空と海の間に

クルーズ・ジャーナリスト藤原暢子氏による連載。
これまで数多くのクルーズに参加したジャーナリストがつづる、
時に泣けて時に笑えて存分に役に立つ、クルーズ・エッセイ。
【空と海の間に】“味見のクルーズ”から生まれる、のんびり滞在旅の選択肢<第5回>
イラスト=小田切ヒサヒト

【空と海の間に】第5回テーマ: “味見のクルーズ”から生まれる、のんびり滞在旅の選択肢

「クルーズは味見の旅」とよく言われる。寄港地での滞在時間は短いが、いくつかの寄港地をめぐって、気に入った場所があれば、次回はそこをゆっくりと訪ねる……という考え方だ。

 

確かにギリシャのサントリーニ島に寄港して、夕方船に戻る時、あちこちに小さなホテルがあって「ああ、いつかはこの島のホテルに滞在して、ゆったりと夕日が沈んでいく景色を見たい」と思う。

 

先日北欧とバルト海をめぐったが、初めて訪ねた街が4つもあった。何度か行ったことのあるハンブルクやヘルシンキ、ストックホルムでさえ、歴史や文化、人々の生活を掘り下げるには時間が足りない。その地に合わせて設計された美術館など新しい名所もできていて、またもや「ゆっくり来て数日は過ごしたい」と思わずにはいられない。

 

実はいま、私は半年間のイタリア遊学をしている。学生ビザを取り、アパートを借りて午前中はイタリア語の学校に通っている。

 

仕事やプライベートで何度も来ているイタリアだが、日本と似た風土がありつつも、人々のメンタリティーは正反対だったりする。

 

数日の滞在では底知れないこの国を、今回はゆっくり体感するのもよいのではないかと思ったのだ。パンデミックで縮こまった自分の心を、違う場所で俯瞰したり、軌道調節するのもよいかもという考えもあった。

 

イタリア語を極めようという決意は年齢的に(?)そう固くないが、この国ならカタコトでも受け入れてくれる寛容さもありがたい。周囲のイタリア人たちのおかげで今まで表面しか見えていなかったこの国の人々のことや歴史、生活、地域性などを少しずつ知ることができている。

クルーズならではの多様性

「欧州6都市7日間ツアー」のような、バスで有名な観光地だけを見まわる旅もある。しかし、短い日程で色々な国や港を訪れるには、クルーズに軍配があがりそうだ。移動は寝ている間だし、荷物も自分の客室に置いたままでよいので、時間のロスが少ない。さらに寄港地ではさまざまなツアーが用意されているので、興味のある場所や内容のものに参加して、新しいことが体験できる。ありがたいことに多くの国や街が海に面しているし、内陸であっても川があればリバークルーズがある。

 

1回のクルーズで訪ねる国の数が複数になるのはもちろんだが、外国客船ならば乗客やクルーを合わせると何十カ国から集まっている。何かのきっかけで仲良くなったら、その人の国について話を聞くことができるので、クルーズエリア以外の国のことを知ったり、興味を持ったりできる。

 

さらには船上で出会った人を訪ねる旅をする機会もあるかもしれない。

 

私は20年前以上にカリブ海で会ったベルギー人の女性と仲良くなり、出会った年から毎年ベルギーに遊びに行き、その家に数日滞在するのが恒例行事だ。さすがに出張の帰りや夏休みに数日寄るだけだが、20年以上通っていると、その国の暮らし方などもだんだんと見えてくる。

【空と海の間に】“味見のクルーズ”から生まれる、のんびり滞在旅の選択肢<第5回>
寄港地(または船上)でのご当地料理教室などで興味を持った国に改めて行き、短期料理教室を習うのもいい
味見とのんびり滞在

今回なぜイタリア滞在かというと、イタリア船社が日本人に地中海クルーズを積極的に売り始めた20年以上前、「それは面白そう」と乗りに行ったのがきっかけだ。

 

当時は若いイタリア人カップルがハネムーンで乗っていることが多かった。欧州で一番英語を話せないのがイタリアな上に、イタリア人乗客もまさかわざわざ日本人が同じ船で地中海をめぐっているとは想像もしない。エレベーターで一緒になると「何階ですか?」と聞いてくれるが、当たり前のようにイタリア語だった。

 

その後、日本でNHKイタリア語講座やイタリア語教室で最低限のイタリア語を勉強した。訪ねる国の言葉が少しでもわかると旅はもっと豊かになる。

 

というわけで、今回私の場合は、〝味見クルーズ”からイタリアが〝のんびり滞在”の地に選ばれた。

 

次はまた他の国や街かもしれないし、また別のクルーズで〝ちょっと長めに滞在したい”という場所を探しに行くしかもしれない。

 

【空と海の間に】“味見のクルーズ”から生まれる、のんびり滞在旅の選択肢<第5回>
建築・アート好きは改めて一つの国やエリアでアート三昧滞在も(写真は世界最高の図書館に選ばれたヘルシンキ図書館)
プロフィール

藤原暢子〈ふじわら・のぶこ〉
クルーズ・ジャーナリスト。これまで国内外120隻以上の客船・フェリーで約100カ国をめぐる。長崎市生まれ。4人姉妹の4女ながら、五島列島にある先祖のお墓参り担当。

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