●特別感にあふれる寄港地ツアー
寄港地の和歌山では昼と夜、二つの寄港地ツアーに参加した。にっぽん丸が和歌山港に入港するのは、実は十数年ぶりのことだという。念願叶ったという言葉を裏付けるように、寄港地ツアーは特別感にあふれるものだった。特に夜のツアーはクルーズ代金に含まれた無料のもので、和歌山城の一部を貸切り、特別な空間を演出するというから期待が高まる。
日中の寄港地ツアーは今回が初開催というもので、和歌山電鐵貴志駅のスーパー駅長であるネコの「たま」をモチーフにしたローカル線に約30分揺られる鉄道旅行からスタート。車両にはネコ耳、ノスタルジックな内装の車内も座席シートやブラインド、窓、電灯と随所にネコ・ネコ・ネコで彩られる。座席の脚もネコ脚、車内に設置された本棚にもネコ関連の書籍をそろえる徹底ぶりだ。
折しも、和歌山は桜の時期。鉄道沿線にも桜の名所が連なり、車窓から花見気分まで堪能できた。終点の貴志駅では、たま駅長がお出迎え。ネコ好きならずともその愛くるしい姿にメロメロになり、駅舎に併設されるショップではたま駅長グッズが飛ぶように売れていた。
貴志駅を後にし、いちご狩りへ。和歌山県オリジナル品種のいちご「まりひめ」は、ほぼ県内で消費されてしまうため、県外ではほとんど流通しない。農園を貸し切り、ご当地ならではの味覚をたらふく楽しんだ。






●にっぽん丸だけの特別な一夜
夜は、和歌山城での能楽鑑賞。満開の桜に彩られたべストシーズンの和歌山城公園で、特等席とも言える一画に設置された野外能舞台は、にっぽん丸の乗客のためだけに用意されたもの。幻想的にライトアップされた天守閣を背景にした能舞台に、シテ方観世流能楽師・片山九郎右衛門が現れ、優美な舞を披露した。
演目は、舞囃子「吉野天人」。吉野山の桜を見にきた都人がそこで出会った美人が実は天人だったというお話。終盤に風が吹き、能舞台に向かって夜桜がふわりと舞い散った。奇しくも、天人が花の雲に乗って消え去る場面と重なり、儚く美しいシーンを際立たせるような偶然の演出となった。終演後もしばし幽玄世界から抜け出せなかった。



