空と海の間に
これまで数多くのクルーズに参加したジャーナリストがつづる、
時に泣けて時に笑えて存分に役に立つ、クルーズ・エッセイ。

〈第9回〉縁の下の力持ち、キャビン・スチュワードのありがたさを学ぶ
いつもなら夏は地中海クルーズや欧州をフラフラとさまよう私だが、昨年の夏は珍しく東京郊外にある自宅にいることが多かった。
私をイタリア留学に半年送り出した後、夫が「今のうち!」と思ったのか、たまたま売りに出ていた隣の土地を入手。そこに米国のエアストリームというキャンピングトレーラーのビンテージもの(1960年代製 )を探し回り、2台配置。1台をキッチン&リビング、もう1台を高級仕様の寝室スペース(トイレ&シャワー付き)に完璧に作り替えていた。
私が2022年の12月に帰国したときは、ピカピカに磨かれた銀色の宇宙船のようなトレーラーが鎮座し、周囲にはBBQの機械やソファが配置されていた。あとは春になって芝が緑になるのを待つばかり。夏に2メートル×5メートルのプールを設置して、「プライベート・グランピング」の完成&オープンとなった。
貸切だし、完全に塀で囲っているので、友人や子ども連れの家族が毎週2~3組泊まりにきてくれた。プールはもちろんBBQに花火と、私たちも一緒に楽しむ。
夫はBBQ用のプロパンガスを変えたり、プールの浄化装置や芝刈り機でメンテナンスもやっていたので、グランピング後の、宿泊スペースの片付け(トレーラーの中)は私の担当になっていた。
宿泊用のトレーラーにあるベッドは大きめのダブルサイズで3面を壁に寄せていた。お客さまが帰った後、私の作業は枕カバー剥がしから始まる。布団カバーとベッド用のシーツも外し、予備のものと取り替える。冷暖房完備とはいえ、ホテル仕様の大きめのカバーの交換を一人でやるともうぐったりだ(自宅での洗濯は諦め、クリーニング屋に持っていきピックアップするのも含む)。
湯船はないが、シャワーとトイレ、洗面台はあるのでそこも拭いて、使用済みタオルを取り替え、タオルは自宅で洗濯。歯ブラシやシャンプー、トリートメントなどのアメニティーと冷蔵庫のドリンクを補充して、部屋全体に掃除機をかけ、ゴミを集めて、ひと通りの掃除が終わる。もう一台のトレーラーにも予備のソファーベッドがあるので、こちらも簡易シーツやタオルケットを洗濯して戻す。
半日仕事を終えて、しみじみと思う。今まで当たり前のように船の客室を使ってきて、朝、夜とキャビン・スチュワードがすべてを整え、夜は枕元にチョコレートまで置いてくれていたけれど、なんという大変な仕事を続けてくれていたのだろう。
「毎日アイスペールには氷をたくさん入れておいてね」なんて当たり前のように頼んでいたのに廊下で会っても簡単なあいさつしかせず、キャビン・スチュワードのほうが「よい1日を」「ディナーを楽しんできてください」と笑顔で声をかけてくれていた。
クルーズには多くの楽しみがあるがベッドメイキングや清掃をしないでいい分、船旅がもっと楽しめるのだ……。トレーラーに座り込みながら、感謝と反省が込み上げてきた。
「確か1人で14客室を担当していると言っていたな」「ディナーに間に合わない! と脱ぎ散らかしていった服が客室に戻るときれいに畳んであったこともあったなあ」「忙しいのにタオルで動物作ってくれたりして……」「クルーズが終わって乗客が入れ替わる日が一番大変って言っていたな」。色々な思い出がよみがえる。
私の場合、一室のみの清掃(それも週に数回)ですでにギブアップ。秋に客船に乗った時はちゃんとキャビン・スチュワードの顔を見て感謝を伝えるようになった。
「いつも氷を忘れないでくれてありがとう」「シンクがきれいに拭き上げてあって、気持ちよかったです」など。クルーは「どういたしまして!」と軽く答えてくれる。
実は次に狙うのは迷惑覚悟でベッドメイキングの方法を見せてもらうこと。巨大なダブルベッドの布団カバーをどうやって変えて、シーツをどうやってマットレスの間に上手に挟み込むのか。シンクやシャワー周りを手早く掃除するコツはなんなのか。さまざまなプロが働く客船には私たちが日常生活のために学べることが多くある。



藤原暢子〈ふじわら・のぶこ〉
クルーズ・ジャーナリスト。これまで国内外140隻以上の客船・フェリーで約90カ国をめぐる。長崎市生まれ。4人姉妹の4女ながら、五島列島にある先祖のお墓参り担当。






