空と海の間に
これまで数多くのクルーズに参加したジャーナリストがつづる、
時に泣けて時に笑えて存分に役に立つ、クルーズ・エッセイ。

〈第15回〉クルーズだからこそ、知り合える&学べる、同乗者の好みや洋上の楽しみ方
以前、この連載で「個性的なタイプの客船やテーマクルーズなどは、それらに興味のある人を誘おう」と書いたことがある。船旅に興味がなくても、船上の絵画、音楽や料理、伝統芸能などに特化したクルーズなら、誘いやすいし、「船旅の楽しさに開眼してくれるかも」という期待を持って書いた。
ここ数回、何人かの友人や仕事仲間とクルーズに参加した。興味深かったのは、お互いの感性や楽しむポイントが違うと、気づきも多く、洋上での新たな過ごし方を知ることができることだった。
例えば、夏に一緒に乗船した女友達。船内のレストランを監修しているシェフがたまたま乗船していて、料理デモストレーションがあった。友人が真ん中に座ってシェフの説明を熱心に聞いている。料理好きとは知らなかった。分厚いレシピ本を買って、サインまでしてもらっている。確かにそのレストランはおいしかったので、彼女がそのレシピで料理を作る時は、家に押しかけて食べさせてもらおうと思った。同じ船でも私はその船内に展示してあるアートが気に入って、船内をぐるぐる回って鑑賞し、船上のアートについて1冊にまとめた「アートブック」を手に入れ、今も眺めている。
久しぶりに夫と3泊くらいの国内クルーズに乗った時も、私は居心地のよい場所を探してそこでのんびりしたり、各レストランやラウンジで使っている素敵な食器を眺めて楽しんだ。
一方、夫は下戸のくせに、小さなステージのあるバーに通い、ずっとジャズの演奏を聴いている。「音響もいいし、バンドのレベルが高いんだよ」とご満悦だ。私はジャズに疎いので、少しずつジャズの歴史や伝説のジャズマンの逸話などを教えてもらい、その後何度か一緒に演奏を聴きに行った。
船上では同乗者と長く過ごすので、今まで知らなかった相手の好みや性格まで垣間見られる。
それを最も実感したのが20年来の友人の、欧州人カメラマンと日本周遊クルーズをした時だった。
朝の弱い私と違って彼は毎朝、日の出の時間に起きて、朝日や港に近づく客船を見たり、人の少ない船内を歩いたりするのが喜びらしい。夕食を一緒に食べていた時に美しい夕日がちらりと見えた。「急いで食べてデッキに出よう」と言われ、仕方なくついていく。撮影をしながら彼は「こんな綺麗な夕日を、誰も見ないなんてもったいない」とずっと見入っている。
確かに空を赤く染めながら沈む夕日は、洋上でしか見られない壮大な景色だった。けれども30分以上眺め続けていて、私は体も冷えて足も疲れたので、こっそり船内に戻った。夕日もいいが、私は船内で乗客の人が楽しそうに過ごしている様子を眺めるのが好きだ。
後でお互いにそんな話をしていると、なんと彼は船上で朝食のルームサービスを頼んだことがほぼないという。朝食は毎日ルームサービスで食べる私は「騙されたと思って、明日の航海日はどちらかの客室で一緒にルームサービスを頼もう」と提案、実行に移した。
天気も気温もちょうどよい朝、大海原をゆっくりと船が進む中、バルコニーに朝食をセットしてもらった彼の客室にお邪魔した。貸し切りレストラン状態のバルコニーでコーヒーをすする。「この朝食環境、私には心地よくてぜいたく時間なの」と言うと、「なるほど、確かに」とまんざらでもない様子。10日間のクルーズだったので、時間もあり、このような自分たちの“客船での醍醐味”を紹介し合った。
彼とは海外で一緒に仕事をしたり、別の仕事で偶然同じ船に乗ったりすることは何度かあった。しかし、今回は日本周遊。彼を一番惹きつけたのは、各港を出港する時の“お見送り”だったようだ。
日本の港では地元の方や学生が太鼓やブランスバンド、ダンスなどを披露し、「来てくれてありがとう!」と見えなくなるまで手を振ってくれる。欧米ではこんな見送りはないので私もこれまであまり意識していなかった。
彼は出港の度に陸に近いプロムナード・デッキから見送りの様子をカメラに何枚も納めていた。私も毎回見に行くようになった。日本の港では、これが互いに新しい“船旅の醍醐味”となった。
クルーズには、違いを楽しみながら共有できることが溢れている。



藤原暢子〈ふじわら・のぶこ〉
クルーズ・ジャーナリスト。これまで国内外140隻以上の客船・フェリーで約90カ国をめぐる。長崎市生まれ。4人姉妹の4女ながら、五島列島にある先祖のお墓参り担当。






