【乗船レポート】持続可能で先駆的なMSCクルーズの最新客船
「MSCワールドエウローパ」
●海水からできるビール
反響が大きかったのは、船上初というビール醸造所だ。イタリアのパラディン・ファーム・ブリュワリーと提携し、海水を淡水化して船上でビールの醸造を行っている。ピルスナー、ダーク、ウィートという3種類のオーシャニック・クラフトビールは「マスター・オブ・ザ・シー」というパブで醸造タンクを眺めながら味わうことができる。ブリュワリー会社の熱意ある創設者にとってもMSCクルーズにとっても、困難な場所で創意工夫(そして味)が求められる大きな挑戦。それを乗り越え、パブは毎晩盛況だ。自分たちが航行する海の水でつくられるビールを味わう……。淡水化するとはいえ、「船上でのビールのためにも海の環境を守らねば!」と、乗客の意識改革に少しでも繋がるかもしれないと思うと、実に興味深い。


パブは2フロアになっていて、上階は「ザ・ジン・プロジェクト」というジンの専門フロアになっている。70種類以上のジンがそろっており、ジン・テンダーがリクエストに応じて作ってくれる。また、各種シェイカーが準備されていて、乗客が好みのボタニカル(ジンに風味などを加えるもの)を選んで、オリジナルのジンを作ることも可能だ。自分で作る知識がない私は、「ジンは弱めでフルーティーに」とリクエストすると、ほんのり甘いジンが運ばれてきた。皆、毎回いろいろなジンやボタニカルを変えつつ、味見し合う姿も微笑ましく、まさに「プロジェクト」であり、コミュニケーションを楽しむ場所でもあった。


他にも新感覚のカクテルが味わえるミクソロジー・バー「エリクシール」、スピリッツやシガーをそろえた「モルト・ラウンジ」、シャンパン・バーの「フィズ」と多彩なアルコールを独自の雰囲気で味わえるバーがそろう。もちろん、気軽に立ち寄れるバー&ラウンジも各所に備えている。


●楽しみの中で乗客ができる努力
客船が大きいだけにレストランやバー、ラウンジの数も多いが、そこで飲食するものの知識を得たり、環境を考える仕組みになっている場所が散りばめられていて、「なるほど!」と思わずうなってしまうのは、さすがMSCクルーズ。
今回意外だったのが、IDカード兼ルームキーは客室に入ったら、ドア横の差し込み場所に挿入しないといけなかったことだ。外出時に取り忘れるなど、不便さもあるが、外出している間は不要な電気を使わずに済む。中東の暑い国だったので、窓もしっかりとレバーを閉めないとエアコンが作動しない仕組みになっていた。さらに客室に置いてあるゴミ箱も「紙」「食べ物」「プラスチック」に分かれていたのが印象的だった。



●落ち着きと子供心
MSCクルーズの客船は華やかでプロムナードを歩くだけで毎回心踊るが、前述のように学びやサステナビリティーを意識すると、これからも客船の旅を楽しむのであれば個人単位でもできる努力をしようと思うようになる。
一方で全体の内装が落ち着いているので、各施設の一つひとつが引き立っていた。撮影だけで終わらせずに、「実際に挑戦してみよう!」というものが多かった。


「MSCルナ・パーク」エリアにある「5Dシネマ」(10人ほどでゾンビなどと戦う)や、スポーツ・プレックスにある、車をぶつけ合って遊ぶ「バンパー・カー」など、体験型ゲームを本気でやったのはいつ以来だろう。20デッキから8デッキまで曲線を滑り降りる「ザ・ヴェノム・ドロップ@ザ・スパイラル」は服を着たままできるので、3日間で2回もやってしまった。屋外の「ワールド・プロムナード」に到着するので、そのままお茶を飲んだり、船尾からの景色を眺めたりできるのがいい。それが理由かわからないが、多くの大人が童心に返って滑り降りてきていた。




MSCの船は子供向け施設が年齢に合わせて設置されているので、大人も遠慮することなく遊べるし、静かな休暇を求める時は“大人専用”の施設もあるのがありがたい。ショーも各所でクオリティーの高いエンターテインメントが上演されるので、まったくもって時間が足りない。




