空と海の間に
これまで数多くのクルーズに参加したジャーナリストがつづる、
時に泣けて時に笑えて存分に役に立つ、クルーズ・エッセイ。

〈第10回〉休暇に小型ラグジュアリー客船を選ぶ理由
客船といっても色々なタイプがある。私はユニークな施設などがそろう大型客船からシンプルで小さな客船まですべて好きだ。
ただ少し長い休みが取れて、夫と休暇で乗るのは小型客船を選ぶことが多い。小型客船は乗客定員が100~700人くらいなので、いわゆる“ラグジュアリー”船となり、クルーズ代も高い。夫は年に何度もは長い休みが取れないので、「たまのクルーズなら金額も大目に見てくれる?」という私なりの企みもある。
小型のラグジュアリー客船はアルコール代が無料の場合がほとんどだが、私たちは共に下戸だし、料理にこだわりが強いわけではない(素材がよければ十分くらい)。
なのに、なぜ小型船を選ぶのか。それは大型客船にあるような楽しそうな施設や、観たくなる華やかなショー、気になるイベントなどが、あえてないからだと思う。
さまざまなことに好奇心を持ってしまう私たちは大型客船に乗るとあれこれやってみたくなるし、ショーなどの時間を気にして船内新聞とにらめっこしながら動き回りそうなのだ(同乗する人によっては、大型客船にしてそういう時間や行動を楽しむこともある)。
小型客船ならチェックインも船内ロビーのソファでできるし、移動に費やす時間や労力が少ない。私たちの場合は、“休暇は並んだり、待ったりするストレスのないこと”が、一番の優先順位だ。
客室のバルコニーやプールサイド、眺めの良いラウンジでのんびり海を眺めたり、時に乗客の方やクルーと話をしたりする。乗客も少なく、クルーもゆったりしているので顔見知りになりやすい。他の乗客も私たちと同じような休暇を求めて乗っている人が多そうだ。
「クルーズの魅力の一つは人との出会い」と思っている私にとっては自然に会話が始まるような小型船の環境がこれまたちょうどいい。
バーやラウンジではドリンクの支払いがないので何も頼まなくても肩身の狭い思いをせずにすむというのもある。反対に「ちょっと小腹が空いたな」と思った時に「何か食べるものありますか」と聞けば、見繕って持ってきてくれるのもありがたい。こういうさりげないサービスができるプロが働いているのも小型船ならでは。
乗客の名前同様、言動も把握して、「この人たちはこういうサービスを求めている」と、あっという間に察知して対応してくれる。
小型船の良さとして、大型船が入れないような小さな港に入れるというのがある。もともと積極的に観光をする夫婦ではないので、小さな港町だけ下りて、その地の人々の生活や地元のお店をのぞくだけで十分満足できる。見知らぬ街で見たり出会ったりした何気ないことが旅で一番印象的となることも多いのだ。あえて下調べもせず、何か面白いものを偶然見つける。携帯電話のネットで調べると意外な歴史を持つ街だったり、その特産品に興味深いストーリーがあったりするのだ。道を聞いたり、カフェなどで、地元の人と愉快な展開が起きることも多い。
のんびりと船に戻ると、船の入口でおしぼりを渡され、客室でしばしくつろぎのシエスタタイム。気が向いたら夕食に出向く。レストランの窓際の席で海を見ながら、おいしい料理をいただく(重めの食事なら少しアレンジを頼む)。
食後は小さなデッキをぶらぶら歩いたり、船内の絵画やインテリアを眺めたり、ピアノ演奏を聴いたりして1日を終える。
朝はほとんどルームサービスをバルコニーでいただくので目覚ましをセットすることもない。
こんな自分たちのペースでリラックスして過ごせる時間こそが、私たちが休暇や船旅に求めるもの。“ラグジュアリー客船”とは言うものの、 “ラグジュアリー”が何なのかは人それぞれに違うのが興味深い。
船内や寄港地で積極的にいろいろな体験をして、クルーズ後に、「あぁ、すごく充電できた。明日からの日常も頑張れそう」と思えるなら、それもラグジュアリーな船旅だと思う。
船の大きさや金額にこだわらず、自分の“心地よい休暇の過ごし方”を見つけられる船旅は実に奥が深い。



藤原暢子〈ふじわら・のぶこ〉
クルーズ・ジャーナリスト。これまで国内外140隻以上の客船・フェリーで約90カ国をめぐる。長崎市生まれ。4人姉妹の4女ながら、五島列島にある先祖のお墓参り担当。






