空と海の間に
これまで数多くのクルーズに参加したジャーナリストがつづる、
時に泣けて時に笑えて存分に役に立つ、クルーズ・エッセイ。

〈第12回〉趣味やテーマクルーズ、
船の特徴で好みの似た友人を誘おう!
昨年の秋、欧州に行かないとならない用事があった。トンボ帰りもできるが、航空券が高い昨今、何もせずに戻るのはもったない。インターネットで調べると、英国南部のポーツマス発着の5泊クルーズが見つかった。
それも2020年にクルーズ業界に参入した英国の「ヴァージン・ボヤージュ」の最新客船だ。レコード会社や航空会社などを擁するヴァージン・グループがクルーズ業界に参入するということで、実は2019年に予約していたのだが、コロナがあってキャンセルし、以降乗る機会を失っていた。
クルーズまでひと月を切っていたが、まだ空きがある。さっと1人で乗ってみようか……と頭をよぎった。ただよく見ると、年に1度、英国発と米国マイアミ発で行っている特別クルーズ。ヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソン氏が乗ってくる。彼は業界に参入しては想像もしない発想で切り込んでいく実業家だ。
私はブランソン氏に会えるだけで(それも客船の上!)満足だったが、彼がレコード会社をやっていた時にヒットを飛ばしたカルチャークラブというバンドのボーイ・ジョージも乗船するという。
音楽とダンスが好きな20年来のフランス人の友人、マリオンの顔が浮かんだ。25年ほど前に仕事で出会ったのだが、その後も連絡を取り合っていて、現在はアイルランドのバンドのボーカリストと結婚し、ダブリンに住んでいる。
旦那さんのバンドの日本公演がある時はわが家に泊まったり、私も客船をダブリンで降りると彼女の家にお世話になったりしていたが、パンデミックの後、ちょっと連絡が途切れ気味だった。
「こんなクルーズがあるけど、一緒に行かない?」と聞くと二つ返事で「行く!」とのこと。
パンデミックの間、フランス人のDJが毎日決まった時間にS NSを通して音楽をかけてくれていて、私たちはそれぞれの国で同時にその1時間のDJを聴いていた。なので、音楽がテーマのクルーズに誘うなら、彼女しかいないと思ったのだ。
ただ乗船を決めてからあまり時間がなかったので「細かいことは決めず、とりあえず船上でのんびり過ごそう」とだけ話していた。
船に関しては予想を裏切るほど色々なクオリティーが高かった。クルーたちは年齢や性別も関係なく自由に働けるので、実に親切だ。
私はつい取材根性が顔を出し、6つある要予約のレストランを制覇したくなったが、マリオンが手伝ってくれてすべてのレストランを試すことができた。どのレストランもおいしいし、インテリア、BGMもいい。マリオンは観光よりも船上のスパでのんびりくつろぎたいという。私も少しだけスパに付き合い、あとは船内を探検してお互い自由な時間も過ごした。
私たちの共通項は、音楽が好きなこと(ジャンルも広め)。各所で演奏される音楽を聴いてまわったり、実はノリのいい2人なので、夜は毎晩2時すぎまでクラブで踊り明かした。趣味が合うと、テーマクルーズはこんなに楽しめるのかと、正直びっくりした。
おいしいものを食べて、リラックスして、好きなことを楽しんで。そして残りの時間はじっくりと本音で話をした。過去のこと、現在の悩み、これからのこと。居心地のよいソファや空間が多いと、こんなに深い話もできるのかとしみじみと思った。お互いの距離がまたぐっと近づいた時間になった。
今までプライベートでは、夫と両親としか船旅をしたことがなかった。しかし、日本船も外国船でも、時々テーマを掲げたクルーズがある。同じ趣味や好みがあった人を誘えば、一緒に共通の “好き”も楽しめるし、仲も深まる。
まだクルーズに誘ってない姉はゴルペルを習っているから、「ゴスペルクルーズ」ならがんばって仕事を休むかもしれない。料理が好きなあの友人なら、航海エリアの料理が出たり、寄港地でも地元素材の生産地を訪ねたりするツアーを設けている客船なら乗りたがるかも……と、色々な顔が浮かぶ。
特徴のあるクルーズは趣味と友情を深められる旅なのだと、改めて気がついた。



藤原暢子〈ふじわら・のぶこ〉
クルーズ・ジャーナリスト。これまで国内外140隻以上の客船・フェリーで約90カ国をめぐる。長崎市生まれ。4人姉妹の4女ながら、五島列島にある先祖のお墓参り担当。






