クイーン・エリザベス(キュナード・ライン)日本発着
英国文化と日本の伝統 ともに感じる、静謐な船旅

クイーン・エリザベス(キュナード・ライン)日本発着 英国文化と日本の伝統 ともに感じる、静謐な船旅
CRUISE STORY
クルーズストーリー
2023.06.28
英国船「クイーン・エリザベス」に乗船できると知り心が躍った。
長きにわたり多くの人々に愛される理由を探ってみたかったからである。
しかも乗船するのは日本周遊コース初の試みとなる英国音楽を
テーマとしたクルーズで、ビートルズバンドのショーも楽しめる。
はやる気持ちを抑えながら、韓国の釜山で荘厳な船に乗り込んだ。
写真=田村浩章 文=冨永真奈美
約6,000冊の蔵書を擁するクイーン・エリザベスのライブラリー。ここで本を借り、思い思いの場所で読書を静かに楽しむ乗客が多い

乗船後、グランド・ロビーから出発し、デッキ1から10まで散策した。船内はアール・デコを基軸としながらもモダンかつシャープな直線美で統一されている。その中にアール・ヌーボーを思わせる曲線美の要素も。例えば壁面などに植物を連想させる豪奢な装飾が見られた。3層吹き抜けの構造などを採用した広々とした空間には、上質な木部が多く間接照明やステンドグラスが絶妙なバランスで配され、英国風の温かな空間が生み出されている。ソファやフロアは重厚感あふれるベルベット調で、扉や柱に施されたリブ線の掘り込みなどのディテールもすばらしい。古きものと新しきものが調和した品位あふれる船内だ。184年の歴史を持つキュナード・ラインが、時代の移り変わりを反映させてつくりあげた空間の中で思わずため息をついた。

 

釜山港に停泊するクイーン・エリザベス。釜山の自然と都市景観にしっくりとなじむ、白と黒を基調とした堂々たる船体だ。赤のファンネルが寒色の風景に華やかさを添えている
CRUISE GALLERY
釜山港に停泊するクイーン・エリザベス。釜山の自然と都市景観にしっくりとなじむ、白と黒を基調とした堂々たる船体だ。赤のファンネルが寒色の風景に華やかさを添えている

●英国流の優雅な一日

 

散策後、カフェ・カリンシアで「エリザベス2世」と名付けられたジンベースのカクテルを味わった。カフェの外を見ると、ドレスアップした人々が談笑しながら行き交っている。聞こえてくるのは日本語や英語。もうディナータイムだから、ドレスコードのスマート・アタイアー(スマートカジュアル)に合わせおしゃれをする人々が増えてきたのだ。ディナーの前に、食前酒としてワインやカクテルを楽しみながら「釜山での冒険」について報告しあう人々もいる。この船はすでに横浜から釜山まで5日間の航海を終えており、優雅なリズムができあがっているらしい。そこに途中から交じった筆者はまさに異邦人。ちょっと高速でリズムの一部にならないと。ディナーに向けてドレスアップするために客室に向かった。

ブリタニア・レストランは、利用乗客数が最も多く最も活気を感じられるダイニングだ。食事時間の指定のない「オープンダイニング」のサービスもある
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ブリタニア・レストランは、利用乗客数が最も多く最も活気を感じられるダイニングだ。食事時間の指定のない「オープンダイニング」のサービスもある

●助けを求める前のサービス

 

翌2日目は終日航海日。遅めに起床して、ブリタニア・レストランで朝食を取った。英国式朝食を頼もうとしたが、どうにも勝手が分からずメニューを見つめていた。するとウェイターが「どうされましたか?」と横に立ってくれる。このように船上では、助けを求める前に助けてもらうことがしばしば起こった。「ホワイトスター・サービスに根差す親身な対応だな」と感心した。

 

カフェラテを飲みながら一日の計画を立てる。船内Wi-Fi(無料)を使ってスマートフォンからデイリー・プログラム(英語版)閲覧のほか、スパやダイニングの予約も行えるから便利だ。筆者はデイリー・プログラムを日英版両方とも紙で入手し、チェックしながらイベントの数の多さと内容の充実ぶりに目を見張った。ショーや楽器演奏などの娯楽はもちろん、専門家による芸術や社会問題をテーマとした講演も開催される。ブリッジやクリケットなど英国のゲームやスポーツも体験でき、乗客同士が交流できるイベントも豊富(適宜通訳あり)。単に数が多いのではなく、知的探求心を刺激する魅力的な内容となっている。英国文化を体験する一日となるよう、プログラムに線を引いていった。

グランド・ロビーの中心にあるのは、エリザベス2世の甥で彫刻家である第2代スノードン伯爵が手掛けた寄木細工だ。卓越した美術品を間近で眺められる

●マナーを守りながら楽しむ乗客

 

朝食後船内を歩くと、あちこちで読書を静かに楽しむ人々を見かける。適宜マスクを着用したりエレベーターを譲り合ったりなど、どの国の人もみな落ち着きがあってマナーが良い。まだ乗船2日目ながら、「静謐」という言葉が似合う船だと感じ始めていた。

 

ゴールデン・ライオン・パブで英国名物フィッシュ&チップスのランチを楽しみ、午後3時にはアフタヌーン・ティーを体験するためにクイーンズ・ルームへ。ハープの音色が響く中、定刻になるとウエイター達がメインフロアの両端に整然と並んだ。うやうやしく一礼した後、紅茶を注ぎ、ついで銀のトレイに並んだサンドイッチやスコーンを丁寧にサーブしていく。これほどしっとりとした食感のスコーンとクロテッド・クリームを食べたことがない。ある日本人の乗客は「英国発祥のお茶の習慣を英国船で楽しめるなんて理想的よね」とほほえむ。皆が穏やかな午後のひとときを満喫していた。

 

フィッシュ&チップスなどの英国風ランチを楽しむ。ビールの他、ワインやカクテルも豊富にそろう
アフタヌーン・ティーの紅茶は格別な味わい。「1日10杯紅茶を飲む!」という英国人もいた!
ガーデン・ラウンジは実は隠れ家的なカフェバーだ。ただ通り過ぎてしまいがちだが、リピーターに人気のある場所はガーデン・ラウンジなのだとか
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ガーデン・ラウンジは実は隠れ家的なカフェバーだ。ただ通り過ぎてしまいがちだが、リピーターに人気のある場所はガーデン・ラウンジなのだとか

●船内に広がる紳士淑女の世界

 

ディナータイムを境に、乗客たちの服装がどんどん華やかになっていく。世界の客船の服装が軽装化していくなか、クイーン・エリザベスは今なお船旅ならではの盛装を楽しめる客船である。この夜はマスカレード・ガラ・イブニング。仮面とフォーマルドレスで装い、社交とラテンダンスを楽しむ夜だ。ある日本の乗客は「ロングドレスを着て社交ダンスなんて王室のパーティを体験してるみたい。夫婦のポートレートを撮ってもらったの」とうれしそう。

 

ダンスの前にブリタニア・レストランでフルコースディナーを楽しむ。英国料理の牛フィレ肉のウェリントンや、クレオール料理の豚バラ肉とクレイフィッシュの煮込みなど、多国籍なメニューだ。愛好家をうならせるワインリストには、日本ワインや日本酒も掲載されている。ソムリエがペアリングのアドバイスもくれるので実に頼もしい。キュナードが提携するローラン・ペリエのシャンパーニュをはじめ、銘醸地サンテミリオンの美味なメルローを選んでくれたおかげで、食事がとてもパーソナルな体験になった。ダイニングではまた、気軽にワインを持ち込み食事とともに楽しむこともできる。(持込料は25ドル)。釜山で購入した普段飲みによい手頃な価格のワインを持ち込んで飲んでみたところ、ソムリエがサーブしてくれたせいか、いつもよりも味わいが格段に増したように感じられた。

牛フィレ肉のウェリントンは乗船中一度は食べてみたい逸品だ。総料理長のデモもありレシピも入手できるから自宅で作ってみてはどうだろう
乗船中、ブリタニア・レストランのソムリエが勢揃い!チーフ・ソムリエが中心となり、乗客の要望に応じて食事に合うワインやその他のお酒を選んでくれるから心強い。ワインの説明を聞くのも楽しいイベントのひとつと言えよう
ローラン・ぺリエの「グラン シエクル」をいただく。何を飲むかに悩むことがあったら、頼もしいソムリエに質問したい
食欲を刺激する前菜の熱燻製サーモン。前菜、主菜、デザートすべて、4種類から選べる
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