春を訪ねる「にっぽん丸」でクルーズデビュー

●美食の船と呼ばれるにふさわしい

 

“美食の船”として知られるにっぽん丸。“クルーズでは1日7食楽しむ”という噂も本当で、クルーズグルメは期待以上に楽しかった。食事代は旅費に含まれるため好きなだけ楽しめるということもあり、船内では“おいしい情報”があちこちで飛び交う。

 

にっぽん丸で必食とされる名物がいくつかある。そのひとつが「にっぽん丸の代名詞」と掲げられる「白パン」だ。にっぽん丸では、パンは専門職人が生地から手がけている。メインダイニング「瑞穂」の朝食会場には、パン職人が夜明けから焼き上げたパンがずらりと並ぶ。「白パン」はきめ細やかでもっちりふわふわのシンプルな食パン。噛むほどに小麦の甘味が広がり、白パン目当てに乗船する人もいるというのに納得した。

 

展望浴場のグランドバスでご婦人方が「毎日行こう」と楽しそうに話していたのが、「リドテラス」で提供されるゴディバの特製ドリンク「ショコリキサー」だ。ゴディバの深い味わいが楽しめる贅沢なチョコレートドリンクが気軽に飲めるとあって、幾度となく列をつくる人気ぶりを見せていた。

メインダイニング「瑞穂」の朝食。惣菜パンや菓子パンなど種類も豊富で毎朝10種以上のパンが並び、ビュッフェの一角には常に人だかりができていた
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メインダイニング「瑞穂」の朝食。惣菜パンや菓子パンなど種類も豊富で毎朝10種以上のパンが並び、ビュッフェの一角には常に人だかりができていた
プールサイドで濃厚な「ショコリキサー」をゆったりと味わう自分へのご褒美タイム
新たに提供を始めた生ビールとベストマッチのアフリカの国民食「ボボティーサンド」

●次のひと皿を楽しみにさせる前菜

 

とりわけ記憶に刻まれたのがディナーの前菜だ。パッと目を惹く趣向を凝らした盛り付けが施され、春らしさや小さな驚きが散りばめられていた。初日「瑞穂」のディナーオードブル。サーモンにクリームを合わせ口に入れると、ふわりと春が香った。見た目には気づかなかったが、筍をクリームに忍ばせていたようだ。ほかにもスナップエンドウ、クレソン、うるいと、さりげなく旬が満載で、春旅を謳う旅のスタートにふさわしいひと皿だった。

 

最初のひと皿が美しく楽しいと、自然と次のお皿への期待が高まる。毎回最後までワクワクしながら食事を楽しめた。遊び心が光る一方で、奇を衒わない、丁寧に実直につくられているのが伝わる料理だからこそ、幅広い世代に支持されるのだろう。

三日目「瑞穂」のディナーは和食。ホタルイカ、しらす、春ほおずきと旬が詰まった春爛漫の前菜。おろしも桜色に
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三日目「瑞穂」のディナーは和食。ホタルイカ、しらす、春ほおずきと旬が詰まった春爛漫の前菜。おろしも桜色に

●隠れ家的バーで寛ぐ大人の時間

 

1日の終わりに、ホライズンラウンジの奥にある「ホライズンバー」へ向かう。昼間とは表情が変わり、重厚感のある隠れ家的な雰囲気に少し緊張したが、バーテンダーが優しい笑顔で迎え入れてくれてホッとする。

 

春らしい一杯をリクエストすると、オリジナルカクテルの「さくら」を勧めてくれた。焼酎をベースに桜リキュールとコアントローで風味付けした和風カクテルは、ふんわりとまるい甘味で清々しい余韻が心地いい。桜色の愛らしい佇まいと好みの味わいに思わず顔がほころぶ。

 

ゆっくりと味わい、別の一杯をお願いすると「吉野」という名のカクテルをつくってくれた。ジンに桃と紫蘇のリキュールを合わせた薄桃色のカクテルだ。吉野山がモチーフかと思い尋ねると、ホライズンバーの場所は元々「吉野」という名の茶室だったという。そのころの思い出を楽しむカクテルだそうだ。思いがけずにっぽん丸の歴史にも出会え、グラスを傾けながらバーテンダーと会話を交わす大人の時間を楽しんだ。

カクテル「さくら」。アペリティフ代わりにディナー前に訪れる人も多いそう。ノンアルコールカクテルも用意する
一貫から気軽につまめる寿司バー「潮騒」では、にっぽん丸という名の純米吟醸酒を。キリッとした辛口が口を調える

●頭を悩ませたクルーズファッション

 

はじめての乗船にあたり、最も頭を悩ませたのが服装だった。事前に受け取ったパンフレットにドレスコードの説明があり、今回は「カジュアル」。ラフ過ぎなければOKとのことだが、クルーズ経験者から夜はある程度ドレスアップした方が楽しいというアドバイスももらった。

 

その場の雰囲気を壊さずに、オシャレを楽しみたいが、荷物は増やしたくない。これではラフすぎるか、これだとやりすぎかと、ひとりファッションショーを繰り返した末、服はあまり変えずにアクセサリーで変化をつけることにした。紺や黒など暗い色の服が多いので、色味のある大ぶりのピアスやカラフルなブローチをたくさん持参し、朝昼晩と付け替えて楽しんだが、とくにブローチは話のタネにもなり、作戦は概ね成功だったように思う。

 

船内を観察したところ、日中は動きやすいカジュアルな服で過ごし、日が落ちたころにワンピースやスカートに着替えドレスアップする方が多くいた。ディナーやコンサートでは、着物やカクテルドレスをお召しの方をちらほら見かけ、花を添える存在として一際輝いていた。

 

僭越ながら筆者自身の反省点を述べると、ひとつはデッキを歩く機会の多い日中は、海風に吹かれても影響のないパンツスタイルがベストだという点。もうひとつは、荷物が増えることを極端に避けた点。先に述べた通り、クルーズ旅行では荷物の負担が少ないので、荷物が増えても着替えを用意してその場を楽しんだ方がずっと思い出深い旅になっただろう。

乗船時につけたツバメは、必ず巣に戻るその習性から無事の帰還を願うモチーフとして古くから船乗りに人気。ティータイムには間食を意味する「点心」のピンバッチをつけた

●楽しんだもの勝ち

 

乗船を経験した今、思うことは「自分らしく楽しんだもの勝ち」だということ。すべての旅に共通する認識ではあるが、改めて感じたことだった。

 

今回のクルーズでは、どの場もカジュアルな服装で浮くことはなかったと思う。しかし、オシャレを存分に楽しんでいる方を見かけると、こちらまで楽しい気分にさせてくれた。それは服装に限ったことではない。船室のドアにマイマグネットを貼り付けている部屋がたくさんあった。目印になるだけでなく、自分の帰る場所だという愛着も生まれるだろう。前述のパスケースも同様だ。

 

クルーズ船で会った乗客は、そういった旅の余白の楽しみ方を知っている方が多かったように思う。そして、クルーズを隅々まで楽しんでもらいたいというクルーの意気込みも端端から感じた。

 

次回のクルーズ旅に備えて、にっぽん丸のマグネットとピンバッチを購入した。反省点を活かせる日が早々に来ることを願うばかりだ。

船室のドアに付けられたマグネット。マグネットにも個性が溢れ、船室前の廊下を歩くとギャラリーのようで楽しい
ショップ「アンカー」では、オリジナルのネックストラップやマグネットを発見。集めるコレクターも多いそうだ

<取材メモ>

春旅にっぽん丸 ~和歌山・英虞湾周遊~

日程:2023年4月1日(土)〜4日(火)

コース:東京〜和歌山〜英虞湾〜東京

クルーズ代金:15万円(スタンダードステート)〜67万8000円円(グランドスイート)

船名:にっぽん丸(商船三井客船)

総トン数:2万2472トン

乗客定員:449人(最大)/乗組員数:230人

https://www.nipponmaru.jp

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