暮らすように旅する「飛鳥Ⅱ」
のんびり秋旅クルーズ、瀬戸内の島を眺めて美食と健康を
高松は、日本屈指の「海とともにある街」とも言える。幾多のフェリーが市街地目前に着き、柵のない桟橋で人々が海と船を見て憩う。高松城址の玉藻公園も、歩いて行くのにちょうどいい距離。天守閣こそ現存しないが海に接する城址は珍しく、堀を泳ぐ魚は何と鯉ではなくて鯛。マダイやクロダイに向かって観光客がのんびり餌を投げている。
瀬戸内海のそんな穏やかな空気が船上生活にも乗り移ったかのようで、露天風呂から望む多島海美や、朝日を浴びてデッキを歩くウオーク・ア・マイルも実にすがすがしい。
インストラクターの西村千絵先生いわく、「足に優しいウッドデッキを一周回れる船は少なくて、チーク材を敷き詰めた飛鳥Ⅱは本当にいい船です。身体的な健康と波の音のヒーリング。体全体の感覚が呼び覚まされる感じです」。
●今航テーマの「飛鳥 食めぐり」。寄港地の山海の幸や名物が食膳に
今回のクルーズのテーマのひとつが「飛鳥 食めぐり」。航程中を通して、行く先々の寄港地の山海の幸、名産の食材や調味料をメニューに盛り込む試みだ。醤油蔵や漁協といった納入業者も同乗し、ダイニング入口脇に食材を並べて興味を持った乗客に説明もする。
使った食材は、高松までは小豆島の手延べ素麺や醤油、オリーブオイルコンフィなど、高松では瀬戸内六穀豚や瀬戸内牛など……といった具合。また、新宮市では世界初の完全養殖で話題になった近大マグロにフォーカス。
近大マグロに関しては、近畿大学水産研究所の所長・升間主計教授の講演が船内であった後、新宮寄港で近大マグロの餌やり体験を希望者に実施。さらには船内5デッキのアスカプラザで解体ショーをやり、そのマグロを後日の昼食で握り寿司で提供するという手の込みようだ。
完全養殖には実に32年もの歳月がかかったそうだ。ツアーでは串本港までバスで行き、島と橋とが織りなす美しい入り江に浮かぶ筏に漁船で近づく。すかさず升間教授が拡声器で解説してくれる。
「大きいマグロの生簀は直径30メートル、深さ10メートル。300匹が入っていますが、回遊魚ゆえ他の魚に比べて少ない数字です」。
誰もが興味津々ながら、聞こえる声がほぼ「おいしそう!」だったのも微笑ましいこぼれ話だ。
食をテーマにとことん楽しむ。そんなクルーズも飛鳥Ⅱの新たな魅力に違いない。和食料理長を務める内藤一馬シェフによれば、「こうした食の祭典を1週間以上のクルーズを通して催すのは今回が初めての試みです。お客さまにはとても好評ですし、業者の方々も喜んで乗ってくださいます。今後もこうしたクルーズを増やしたいですね」。
上陸して観光し、その地域の景色や風土を肌で感じ、名産の食べ物を知り、すぐさまそれを船上でとっておきの料理として味わう。これに勝るぜいたくは他にない。