おかえり!ダイヤモンド・プリンセス
国際クルーズ船の日本受け入れ再開に寄せて

●アップデートした船内サービス

 

果たして久々に対面したダイヤモンド・プリンセスは、なんだか以前の記憶以上にピカピカして見えた。ダイヤの輝きをまとった……というと言い過ぎだろうか。3年分は歳をとっているはずだが、その間にしっかりメンテナンスしていたのだろう。

 

実際、ダイヤモンド・プリンセスはコロナ禍で船内サービスをアップデートしている。「メダリオン」というデバイスを船内で使えるようになったのだ。

 

これは時計やキーホルダーやネックレスにもできるメダル型のデバイスで、これがあることによって新たなサービスが享受できる。例えば客室のドアは自動で開くし、プールのそばのデッキチェアに寝転んだままドリンクをオーダーすることだってできる。

 

GPS機能も搭載しているから、スマホを介して家族がどこにいるかがわかる。11万トンの広い船内では迷うこともしばしばだが、メダリオンがあれば同行者と離れてもすぐに再会できる。もっとも、夜な夜なこっそりバーに通うのが好きなお父さんは、居場所がすぐにバレてしまうがゆえ、「また飲んだくれて!」と家族から怒られることもあるかもしれないが。

 

実際、神戸港についた乗客の多くは、首からメダリオンを下げていた。「これ、便利だよ!」と言いながら。こう書きながらも私自身、まだメダリオンは未体験だ。やっぱりこれは自分で乗ってみるまではわからない。

元町行きのシャトルバスに並ぶ乗客やクルーたち
神戸港では案内役の「おもてなしクルー」も大活躍。神戸チェックのハッピが目をひく

●待ち受ける報道陣とクルーズ船の感染症対策

 

神戸港では多くの報道陣が彼女の入港を待ちわびていた。下船してターミナルから出てきた瞬間、報道陣に囲まれて「スターになった気分だよ」と笑う乗客も。

 

船から下りてきた乗客の方々に話を聞くと、皆「日本に来たかったからこのクルーズを選んだ」と口を揃えた。出航地サンディエゴから25日もの日程をかけてはるばる日本にやってきた乗客たちは、いそいそとツアーやシャトルバス、そしてポートライナーに乗り込んでいった。驚くことにその中には数百人の日本人乗客がいるという。やはりダイヤは「日本人に心地よい客船」だ。

 

乗客はアマデアの時と同様、皆マスクをしていた。聞けば船内でも屋内パブリックエリアではマスクを着用するようにアナウンスがあったという。「クルーズ中、クルーは全員、乗客も99パーセントがマスクをしていた」と下りてきたクルーの一人が教えてくれた。

 

このクルーズで乗客の多くを占めるのはアメリカ人だ。私自身、昨年の11月にアメリカでクルーズ船に乗ったが、その時は99パーセント以上の人がマスクをしていなかった。そんなノーマスクの国からやってきた人に「マスクはどう?」と聞くと「仕方ないよね」と皆大人の対応だった。郷にいっては郷に従え、というところだろうか。

 

あわせてその他の船内の感染症対策などについても聞いてみた。「これまで通り、手洗いをするようアナウンスがあったし、消毒ジェルもあちこちにあった。とてもヘルシーなクルーズだったし、私たちは健康よ」。乗客の一人からは、そんな朗らかな答えが返ってきた。「日本を楽しんでくるね!」。今を楽しもうと、足早に去っていく乗客たちに「よい一日を!」と声をかけた。

 

外国船の受け入れ再開に当たっては、外国クルーズ船社が加盟する日本国際クルーズ協議会(JICC)が「国際クルーズ運航のための感染拡大予防ガイドライン」を定めている。乗客の95%以上がワクチンの2回接種を求められるなど、陸上の旅行と比してはるかに厳しいものだ。実際、これから日本の港では外国船の船内を見学する会なども予定されているが、船によっては船内に入るためだけに抗原検査を受ける必要がある。地球上の施設で、そんな厳格な対策をとっているところは、他にないだろう。それでもやっぱりクルーズ船には「集団感染した」という枕詞がつくことがある。事実は消しようもないが……。

 

神戸ポートターミナルに待ち受ける報道陣。下船してこの光景に驚いた乗客も多い
カナダからの乗客は「普段もスーパーなどではマスクをしているから、気にならない」と語った

●経済効果は1人平均100ドル×2700人分、プラスアルファの乗組員分も

 

神戸港に入港する際、神戸市港湾局振興課の瀬沢孝至課長は「神戸経済への貢献を期待している」と語っていた。実際、下船した乗客たちは「神戸ビーフを食べたい」「京都の神社に行く」など今日のプランを楽しそうに教えてくれた。ターミナルには、神戸港でも横浜港でも、彼らを待つ大型バスがずらりとん並んだ。

 

米国に拠点を置くCLIA(Cruise Lines International Association)によると、寄港地1カ所あたりの平均的な経済効果は乗客1人当たり100ドルだという。ダイヤモンド・プリンセスは2600人が乗船する船だ。すなわち1日数時間の寄港でざっくり3000万円以上の経済効果が見積もれる。さらに外国船のクルーたち、特に大多数を占めるフィリピン人クルーは日本が大好きだ。中には「今日はラーメン食べるよ!」と教えてくれたクルーも。ダイヤモンド・プリンセスは乗組員だけで実に1100人もいる。

 

もちろん、経済がすべてではない。神戸港ではベビーカーを連れた家族連れが、船をバックに記念写真を撮っていた。ブラジルから来たクルーは、「ブラジルは地球の反対側だもの。日本に来られてうれしい」と笑顔を見せた。これまで同船が訪れた港町では、高校生による英語でのボランティア活動も実施されている。「客船は港の華」、港はやっぱりにぎわいがあってこそ、人と人、文化と文化の交流があってこそだ。

ブラジルから来たクルーは、京都へ向かう寄港地ツアーに参加。乗客とコミュニケーションをとる部署におり、「寄港地ツアーは仕事の参考にもなる」と語った
ポートターミナルに停泊中のダイヤモンド・プリンセス前では、記念写真を撮る人が多くいた

横浜港に着岸時、それまで降り続いていた小雨がサッとあがり、船体が朝日に照らされて輝やきだした。やはりここでも「見えない不思議な力」が働いているように思えてならなかった。

 

ダイヤモンド・プリンセスはこれから11月まで、大規模な日本発着クルーズに就航する。さらに日本には続々と外国客船が来航する。日本の港が再び花開く日がついにやってきた。

 

横浜港で朝日に照らされるダイヤモンド・プリンセス。直前まで曇っていたのが、あっという間に晴れて驚いた
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横浜港で朝日に照らされるダイヤモンド・プリンセス。直前まで曇っていたのが、あっという間に晴れて驚いた
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