋上でも普段に近い感覚でインターネットを使えるようになりつつある。

■最大40時間の船旅だからこそ生きるWi-Fi
こうした変化は、太平洋フェリーととりわけ相性がよさそうだ。
太平洋フェリーは、単なる海上交通ではなく、乗っている時間そのものを楽しむ“船旅”に力を入れてきた。「いしかり」「きそ」には、吹き抜けのエントランスをはじめ、レストラン、展望大浴場、ラウンジなどがそろい、夜にはラウンジショーが行われることもある。船内の美しさや食事のおいしさ、スタッフの丁寧な対応にも定評があり、クルーズ船を思わせる時間を楽しめる。
CRUISE読者からも長年にわたって支持されている。「いしかり」は「クルーズシップ・オブ・ザ・イヤー2025」のフェリー部門で第1位を獲得。太平洋フェリーの船は、同賞の第1回から33回連続で受賞している。
名古屋―仙台―苫小牧を結ぶ航路では、全区間を利用すると約40時間を船上で過ごす。海を眺め、大浴場でのんびりし、食事やショーを楽しみ、客室でゆっくり眠る。飛行機や新幹線とは違い、目的地までの時間そのものが旅になる航路だ。
そこへ今回、Starlinkによる“つながる快適さ”が加わった。船内で過ごす時間を楽しみながら、必要になればスマートフォンを取り出し、家族や友人に連絡する。翌日の天気や寄港地の情報を調べる。仕事のメールを確認する。そんな過ごし方ができるようになった。仕事を抱える人や子ども連れの家族、長時間の船旅に慣れていない若い旅行者にとっても、通信環境の進化はフェリーを選ぶ大きな後押しになりそうだ。



■船旅の魅力はそのままに、便利さをプラス
フェリーの魅力は、洋上で流れる時間をゆったり楽しめることにある。Wi-Fiが使えるようになっても、その魅力が薄れるわけではない。つながりたくないときにはスマートフォンを置き、必要なときだけオンラインに戻ればいい。
「フェリーは時間がかかる」から、「フェリーなら移動時間も楽しく、有効に過ごせる」へ。洋上のWi-Fiは、船旅の新しいスタンダードになりつつある。







