空と海の間に

クルーズ・ジャーナリスト藤原暢子氏による連載。
これまで数多くのクルーズに参加したジャーナリストがつづる、
時に泣けて時に笑えて存分に役に立つ、クルーズ・エッセイ。
【空と海の間に】チャータークルーズの魅力と乗客参加型企画の可能性<第4回>
イラスト=小田切ヒサヒト

【空と海の間に】第4回テーマ:チャータークルーズの魅力と乗客参加型企画の可能性

友人から「奈良のホテルを2泊3日貸し切る企画があるけど、行かない?」と誘われた。奈良は縁がなかったので誘いに乗ってみた。 「出張でお世話になるホテルがコロナ禍は大変なので、少しでも恩返しになれば」という趣旨だったらしい。人づてに広まって、1 5 8室のホテルに約300人が集まった。食事は3食込み、ヨガや料理教室、いくつかのイベント、奈良の物産展などが用意されているが、参加はどれも自由だ。

 

この話を聞いた時、「旅行会社がやっているチャータークルーズと似ているな」と思った。チャータークルーズとは、顧客たちの要望を加味しながら、旅行会社が客船を貸し切って行うもの。テーマや寄港地を決め、寄港地での観光や、その地の伝統芸能の披露、物産展、季節に合わせたイベントや食事などを盛り込む。

 

チャータークルーズの魅力は、その旅行会社のこだわりが打ち出されること。いつもお世話になっている旅行会社のスタッフの方と船上で直接会えたり、奮闘している社員の方の姿を見られたりと、今まで参加したチャータークルーズにさまざまな思い出がある。

チャーターの新しい可能性

今回のホテル貸し切り企画は平日で奈良という場所にもかかわらず、日本各地から30~50代の人が多く集まった。私のように友人に誘われて参加した人が多かったので、参加者同士はほぼ面識がない。

 

主催者の発案で、初日の夕食だけ興味深い“席決め”をした。ロビーに全員が集まり、白いA4サイズの紙を渡される。そこに自分の興味があることを3~5個書く。書いた紙を掲げて、どれか共通項のある人を円卓の8人分見つけて、夕食を共にしようと言うのだ。

 

一緒に参加した友人同士、一緒に座りたい人はそれでもいい。私はせっかくなので友人と別れて、「旅、犬、ゴルフ、海」と紙に書いて、どれか同じ興味を持つ知らない7人の方とご一緒した。いくつかの共通項があるので、話が盛り上がるし、その食事以降は知らない方と話すのが気楽になった。

 

日本船の長めのクルーズだと、「〇〇県出身の方の集い」などが催されたり、ダンスや囲碁、絵画教室などがあったりして、お互いの趣味を知ることができる。今回のイベントはその「即効版」という感じだ(初日だったので、食事仲間を探すのは実に緊張した)。

【空と海の間に】チャータークルーズの魅力と乗客参加型企画の可能性<第4回>
初日のみ、“趣味や興味”が共通する人と初対面でディナー。客船でもこのような試みは興味深いかも

もうひとつ興味深いと思ったのが、ホテルは貸し切りなので、常識の範囲内なら何をしてもいいことだ。参加者の一人で盆栽園をしている方が、ホテルと主催者に許可を取って、大小たくさんの盆栽を持ち込み、ホテルの至る所に飾っていた。一人で200くらいの盆栽の搬入と設置は大変そうだったが、和テイストの内装のホテルに盆栽がとても似合った。

 

ホテルが盆栽の展示会場となるなら、チャータークルーズでも、絵画やオブジェなど、参加者が自分の趣味や職業を紹介する興味深い展示ができる。展示だけでなく、得意なことを教えたい人がいれば、教室開催なども可能だ。

【空と海の間に】チャータークルーズの魅力と乗客参加型企画の可能性<第4回>
参加者が当日に持参した盆栽をホテル各所に配置。公室の多い客船なら、同時にいろいろな展示やイベントもできそうだ
テレワークの副産物

ホテルでの夕食時、「実は私、客船の取材をしています」と会ったばかりの食事仲間に言ってみた。

 

「客船も貸し切りクルーズができるんですか? 同じ2泊3日でも船なら毎日違う場所を訪ねられて楽しそうですね!」。

 

「テレワークで毎日出社しなくてよくなったので、最近は平日でもイベントに参加できるようになりました。日中、船内でインターネットが通じるなら、オンライン会議だけ出たりできますね」。

 

皆さん前向きで興味津々にいろいろと聞いてくれるし、さまざまな案も出てくるので、うれしくなってしまった。客船の施設やホスピタリティー、さまざまな工夫に加え、事前に何かやりたい人は相談しておけば、きっとチャータークルーズはさらに豊かになる。

 

偶然に参加した“ホテルの貸し切り企画”だったが、これの企画は客船でも、いや客船ならこれ以上のことができる。今まで客船を意識していなかった層やテレワークで働き方が変わった人などが新たな“クルーズ愛好者”になってくれそうなことがわかった貴重な機会となった。

プロフィール

藤原暢子〈ふじわら・のぶこ〉
クルーズ・ジャーナリスト。これまで国内外120隻以上の客船・フェリーで約100カ国をめぐる。長崎市生まれ。4人姉妹の4女ながら、五島列島にある先祖のお墓参り担当。

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