空と海の間に
これまで数多くのクルーズに参加したジャーナリストがつづる、
時に泣けて時に笑えて存分に役に立つ、クルーズ・エッセイ。

〈第11回〉クルーズは大人のインターナショナルスクール!?
これといった特技や趣味がない私は、いつも「何か習い事でもしたいな」と思う。昨年秋、いつもは見ずに捨ててしまう母校の卒業生向けの新聞をたまたま眺めていて、週1回、夜7時から1時間半の「学び直し講座:マーケティング」という講座を見つけた。全4回でひと月だし、受講料も高くないので思い切って通ってみた。今更大学で、大学院教授の授業を受けるのは緊張したが、知らないことが多く、とても興味深かった。
ただ、よく考えるとクルーズでも多くの“講座”が行われている。料理や語学、寄港地にまつわる歴史や文化講座、運動もヨガからダンスまで実に多彩だ。ほぼ無料だから気軽に参加して、楽しければ陸で本格的に習えばいい。
そう思うのだが、寄港地めぐりや船内の娯楽施設を楽しんだり、本業の取材をしたりで、本気で講座に参加することがなかった。
一番後悔しているのは社交ダンスを習わなかったこと。今は社交ダンスの教室がある船は少ないが以前は多くの客船で当たり前のようにあった。基本だけでも習っておけば、サルサやズンバなど今どきの教室にも参加しやすいだろうし、正しい姿勢や美しい動きが少しは身に付いたかもしれない。
反対に最近よく参加している教室がある。私が日常から苦手な「料理教室」だ。料理にこだわるいくつかの船会社が船内に立派な専用のキッチンを設置し、料理教室を開催しているのだ。キッチンや料理教室の様子を写真に撮りたいので参加するのだが、普段料理をしない私は一人うろたえる。この夏も船上で、郷土菓子を作る教室に参加したが、不安で周囲の人に「これで大丈夫?」と聞きながら作業を進めた。
教室の後、私を助けてくれた両隣の女性と前にいた女性と仲良くなった。聞いてみると、ブラジル、メキシコ、シンガポールからの乗客だった。その後、一緒に食事をしたり、イベントに参加しながら、いろいろな話をした。
夕食の予約時間を私が19時にすると、メキシコ人とブラジル人は「え、21時くらいがいいのでは?」と驚く。ショーも内容によって皆感想が違うが、フラメンコがあった時はラテン系の2人は真剣に観ていたのは印象的だった。
小型客船でも乗客はもちろん、クルーを入れると出身国は40カ国を下らない。限られた空間にこんなにも違う国の人が集まっているのは客船以外ない気がする。日本周遊している外国船にも外国人がほどよく混じっている。
大きな声では言えないが、会話を交わす前に「あの人はどこの国の人だろう」と同行者と当てっこをすることもある。立ち振る舞いや表情、話し方など、あらゆるものをヒントにするのだ。これはきっかけにすぎず、お互い余裕があれば、「どこからいらしたのですか?」と会話の糸口になる。
そう考えると、客船はいろいろな教室や講義もある上に、「文化人類学」を生で学ぶことができる。私はいつも「客船って大人のインターナショナルスクールのようだな」と思っている(さらに寄港地でもいろいろな国やエリアの人に出会えるから“移動式”の学校だ)。
今なら携帯電話の地図アプリでどんな小さな街も位置や概要を知ることができる。自分に馴染みのない国や街を言われたら、なるべくその場で位置やどんなところなのか調べるようにしている。そうするとまた話題も広がっていく。
以前、船内の温度が低すぎてあやうく風邪を引きそうになったことがある。自分なりにビタミンCの錠剤や葛根湯を飲んだり、背中にカイロを貼って予防した。その後、ディナーに行くと、東欧出身で同じテーブルの方が「温かいお湯とスライスしたレモン、ハチミツ、あれば生姜を持ってきてもらいましょう」と頼んでくれたことがあった。聞けば、体調を崩しても、母国では基本的に食べ物で治すという。
風邪の場合は日本でも似たものを摂取するが、いろんな国の“家庭の知恵”を知ることができ、これも貴重な体験となった。
特技や趣味はまだ見つからないが、客船に乗っている間は何歳になっても、学びや新しいことに挑戦できる機会があるのがうれしい。



藤原暢子〈ふじわら・のぶこ〉
クルーズ・ジャーナリスト。これまで国内外140隻以上の客船・フェリーで約90カ国をめぐる。長崎市生まれ。4人姉妹の4女ながら、五島列島にある先祖のお墓参り担当。






