飛鳥Ⅱでめぐる小豆島・阿波
美食、美酒、美景をたっぷり味わう6日間
横浜を出港したクルーズの2日目は、まず終日航海日だった。日の出に合わせてデッキを散歩してみる。日の出前は暗い青紫色だった空と海に日の光が差し始め、淡いピンク、黄、橙の色合いが重なっていく。まるで冬が明け、春と夏が過ぎて秋を迎えた日本の四季を見ているよう。船上で迎える秋の夜明けは本当に美しい。
■秋のムードを五感で楽しむ船上ライフ
船内もハロウィンの飾り付けなど秋の雰囲気でいっぱいだ。この日はもっぱらパームコートやビスタラウンジで過ごした。ほぼ全面窓に囲まれたこの場所は、陽光を浴びながらくつろげる絶好の場所なのだ。季節限定ドリンクの香ばしいアップルラテを楽しめるのは船内でここだけというのも、足が向く理由のひとつだ。
乗組員とおしゃべりをしているといつの間にか夕日が差し始め、インフォーマルのドレスコードに合わせてドレスアップする人々が増えてきた。華やかな雰囲気の中、ダイニングでソムリエ厳選のワインをおともに秋刀魚などの秋の味覚を取り入れたフレンチディナーを楽しむ。その後すぐに部屋に戻るのはもったいないので、ハロウィンディスコに挑戦してみた。禍々しくも可愛らしいおばけからダンスの指南を受け、おやつまでもらい、すっかり童心にかえった気分のままスヤスヤと眠りについた。
翌日3日目の早朝、小豆島の坂手港に到着した。テンダーボートから上陸すると、迎えてくれたのは島の可愛らしい幼子たちだった。目をぱちくりと見開き一生懸命太鼓を叩いて歓迎してくれる幼子たちは、この島を舞台にした小説『二十四の瞳』の子どもたちを思わせる。
■四国瀬戸に浮かぶオリーブの島を巡る
さて、四国瀬戸の小豆島ならではの景観をめぐる寄港地観光ツアーが始まった。バスの窓枠を通して、ちらほらと紅葉する山々、小豆島名物であるオリーブの木々、ギリシャ風車、空、そして海景色が混然一体となって1枚の絵画のように浮かび上がる。その暖かな風景から、オリーブの栽培に適したこの島の気候と豊かな土壌が伝わってくる。
最初に訪れたのは宝生院の真柏(シンパク)だ。お遍路でめぐるこの霊場の境内には樹齢1600年以上の大木がたたずみ、四国の島ならではの霊験あらたかな風土がうかがえる。ツアーの後半は「迷路のまち」を歩くツアーだ。土渕海峡という世界一狭い海峡をスタート地点として、白壁の多いほのぼのとした町を歩いていく。しかしその平和な外観とは裏腹に、この不規則な細い路地が作られた理由は海賊や戦乱から町を守るためだったという。地元のガイドさんがいなければ、西光寺の五重塔が見える場所までになかなか辿り着けなかったかもしれない。
こうした旧市街のような趣の町を抜けた先にあるのが、天使の散歩道(エンジェルロード)と呼ばれる砂州だ。潮の満ち引きによって小豆島側と沖にある4つの小さな島々の間に道が現れる。大切な人と手をつないで渡ると願いが叶うと言われるこの道を、カップルが幸せそうに歩いていた。
この日の夜の食めぐりディナーでは、小豆島名物オリーブの恵みあふれる和夕食を堪能した。オリーブを使った飼料で育まれたサーモンや牛肉が、お刺身やすき焼きに姿を変えてテーブルに並んだ。その滋味に富む味わいはオリーブのすこやかな風味を思いださせる。そういえば小豆島には史上最高齢の一卵性双生児の方が住んでいるらしい。飛鳥Ⅱのオリジナルオリーブオイルを作る井上誠耕園(オリーブ農園)には、オリーブオイルを使うようになってから動脈硬化検査の結果が大幅に改善したという人もいるそうだ。そんな話も腑に落ちる美味な夕食であった。
夕食後の楽しみは、浪曲師の玉川奈々福氏による浪曲独演会だ。曲師と二人で繰り広げられた古典演目「仙台の鬼夫婦」はあっぱれの一言。押しかけ女房である武家の娘お貞が、武術を通して博打におぼれるこれまた武家の男を立ち直らせるという爽快な筋書きである。海外でもブラボーの喝采が上がったとのこと、落語や講談と並ぶ日本の三大話芸に感服した夜ともなった。